1-9耳を澄ます

「耳を澄ます」#掬することば

※2月4日の「World Cancer Day」に向けて、豆本詩集『汀の虹』の詩を、noteに1日1篇ずつ置いています。
9篇目は「耳を澄ます」です。

Flowers 「アジサイ」×「ブルーファンタジー」×「ハイブリッドスターチス」×「フィンランドモス」(2017.5 花店note)

耳を澄ますという行為は、 病室のベッドに何週間も沈んだ時間の中で、唯一得たもののような気がしています。

初めて「耳を澄ます」という行為と真剣に向き合ったのは、入院中の祖父を見舞い、ベッド脇に居た時のことでした。それから十数年。自分が患者になり、何週間もベッドに沈みながら、何度もその時のことを思い出していました。

仕事からも離れ、暮らしからも離れ、起きている間はただただ術後の痛みと抗がん剤の副作用に耐える日々。今までのすべてから切り離されてしまったような、すべてが断ち切れてしまったような空間。ぐっすり眠るなんて感覚も、とうに失っていました。

痛みで目覚めると、真夜中の病棟はしんと静まっていて。その静寂の中にいると、それまでの人生で聴き逃したたくさんの音が聴こえてくるような気がしました。

お見舞いにきてくれた人との間に流れる沈黙の奥にも、お互いに声にならない想いがあって。送りあったメッセージにも、文字の余白には綴れなかったたくさんのことばがある。

今までの人生、どれだけ聞き逃していたんだろう。むしろことばにできないものばかりで、声に出せないことばかり。 そんなことを思い知りながら、ただただ耳を澄ませたあの静寂。

上手くことばにできないけれど、あのとき耳を澄ました時間があったからこそ、今のわたしがある。そんな風に感じています。

みみ【耳】
1 頭部の左右にあり、聴覚および平衡感覚をつかさどる器官。哺乳類では耳介 (じかい) (耳殻 (じかく) )が張り出し、鳥類とともに外耳・中耳・内耳の3部分からなる。爬虫 (はちゅう) 類・両生類では中耳・内耳があり、鼓膜が露出。魚類では内耳だけで、平衡器としての働きが大きい。
2 聞く能力。聴力。また、聞くこと。聞こえること。
3 耳のように器物の両側についている部分。取っ手。
4 紙や食パンなどのふち・へり。織物で、横糸が折り返す部分。
5 針の糸を通す穴。めど。
6 本製本の書籍で、背の両側のやや隆起した部分。
7 兜 (かぶと) の吹き返しの異称。
8 大判・小判のふち。転じて、その枚数。
(デジタル大辞泉)
すます【澄ます】
1 液体の、にごり・よごれなどの不純物を除いて透き通った状態にする。
2 気持ちを落ち着かせて雑念のない状態にする。
3 (「耳をすます」「目をすます」の形で)よけいなことを考えないで、その事一つに注意・意識を集中する。
4㋐そのようなことは自分に関係ないという顔をする。平然と構える。平気でいる。
㋑まじめなようすをする。気どる。
5 洗い清める。
6 世の中を落ち着かせる。平定する。
7 ㋐一つのことに心を集中してその行為をする。
㋑完全に…する。
(デジタル大辞泉)
耳を澄ます
聞こうとして注意を集中する。耳をそばだてる。
(デジタル大辞泉)
『汀の虹』のみちしるべ 
『汀の虹』は、がんによる孤独の中で握りしめていた“ことばの欠片”を道標に制作しています。握りしめていた“ことばの欠片”の大半は、それまでの人生で大切な人から贈られたことばや、何度も触れた本や音楽、映画のことばでした。

そこからことばをひとつ手にとってはタイトルとして置き、心の奥に沈んだ治療前後の記憶を一つずつ掬い上げ、重ね綴っています。この本や歌、映画の中にあることばや情景をみちしるべにしていたような…という作品のタイトルだけ、最後に添えていきます。(以下、敬称略)

「耳を澄ます」
BUMP OF CHICKEN『メロディーフラッグ』

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ZINE作家。“大切な記憶”を小さな手製本に綴じています。 本づくりの移動アトリエ「記憶のアトリエ」/豆本で記憶をつなぐ「掌の記憶」/ 連載「まなざしを綴じる」(教養と看護) / 希少がん(絨毛がん)経験者 / 社会福祉学科卒業 https://michi-siruve.com/
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