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「涙」#掬することば

※2月4日の「World Cancer Day」に向けて、豆本詩集『汀の虹』の詩を、noteに1日1篇ずつ置いています。
22篇目は「涙」です。

Flowers 「ソフトストーベ」×「ルスカス」(2016.11 花店note)

昔から、人前でわんわん泣く方ではありませんでした。

友だちの転校も、故郷を離れるときも、卒業式も。中学から大学まで続けていた運動部や体育会でのチームスポーツも、負けたその時は泣けなかったり。もらい泣きなんていうものもほとんどなくて。変な時間差があって、あとになってひとりで泣いていたり。

誰かのことばに自分の心が動いて涙が溢れそうになっても「発した本人の気持ちと同じようには感じられていなかもしれない」なんて考えて、涙をこらえてしまったり。

それががんになってから、誰かにかけてもらったことばから涙が溢れたり、一緒に涙を流すことが増えました。

たとえば、がんによる大出血で緊急手術を受けた後、ふと思い立って連絡をした友人がいました。そのことを綴ったZINE『ココロイシ』の1ページです。

私なんかにありがとう

ようやく歩けるほどに回復した頃
ふっと顔が浮かんだ友人がいて メッセージを送った

自分から友人に連絡することはほとんどない人間なのに
離れた土地に住むその友人に何故だか伝えたくなり
流産したこと 倒れて入院したこと
手術翌日から抗がん剤治療中であることを淡々と綴り
その友人に突然送りつけてしまった

しばらくすると思いがけず電話が掛かってきて
「私なんかに言ってくれてほんまにありがとう」
とただただ泣いてくれて その声を聴くと
1度も流していなかった涙が溢れてきて
自分は辛かったのだと初めて気がづいた

もしも逆の立場で その言葉がかけられただろうか
彼女が友達で本当に良かった (『ココロイシ』より)

彼女の、涙で溢れたのだろう声を聴いて、流産後初めて、誰かの前でポロポロ涙と涙が溢れました。

がんの告知を受けた翌朝、一番最初に連絡をくれた妹のことばも忘れられません。

君の場合

頑張った方が喜ぶ人は多いんじゃないか 君の場合

癌告知された翌日 一番に「大丈夫?」と
メッセージをくれたのは4つ下の妹で
頑張りたくない人に無理強いはしないけれどと
断ったあとに 君の場合 と一文添えられていた

大丈夫ではない人に 大丈夫?と聞けるのも
頑張った方がと言えるもの妹しかいなかったし
誰のどの言葉よりも力をもらった

お調子者の姉と 要領のよい弟に挟まれた
とくかく不器用で損ばかりの妹
姉から頼んだ「一生のお願い」は数知れず
この日を境に一生でなくても 何でも聞いてくれて
陰では誰よりもショックを受けていたという
その存在そのものに 感謝してもしきれない

妹は泣いていたわけではないけれど、20年以上一番近くにいた人からのクールな一言。重みが違います。今でも読みなおすと目の奥からじんわり涙が溢れます。

大切ないのちを失い、自分のいのちもまた、そう遠くない未来に失われてしまうかもしれない。どこかでわかっているのに気づかないふりをしていたその不安に対して、まっすぐかけてくれたそのことばや涙が、わたしの本当の気持ちの呼び水になったような気がします。

それは、事実を同じように見つめてくれる人のことばや涙だったからこそ。溢れた涙で「自分を思い知る」。悪いことではありませんでした。

他者の思いやりに触れることで、途切れた感覚の糸をつなぎなおしてもらったのだと思います。

なみだ【涙】
1 涙腺 (るいせん) から分泌される液体。眼球をうるおし、異物を洗い流す作用がある。刺激や感動で分泌が盛んになる。
2 涙を流すこと。泣くこと。
3 人間らしい思いやり。人情。情愛。同情心。
4 名詞に冠して、ほんの少しの意を表す。
(デジタル大辞泉)
『汀の虹』のみちしるべ 
『汀の虹』は、がんによる孤独の中で握りしめていた“ことばの欠片”を道標に制作しています。握りしめていた“ことばの欠片”の大半は、それまでの人生で大切な人から贈られたことばや、何度も触れた本や音楽、映画のことばでした。

そこからことばをひとつ手にとってはタイトルとして置き、心の奥に沈んだ治療前後の記憶を一つずつ掬い上げ、重ね綴っています。この本や歌、映画の中にあることばや情景をみちしるべにしていたような…という作品のタイトルだけ、最後に添えていきます。(以下、敬称略)

「涙」
森山直太朗『生きてることが辛いなら』
宇多田ヒカル『FINAL DISTANCE』
BUMP OF CHICKEN『supernova』

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ZINE作家。“大切な記憶”を小さな手製本に綴じています。 本づくりの移動アトリエ「記憶のアトリエ」/豆本で記憶をつなぐ「掌の記憶」/ 連載「まなざしを綴じる」(教養と看護) / 希少がん(絨毛がん)経験者 / 社会福祉学 https://michi-siruve.com/
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