1-2たった一言で

「たった一言で」#掬することば

※2月4日の「World Cancer Day」に向けて。豆本詩集『汀の虹』の詩を、noteに1日1篇ずつ置いています。
2篇目は「たった一言で」です。

Flowers 「ハニーテイル」×「白樺」(2016.11 花店note)

「がんを経験した3年間の心の変化を綴ろう」と決めて「汀の虹」の1篇を置いたあと、最初に浮かんだ問いは「どこからはじめるのか?」ということでした。

わたしの場合、絨毛がんになったという出来事は、「たった一言」からはじまりました。

今から5年前の2014年1月11日。29歳の終わりに産婦人科の診察室で手渡された「妊娠」という一言。母になりたいと願っていたわたしにとって、その一言、初めての妊娠は待ち望んでいたしあわせでした。

その時に手渡された「おめでとうございます」と書かれた黄色い紙は、捨てることができなかったのか。昨年末にがんの治療の記録をおさめたBOXを整理していたら、一番奥から出てきました。

でも、その先に待っていたのは悪夢のような日々でした。 診察室に入る度「流産」「手術」「胞状奇胎」「大学病院」ということばを次々と受けとり。大学病院へ転院してからは「存続絨毛症」「臨床的侵入奇胎」「絨毛がん」「抗がん剤」…そして「寛解」。2014年1月~6月の半年間は、たった一言で今までのすべてが崩れ落ちてしまうような。昨日までの自分ががらりと変わってしまうような期間でした。

そんな“一言”ががんのはじまりであり、同時にその重みは「がんになったからこそ気付いたこと」でもあります。

1年前に綴った「World Cancer Dayに寄せて」という文章にも、この詩を添えてそんなことを書いていました。

ちなみにわたしが「がんになって見つけたコト」は“言葉の重み”かなと。

闘病でボロボロになっていた頃、自分に向けられた言葉、街中やSNSでふいに飛び込んでくる些細な一言が心に刺さり、塞ぎこんだことが何度もありました。そしてそれ以上に、今までの人生で力をもらった言葉に救われ、めいっぱいの思いやりでそっと届けられた一言に励まされ、たくさんの言葉を握りしめながら自分が紡ぎ直した言葉に生き直す力をもらいました。

たった一言。その一言の“言葉の重み”こそ、わたしががんになって見つけたことです。

5年経ってさらに考えるようになったのは、時間差でやってくることばの重みについてです。

わたしはがんが判って間もなくがんを公表したことで、励ましのことばをたくさん受けとる機会がありました。それで頑張る、踏ん張ることができたことももちろんあります。でもある日、受けとってきた「頑張って」がどうしようもなく重たくなって、崩れてしまった瞬間がありました。

今思うと、長年チームスポーツのフィールドで過ごしたわたしは「頑張って」という励ましに、感謝して努力で応えるという癖がついていました。先の見えない抗がん剤治療から思い浮かぶ「闘病」ということばに、戦わなくては。勝たなくては。という気持ちが働いて、励ましのことばを求めていたところもあったのかもしれません。

でもそのうちに、その励ましに応えられない自分がだめなような気がして潰れてしまった時期もありました。若くしてがんになるという先の見えない不安の中を歩き続けるには、そのことばは重すぎました。重すぎると気がつくまで、随分時間がかかったように思います。

一方で、あとになってそのことばの思いやりに気づいたというような、時間差で気がつく一言の重みもありました。

そのことばは、目の前のことと過去しか見れなくなっていたわたしの、少し先の未来のことを想って、ことばもタイミングも距離感も考えて考えて、そっと手渡された一言でした。その重みは重荷ではなく、深い深い思いやりでした。

「たった一言で」。がんという不安の中でことばを受け取ってきた一人として、前者のことばを投げつけていないか。できれば後者に近いことばを手渡せる一人でありたい。このnote「掬することば」も、こっそり置いては読みなおし、誰かの声に触れるたびにはっと気づかされて。消したり描いたりの繰り返しです。

それでも「一言」を見つめることはら離れずに。寛解から1日、また1日と過ぎて当時の記憶が少しずつ遠ざかりつつある身として、その「一言」に常に立ち返ることができるよう、置いた詩です。

ちなみに、文末の『汀の虹』のみちしるべで紹介している歌は、大切な友人が車の中で流してくれた歌です。

人生で一番忙しく働いていた25歳の夏。同期の友人4人で静岡までフェスに行った帰り道、最後に2人で語り合っていた時に流してくれた歌でした。その頃わたしは過労で持病が悪化し悩んでいて、その友人も入院するほどの病気を経験していて。会社や居酒屋、病院、旅先で…愚痴やら悩みやら夢やら、人生の丸ごとを語り合っていたような。

「消すとかじゃなくて、自分で描き足すっていうのがいいなって思ってさ」

大学生の頃から時々聴いていた歌だったけれど、その友人が添えた一言が心に響いて、良く聴く歌のひとつに。がんによる大出血で緊急入院して自分を見失いそうだったときも、ふと思い出してよく聴いていました。

詩の結びに添えている「いつか新しい一言を描くために」は、その友人がくれたことばです。

たった
1 数量が少ないことを強調するさま。わずか。ほんの。
2 ごく近い過去を強調するさま。
3 ひたすら。いちずに。
(デジタル大辞泉)
ひとこと【一言】
1 一つの言葉。一語。
2 ちょっとした言葉。短い言葉。
(デジタル大辞泉)
『汀の虹』のみちしるべ 
『汀の虹』は、がんによる孤独の中で握りしめていた“ことばの欠片”を道標に制作しています。握りしめていた“ことばの欠片”の大半は、それまでの人生で大切な人から贈られたことばや、何度も触れた本や音楽、映画のことばでした。

そこからことばをひとつ手にとってはタイトルとして置き、心の奥に沈んだ治療前後の記憶を一つずつ掬い上げ、重ね綴っています。この本や歌、映画の中にあることばや情景をみちしるべにしていたような…という作品のタイトルだけ、最後に添えていきます。(以下、敬称略)

「たった一言で」
Mr.Children『Any』

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ZINE作家。“大切な記憶”を小さな手製本に綴じています。「記憶のアトリエ」/ 連載「まなざしを綴じる」(日本看護協会出版会) / 希少がん(絨毛がん)経験者 #AYA世代 #zinester https://michi-siruve.com/
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