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[書評] オヴァートン・ウィンドウの秘密がバレて欧米全体が革命寸前の状況にある

副島隆彦・ベンジャミン・フルフォード『世界人類を支配する悪魔の正体』(秀和システム、2023)

副島隆彦・ベンジャミン・フルフォード『世界人類を支配する悪魔の正体』(2023)

オヴァートン・ウィンドウの秘密がバレて欧米全体が革命寸前の状況にある

フルフォード・副島対談本の第2弾は、猛烈に勉強したくなる本だ。

ともかく、世界史上の、地政学上の、いろんな事象について、刺激的でおもしろいトピックが次から次に出てくる。古代から現代に至るまで、世界と日本のことを、二人は縦横無尽に語り尽くす。

前回のフルフォード・副島対談(2021年刊『今、アメリカで起きている本当のこと』)のときより、より本音ベースで語られている。それだけに、何度も同じポイントについて両者の意見が火花をちらす。二人とも、ここだけは譲れないという信念にもとづく観点(キシンジャーをめぐる評価など)があり、そのあたりがおそらく読者も引っかかりつつ、では自分はどう考えるのかと問われている気がしてくる。驚くよりも、むしろ、考えさせるところが多い本だ。

ふたりの対談のエネルギーはおおむね次のように流れていると感じる。

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どうだろうか。上の矢印はうまく表示されているだろうか。Y字路のような形にしたつもりだ(下)。

Y字路(出典

下から、上向きに矢印が1本。これはそもそもフルフォード氏にエネルギーを供給した日本発の流れ。

上にあるのは、左上に向かう矢印と、右上に向かう矢印だ。それぞれ、古代と、現代とに、向かう。

つまり、日本発のエネルギーを受けて、古代と現代へと、探求のエネルギーが向かっているのだ。

これは何を意味するか。簡単に言えば、今まで西欧社会が気づいていなかったことを、日本発の情報や分析を受けて、ああ、そうか、と西欧が気づき、あらためて、目が古代と現代とに向いている、そういう図なのである。

これまではある枠(Overton window と英語で言う、ざっくり言えば PC のようなもの)に嵌められていたのが、その枠が取れ、人びとが自由に発想を転換し、自分たちの拠って来たるところ、これから向かうところについて考え始め、その結果、欧米がある種の革命に向かっているということなのだ。

それが本当だとしたら、すごいことである。

しかし、その、そもそものエネルギーを供給した日本の言論人(太田 龍ら)はすでに故人である。日本人としてできることは、彼の業績を丹念に追うことだが、それは現在では、ややむずかしい。絶版本が多いからだ。

そういうわけで、本書の中身にふれるとすると、現代に至るまで人類を支配して来た存在に焦点を当てる作業がひたすらおこなわれる。

その存在について、副島氏は繰返し単純化して話そうとする。それは、一面では、日本の読者に分りやすくするためもあるだろう。他面では、副島氏の独特の世界史観(2018年刊の著書『日本人が知らない 真実の世界史』などに現れる)から来るのだろう。

だが、フルフォード氏は、その存在の系譜はある種の複雑系であることを、丁寧に説明する。基本的には2021年刊の『一神教の終わり』をふまえるが、本書のほうが、古代に関する考察は深くなっている。フルフォード氏もやはり、読者に分りやすくするために、KM(ハザールマフィア)という呼称を用いて語ってはいるが、実際は複雑な構造をしていることが、古代に遡れば遡るほど、うかがえる。

フルフォード氏が本書の対談で、これまでより古代についてふみこんだのは、起源はヒクソスに遡るのではないかと、述べたことだ。その点を少し紹介しておこう。

まず、氏は、ヒクソス部族がエジプト中王国を崩壊させたことを指摘する(紀元前1795年)。

ここからほんらい話題は深化してゆくはずのところが、副島氏がヒクソスはヒッタイトであると単純化する線をゆずらないため、話は一向に深まらない。これは読んでいてもどかしい。

喩えはわるいかもしれないが、頑固爺さんの前で秀才の洞察力ある熱弁が空回りするの図に見える。

話を戻すと、ヒクソスは、アジア系(セム系)の部族と言われていたのに、解読された文献からは、言語がヨーロッパ系であることがわかったという興味深い指摘をフルフォード氏はする(言語の系統については諸説ある)。

もっとも重要な氏の指摘は、この人たちが、〈ヤギの顔をして、二股の尻尾を持った神様を崇拝していた〉ということだ。〈バール神とかモレク神、あるいはセト神〉と呼ばれる(本書第1章「ヒクソスを起源とする帝王学」)。

そして、〈このヒクソス人たちが、じつは他の民族を家畜にして管理するという帝王学を持っていた〉とフルフォード氏は見る。これは仮説に過ぎないが、もし、その通りだとすると、現代にまで通じる帝王学の起源がここにあることになる。

フルフォード氏は言う。〈ヒクソスを起源とするそういう帝王学をもった人たちが、だからめぐりめぐって今の、欧米の支配階級を支配している、という壮大な人類4000年の歴史が私たちの歴史と言えるのです〉と。

だが、このフルフォード氏の発言は副島氏には通じず、遊牧民(ノウマド)の一般人と支配階級の違いがちょっと分らないという返事になる。ゆえに、本書では、ここからなかなか深化することがない。歴史観の違いと言ってしまえば終わりだが、何とかここから先の議論まで深めてほしいものだ。

対談は2022年9月から11月にかけて東京で4回おこなわれた。4回めは11月18日である。副島氏による「はじめに」の文章は12月22日付で、フルフォード氏による「おわりに」の文章は12月28日付になっている。

両氏の最新の発言は、副島氏の場合は、「副島隆彦の学問道場」の「重たい掲示板」(無料)などで、フルフォード氏の場合は 'Weekly Geo-Political News and Analysis'(有料)などで読むことができる。後者の読者は世界に5,000万人いることが本書に書かれている(第3章「戦後日本の自由な言論空間が欧米に逆に影響を与えた」)。

#書評 #ベンジャミンフルフォード #副島隆彦 #ヒクソス

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