3-6忘れたくないこと

「忘れたくないこと」#掬することば

※2月4日の「World Cancer Day」に向けて、豆本詩集『汀の虹』の詩を、noteに1日1篇ずつ置いています。
25篇目は「忘れたくないこと」です。

Flowers 「イタリアンルスカス」×「ユーカリポポラス」×「ペッパーベリー」(2017.02 花店note)

「“大切な記憶”を手製本に綴じている」と伝えると「よく憶えている人」と勘違いされてしまうことがよくあります。

実際はその反対にあって。「憶える」という行為が、昔からどうにも不得意で。忘れたくないことばかりなのに、すぐに手の中からこぼれ落ちて、いつの間にか忘れてしまって。あとからそのことに気が付いては落ち込み、かなしんでばかりの人生でした。

不思議なことに「つらい記憶」は、たとえ忘れてしまっていてもすぐぶり返すことができました。ちょっとした音や光景、薫りですぐに引きずり戻されてしまう。なのに「つらい気持ちを和らげてくれたもの」は一瞬で忘れてしまっていて。ひとりでは思い出すこともできませんでした。

不安を和らげてくれたことばや記憶。つまりは、誰かから受けとった思いやり。できる限り手の中に持っていたいのに、その時触れたものそのままをとどめておくことがどうしてもできません。ディテールを抱けなくなると、不安はすぐにぶり返します。

だからといって「ずっとそのまま居て」「何度も続けて」と強いて依存するのは違うこともわかっていて。やっとこさ「どうにかしよう」というところに立てた時には、何を忘れたのかもわからないくらい、影もかたちもない状態でした。一度消えてしまった思い出そうとすると、もう元通りにはできない気もして随分後悔した気がします。

せめて今日からは、自分にとっていつでも触れて感じて、安心できるかたちにして手の中に持っておこう。小さな手製本に“大切な記憶”を綴じて持ち運ぶようになったのは、そんな気持ちからでした。

どれだけことばにして、写真におさめて、本に綴じたところで、とどめておけるのはほんの欠片で、何かが解決する訳ではないけれど。それでも、本が手元に在るようになってから、その本が抱いてくれているものに随分助けられていて。綴ったものがたくさん残っているという点では、がんになったあとの日々は、誰かが立ててくれた消えない道しるべがたくさんのこっていて、どれも愛おしく感じています。

忘れてしまうから、綴じる。これからも、こっそり、コツコツ続けていきたいと思います。

わすれる【忘れる】
1 覚えていたことが思い出せなくなる。記憶がなくなる。
2 何かに熱中してうっかり気がつかずにいる。
3 うっかりして物を置いてくる。
4 意識的に思い出さないようにする。
5 すべきことをしないでいる。
6 対象が記憶から消える。
(デジタル大辞泉)
おぼえる【覚える】
1 (「憶える」とも書く)見聞きした事柄を心にとどめる。記憶する。
2 学んだり経験したりして、身につける。習得する。
3 からだや心に感じる。
4 (古風な言い方)思われる。
5 思い出して話す。
6 自然と思い出される。ふと想像される。
7 似る。似合う。
8 他人からそう思われる。
9 意識がはたらく。分別する。
(デジタル大辞泉)
『汀の虹』のみちしるべ 
『汀の虹』は、がんによる孤独の中で握りしめていた“ことばの欠片”を道標に制作しています。握りしめていた“ことばの欠片”の大半は、それまでの人生で大切な人から贈られたことばや、何度も触れた本や音楽、映画のことばでした。

そこからことばをひとつ手にとってはタイトルとして置き、心の奥に沈んだ治療前後の記憶を一つずつ掬い上げ、重ね綴っています。この本や歌、映画の中にあることばや情景をみちしるべにしていたような…という作品のタイトルだけ、最後に添えていきます。(以下、敬称略)

「忘れたくないこと」
Mr.Children『あんまり覚えてないや』
秦基博『風景』
BUMP OF CHICKEN『とっておきの唄』

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ZINE作家。“大切な記憶”を小さな手製本に綴じています。 本づくりの移動アトリエ「記憶のアトリエ」/豆本で記憶をつなぐ「掌の記憶」/ 連載「まなざしを綴じる」(教養と看護) / 希少がん(絨毛がん)経験者 / 社会福祉学 https://michi-siruve.com/
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