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ストーリーをつくる建築デザイン。今、環境にも人にも寄り添う建築が求められること

昨日、小学校の同級生が建築と内装を設計した、中規模オフィス賃貸ビルの内覧をさせてもらったのでレポート。
高校時代、二人で地元のケンタッキーで自習していた時から何十年。
彼は東大出て、アメリカの大学行って、東工大で助教をして現在明治大学で教鞭をとる建築家になりました。
元々、環境に配慮した建築の研究を行っており、その検証に基づいた設計を行ってきました。SDGsが声高に唱えられ、私たち設計事務所でも環境に配慮した素材選びなどを行うようになった昨今、彼の積み上げてきたことが「そういうことだったのか!」と身近に感じられるようになった。
『虎ノ門REVZO』(日本土地建物株式会社 /  設計:川島範久建築設計事務所)をご紹介します。

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コーワキングスペースに見る小規模のオフィスと、大規模賃貸の中間に位置する中規模賃貸事務所を日本土地建物がシリーズ化する第一弾となった。
外堀通り沿いに立ち、遠くからも目を引くのはビルのファサードの半分をバルコニーにして植物が茂っていること。

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入り口に入ると、森の映像と自然の音が奏でている。

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ストーリーのわかる家具を配置

コンセプトはストーリーの分かる素材や家具を使うということ。10階部分共有部ラウンジスペースには、北海道旭川家具や、モメンタムファクトリーの富山県高岡銅器、会津塗など日本各地から集められた「触れたときに素材の良いもの」、「つくり手の思いが感じられるもの」が採用されている。階段の踊り場は、有田焼に野老朝雄さんがデザインした陶器がそれぞれの階層ごとに違うデザインで設えられている。
また1階モニターで流れる映像も、このビルで採用されている伝統工芸のものづくりの映像や、その地域の森の様子。
賃貸ビルが、一つのストーリーの中に収まる。

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北海道の旭川家具。

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ボックスシート席の天板に「会津塗」を使用。
また、この技術も木目を立たせるという、職人の技術が活かされている。

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川島さんが言うには、現在、人に届けられる商品は全てパッケージ化され、完結された状態で届けられる。製品にまつわるネットワークがブラックボックス化されており、製品の仕組みや成り立ちが分からない状態だ。そうすると、いざ製品が壊れた時には、廃棄として新品を購入すると言う選択肢が取られがちだ。でも、もしその製品に含まれていた過去の姿や、ありうるべき未来を想像する余地があれば、ユーザーはそれを自ら修繕し、古いものと新しいものを掛け合わせて長く使うということができるはずだ。
(引用:建築討論 寄稿|地球の上の建築 ── 太陽・大地・⽣命と建築

ここに置かれた製品は、作り手が誰かわかり、その過程を人が肌で感じられるようなものが、全国から集められている。

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富山県高岡銅器の「モメンタムファクトリー」にて製作されたキッチン。

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後ろの突板の素材とのコントラストが面白い。

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ラウンジの全景。

賃貸事務所のプロトタイプを改変したい

通常、オフィス賃貸は、不動産側の視点から見て、すぐに借り手がつくような状態にするため、システム天井や安価なタイルカーペットが貼られていることが多い。
そうすると、借り手がついた時に、かえって使い勝手が悪く、張り替えるということが起き、そのタイルカーペットは廃棄され、後は埋め立てとなる(とこの前、川島織物セルコンさんにも聞いた)海外では、スケルトンで渡すことが通常のようだ。
この物件では、そういったことをなくす環境への配慮で、スケルトン渡しとなっていた。ただし、全くのスケルトンではなく、天井は梁を仕上げた状態で、照明も設置、最低限カーペットさえ敷けば使えるという日本流スケルトン。これが今後一般に受け入れられればと話していた。

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また、通常、空調というのは全面に均一に配置されているが、片側に寄せられている。これは、このサイズならばその方が効率的な空調が実現できると検証の結果、実証されたために配置された。
今まで「当たり前」とされていた慣習に一石を投じた。

バルコニーに人間が食べられる実を植える

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バルコニーには人が食べられるブルーベリーやレモンなどの果実が植えられていた。会社にブルーベリーがなっているというのは嬉しい。
仕事の休憩に外に出た所に、食べ頃のブルーベリーがあったら摘んで食べてしまう。
もう既に鳥がついばみに来ているそうだ。

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設計者の川島 範久さん。

モノの価値を見直すこと。一つのものに来歴があり、ストーリーのこもったものであることを感じられると、ちょっと生活が豊かになる。このビルに集まる人にそんなちょっと良い時間、人生を感じてもらいたいという願いがこもっていた。

物件詳細
『REVZO 虎ノ門』
名称:REVZO虎ノ門
所在地:東京都港区西新橋1丁目8−1
事業主:日本土地建物株式会社
デザイン監修:川島範久建築設計事務所
川島 範久
一級建築士(第346077 号) 博士(工学)(2016.09 東京大学)建築家。1982年神奈川県生まれ。2005年東京大学卒業。2007年同大学大学院修士課程修了後、日建設計勤務。2012年カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。2014年ARTENVARCH共同設立(-2016年)。2016年東京大学大学院博士課程修了・博士(工学)取得。2017年川島範久建築設計事務所設立。2014年より東京工業大学助教を経て、2020年より明治大学専任講師。慶応義塾大学SFC・東京理科大学にて非常勤講師も務める。2014年にソニーシティ大崎で日本建築学会賞(作品)、2016年に《Diagonal Boxes》で第7回サステナブル住宅賞 国土交通大臣賞(最優秀賞)、2017年に《Yuji Yoshida Gallery / House》で住まいの環境デザイン・アワード2017 グランプリ、2018年に博士論文『日本における環境配慮型建築の設計プロセスに関する研究』で第25回前田工学賞等、受賞多数。


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