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嫌気性菌の話

再度、嫌気性菌について

嫌気性、あるいは好気性の「気」は気体の事ですが、この場合は特に「酸素」を意味します。つまり、酸素の存在下で発育するか、またはしないかといった意味合いになります。

嫌気性菌とは発育で酸素を必要としない細菌の事です。どうやって代謝のエネルギーを得るかというと、嫌気呼吸または発酵といった手段を用います。

嫌気性菌は酸素に対する要求の度合いや耐性から、3つに分類することが出来ます。以前は2つに分類しましたが、普段はそれで構わないのですが、しっかりとした分類をするには3つに分けた方がよさそうです。

 ①偏性嫌気性菌

 ②微好気性菌

 ③通性嫌気性菌

①偏性嫌気性菌とは、通常の大気レベルの酸素が存在する環境下では発育どころか、死滅してしまうような菌を指します。善玉菌の代表格であるビフィズス菌はこのグループに入ります。

②微好気性菌はその名の通り、わずかな酸素量(多くの場合2〜10%ほど)を必要とします。同時に高濃度の二酸化炭素の存在(約10%という例もある)が必要とするものが多いとされています。仮に嫌気的な条件下で増殖させようとすると、きわめて不良となります。

③通性嫌気性菌は、酸素の存在する環境下でも生育が可能です。つまり、酸素が存在してもしていなくても生育する菌の事です。善玉菌のもう一つの代表、乳酸菌はこのグループに属します。また、名前をよく聞く大腸菌もこのグループです。


嫌気性菌の役割

私たち人間の身体にはあちこちに細菌がいますが、常在細菌叢と呼ばれる存在があります。腸管内のそれが非常に有名ですが、その他にも常在する場所はたくさん存在します。例えば皮膚、口腔内など。

皮膚では有害な菌の侵入を防ぐ働きをしています。これは腸管内も同じです。菌の数でいえば皮膚表面の常在細菌叢も決して少なくはありませんが、腸内細菌叢に比べると大きな差がありそうですよね。そして腸管内の常在菌叢では栄養素を分解して消化吸収を助けたり、粘膜上皮の再生を助けたりと、じつは大活躍をしていたりしているんです。

そんな常在細菌叢を構成する菌の実に90%以上、99.9%ともいわれている占有率を誇るのが嫌気性菌なんです。なぜそんなに多いのかの理由はともかく、なぜそれほど多くの菌がそれまで知られていなかったのかという疑問、湧いてきませんか?

じつは嫌気性菌が発見されたのは、それほど昔のことではありません。どんな作業でも、例えばデスクワークで書類作成といった作業でも、普通の環境下で机の上などで行うでしょう。この状態は普通の大気中で行うわけですから、酸素濃度が20%ほど存在する環境下ということになります。この環境下では、通性嫌気性菌は発育できますが偏性嫌気性菌では死滅してしまいます。

酸素を排除して、偏性嫌気性菌でもしっかりと培養できる環境を作る技術があって、はじめて培養や検出が出来るようになるんです。それまでは全部死んでしまって、培養も検出も出来なかったために、存在そのものが分からなかったといえるでしょう。

その意味で、細菌学の分類にある腸内細菌科に偏性嫌気性菌が入っていないのも頷けるわけですね。


病原性について

感染症を考えるうえで、嫌気性菌は重要です。なにしろ常在細菌叢のほとんどが嫌気性菌ですから、何かあった時の影響は大きいはずですね。一般には粘膜の破綻などがあるとそこから侵入して、私たちに重篤な感染症をひきおこします。

嫌気性菌の場合、宿主(この場合は人間の身体)の免疫力が低下していてもいなくても、損傷がある組織に感染が起きやすくなります。通常は手術や壊死、外傷などによって宿主と常在細菌叢の共生関係が崩れた時に感染症が起きるとされています。

また、嫌気性菌だけによる感染症というのはあまり存在しません。好気性菌だってその場所にいれば、やはり感染症を引き起こします。この場合、好気性菌の方が検出がしやすいためにどうしてもそちらに目が行きがちですが、それによって嫌気性菌の感染を見落とすということが無いように注意しなければなりません。

嫌気性菌の感染症は、膿の集積であったり、膿瘍の形成といったことだったりします。症状としては、壊疽や膿瘍が生じたりします。また、悪臭の存在もよく見られます。こんな状態の時は医療機関を受診することをお勧めします。



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