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海での時間は父との時間だった

父と海

私は昔、とってもインドアな子だった。

まあ、学校の友達と外で遊んでいた時期もあったかもしれないが、正直、人間関係を上手く築くことができない自分は仲間外れにされることも多かったし、やさぐれていて自分から嫌なことを人に言ってしまったりと、とにかく外での良い思い出はなく、家にいることが気が付けば多かったと思う。

だから、家でゲームをするのがとにかく好きで、ひとりでもくもくと今日の敵を倒す作業をしていた記憶がある。

なんやかんやで高校生からは不登校になってしまうし、引きこもり、社会に出られない日々もあったのだが、私はずっと今でも忘れない思い出の時間がある。

それは、海で父と釣りをした時間だった。

小学生の頃から父が海へよく連れて行ってくれていたのは覚えている。

高校生になってからは不登校になり、外に出ることが怖く嫌で家に引きこもっていた。高校卒業後もしばらく引きこもっていた。しかし、父は週末の休みの日になると海へ行こうと声を掛けてくれた。自分は最初は海なんて興味が無かったが、外の世界に心を許すにつれて、行ってみようかな?と自然に思えてきて、また、父と海に出かけるようになった。

何故か楽しい

そして、父と出かけた久々の海はとてつもなく楽しかった。

それは景色が良かったからなのか、海が青く綺麗だったからなのか、晴天で空が眩しく心も晴れ晴れとしたからなのか、魚が大量に釣れたからなのか、海釣りをするおじちゃんが釣れた魚を分けてくれたからなのか……わからないけれど、全てが楽しくワクワクした。

そして、月曜日になれば早く父と海に出かけられる週末になれと、私は毎日考えるようになった。

この頃はまだ私は働いてはいなかった。しかも、海へ久々に行く少し前までは、心を閉ざして家にこもる誰も信じることが出来ない少女だった。でも、些細なきっかけでやっと外を楽しめるようになり、働くために勉強しようと就労施設に通って頑張っていた。

この時はまだまだ上手くいかなくてつらかったこともあったけれど、父と出かける海が何故か楽しくてとっても元気が出たし、もっと頑張って前に進もうと思えた。

金曜日になれば父と海に行けるんだとはしゃぎ、月曜日になればあと5日を海へ行く為に頑張って乗り越えてやると意気込んだ。

一番の海とイワシ

私が父と一番楽しかった海は、イワシを200匹釣った日の海。

その日はイワシが大量発生していて、入れ食い状態だった。釣り竿をサビキ釣りでたらせば、イワシが1回に6匹くらい一瞬で釣れるのだ。楽しくて仕方なくて、4時間以上その日は海にいたと思う。私も楽しかったけれど、なによりも父が笑顔で楽しそうにしていたのを覚えている。

帰ってからはふたりで時間をかけてさばいて、200匹を料理して食べた。

その時のイワシは人生で一番おいしかった。

嘘抜きで本当のマジもんで、あれ以上のイワシの味に出会ったことが無い。

もしかしたら、楽しすぎて楽しすぎて……楽しすぎたせいで、味よりもあの日は興奮しすぎて、より美味しく感じていたのかもしれない。

だから、あの日以上のイワシには二度と出会えないと思う。

結婚して疎遠に

私はあれから何年もかけ辛いことをたくさん乗り越えながら就職し、やっと自信の持てる自分と出会えた。

たくさん勉強も頑張ったし、就職してからも仕事をこなしていった。

就職する為に一人暮らしを始めたり、最近は結婚して実家と離れたところに暮らしているので、父とはだいぶ疎遠になってしまった。父の家とはそこまで遠くは無く同じ県内だけれど、やはり離れると寂しいと感じる。

そして、父はだいぶ歳を取ってしまい自分からあまり海にいかなくなっていた。

私も自分から海行くことは、離れて暮らしてからはあまりなかった。

父との日々を思い出し、ひとりで釣りに出かけた時はあったのだが、何故か楽しいとは思えなくてふと疑問に思った。

なんで、あの頃あんなに楽しかったのだろうと。

あの頃は不思議なくらい海が全て楽しくて通うのが辞められなくなった。遠くても父の運転で片道一時間かけて有名な堤防に行ったり、良く魚の釣れるスポットを調べては遠出をしていた。

あの頃楽しかったのは景色が良かったからなのか、海が青く綺麗だったからなのか、晴天で空が眩しく心も晴れ晴れとしたからなのか、魚が大量に釣れたからなのか、海釣りをするおじちゃんが釣れた魚を分けてくれたからなのか……いや違う。

父と一緒に出掛けたからだ。

父と一緒に出掛ける海だったから、楽しくて仕方が無かったのだ。

海でのあの楽しい時間は、父との楽しい最高の時間だったのだ。

だから、イワシもあの頃の味がナンバーワンであの日の海が一番なのだ。

そして、あの日が一番なのはきっとあの日の海で、イワシを持ちながら父が一番笑顔で私の名前を呼んで笑っていたから。

もしかしたら、父も同じことを考えて今、海に行ってないだけかもしれない。

私と父と……ふたりで行く海が一番だから。

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