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[カレリア民話] 大食いチュリのお話(ČULISTARINA)

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大食いチュリのお話

あるところにチュリがいました。チュリはある家に行きました。家ではおかみさんが糸車で糸を紡いでいました。チュリが言いました。
-おかみさんに、お話をしても良いかい?
おかみさんは言いました。
-どうぞ、チュリの旦那さん。
チュリは話はじめました。
-むかしオイラは納屋にいて、桶からバターを食べたけど、まだまだ食うよ、糸車ごとあんたもね。
そうして、おかみさんと糸車も食べてしまいました。

チュリは家から出て、道沿いを進みました。男の人が馬で薪を運んでいました。チュリは薪運びに言いました。
-お話をしても良いかい?
-どうぞ、チュリの旦那。
チュリは言いました。
-むかしオイラは納屋にいて、桶もバターも食べちゃって、糸車ごとおかみさんも食べたけど、まだまだ食うよ、薪も馬も、あんたもね。
そうして食べてしまいました。

先へと進みました。向こうから馬と木材を運んでいる男がやって来ました。チュリは言いました。
-木材運びさんにお話をしても良いかい?
-もちろん、チュリの旦那。
チュリは言いました。
-むかしオイラは納屋にいて、桶もバターも食べちゃって、糸車ごとおかみさんも食べちゃって、薪ごと薪運びも食べたけど、まだまだ食うよ、木材も馬も、あんたもね。
そうして食べてしまいました。

チュリは先へと進みました。馬で干し草を運んでいる男がやって来ました。チュリは言いました。
-干し草運びさんにお話をしても良いかい?
-話しておくれよ、チュリの旦那。
-むかしオイラは納屋にいて、桶もバターも食べちゃって、糸車ごとおかみさんも食べちゃって、薪ごと薪運びも食べちゃって、木材と馬ごと木材運びも食べちゃったけど、まだまだ食うよ、干し草も馬も、あんたもね。
そうして食べてしまいました。

チュリは先へ進み、森へやって来ました。森には雄ヤギが大きな群れでいました。
-ヤギさんたちにお話をしても良いかい?
ヤギたちは言いました。
-どうぞ。
-むかしオイラは納屋にいて、桶もバターも食べちゃって、糸車ごとおかみさんも食べちゃって、薪ごと薪運びも食べちゃって、木材と馬ごと木材運びも食べちゃって、干し草と馬ごと干し草運びも食べちゃったけど、まだまだ食うよ、お前たちもね。
ヤギたちは言いました。
-そんなにお腹いっぱいの状態で、食べないでおくれよ。まず松の木の根元でゆっくりすると良い、食べるのはそれからにしなよ。僕らは君のごちそうになるだろうからね。

チュリは松の木の根元に横になると、眠ってしまいました。ヤギたちはチュリの上に松を突き刺しました。チュリのお腹が破裂して、中からみんなが、はじめに納屋とバターの入った手桶、糸車とおかみさん、薪と薪運び、馬と木材に木材運び、馬と干し草に干し草運びが出てきました。みんなお家に帰って、今までどおり暮らし始めました。
そう、これがチュリのお話です。

単語

rukki [名] (手動の)紡ぎ車
kormeličča [名] 稼ぎ手, 大黒柱,《俗》男性に対するやさしい呼びかけ
aitta [名] 納屋, 倉庫
šaikka [名] 手桶
myöten [後] ~に沿って
halko [名] 薪
vetyä [動] 引っ張る, 引きずる
ielläh [副] 先を, もっと続けて
havu [名] 針葉樹の枝
heinä [名] 干し草, 草
karja [名] 家畜の群れ, 家畜
pukki [名] 雄ヤギ
vačča [名] 腹
honka [名] 松
juuri [名] 根
levähtyä [動] 休む, 休養する
vero [名] 食べ物, 食事, 税金
uinota [動] 寝入る, 寝つく
puškie [動] (牛などが)角で突く
mara [名] 腹, 胃
haleta [動] 破れる, 割れる, 破裂する

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:ペトロザボーツク
採取年:1947年
AA 333B

AA333Bは、AT334にまとめられているようですが、この話はどちらかというとAT333(「赤ずきん」、旧「大食い」)に近い気がします。

「Čuliチュリ」という語の語源は不明で、語り手自身も説明不可能だったようです。主人公を「粘土少年(クレイボーイ)」と呼ぶ話も多く、フィンランド版では粘土から作られた陶器職人の息子だったりします。

伝統的な口承技術としての繰り返しや独特のリズムが強く残っていることから、カレリアで長い時代に渡って語られてきたことが伺えます。 

日本語出版物

日本語での出版物は今のところ見当たりません。 
カレリアに近い地域からの類似話など見つけたら追記します。

つぶやき

繰り返し現れる歌文句は、やはり韻を踏むのは難しいですね。せめてリズムを意識する程度です。

「Čuli チュリ」という名前のカタカナ表記も少し悩みました。「č」は [ts] の音ですから、やや s 音の強い「ツ」です。ただ名前が「ツリ」だと、「釣り/吊り」と同じ表記になってしまい、語源も不明であるこの語の不思議で奇妙な感じが出せないので、ロシア語訳の表記「Чули」に合わせて「チュリ」としました。

またチュリの性別は「kormeličča」というロシア語からの借用語を除いては、どこからも伺えません。訳でもあまり性別を押し出すことは避けようと思ったのですが、歌文句のリズム感を重視しました。

翻訳って難しい。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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