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[カレリア民話] マリナのお話(MARINAN STARINA)

マリナのお話

 昔、夫婦がいました。妻は病気にかかると、夫にこう言いました。
―もし私が死んだら、いいですね、マリナ(という名前の女性)以外とは結婚してはダメよ。
妻が亡くなると、夫は(新しい)妻を探しに出かけました。(その旅が)長かろうが、短かろうが、歩いて行きました。ある女性がやって来て尋ねました。
―旦那さん、どこへ行くんだい?
ー妻を探しにだよ。
夫は言いました。
―私をめとりなさいよ。
女性は言いました。
―お前さんの名前は何だね?マリナかね?
―いいや。
―マリナじゃないなら、お前さんはめとらないよ。

ふたたび進んで行くと、別の女性がやって来ました。
―どこへ行くんだい?
―妻を探しにだよ。
―私をめとってよ!
―もしお前さんがマリナなら、めとろうじゃないか。
けれども、この人もマリナではありませんでした。

3人目の女性がやって来て、この人を嫁に迎えました。家に連れて帰りましたが、このマリナはたいそう意地悪だったので、とてもじゃありませんが上手くやっていけません。これ以上一緒に住むことはできず、夫は、どうしたらこの妻から逃れられるか考えました。そして、欺いてやろうと思いつきました。森へ行くと、泥沼を見つけ、沼の淵辺にお金を落としておきました。

家に帰ると、こう言いました。
―淵にお金が落ちている泥沼を見つけたんだがね、落っこちてしまいそうだったから、お金を取ろうとはしなかったよ。
すると妻は言いました。
―どこにあるのか教えなさい、私がお金を獲ってくるから。
夫は言いました。
―お前には獲ることはできんよ。
―獲ってやるさ、絶対ね!

―やめなさい、わざわざ落ちに行くようなもんだ。
夫は警告しました。さて、夫は様子をみるために、泥沼へ出かけていきました。妻はお金のために進み、進み、進んで行き、その結果、沼に落ちてしまいました。

夫は家に帰り、(一人で)暮らし始めました。そして、このように考えました。
―悪い人と暮らすのは良くないが、ただ悪い人なだけなら、それほど悪いわけではないだろう。釣りに(助けに)行こう。
トウヒの枝を釣りざおとして、太いソリ用ロープを釣り糸として、錨を釣り針として用意し、泥沼にチャプンと投げこみました。(何かが針に)かかるのが聞こえました。
―今、お前を助け出すからな
そう思い、彼が引き上げると、角が見えはじめました。さらに引き上げると、もう1つの角が現れました。

地面に引き上げると、それはマリナではなく、悪魔でした。悪魔は(夫に)お礼を言いました。
―お前は、オレをマリナの手から救うという善行をしてくれた。どう礼をしたら良いかね?
悪魔は言いました。
―そうだ、今からオレは皇帝の娘を苦しませに行くから、お前は彼女を助けに来るんだ。オレが苦痛を取り除いたら娘はすぐに回復するから、お前は素晴らしい報酬をもらえるだろう。次女も苦しめるが、そいつも救いに来るんだ。ただ、三女のところには来るんじゃないぞ!

夫はそのようにしました。2人の娘を治し、素晴らしい報酬を得ました。(悪魔が)三女を苦しめ始めると、ふたたび夫が呼ばれました。
―私は参りません。
夫はそう言いました。
(彼を)連れてくるよう命令が出されました。すると彼は出かけていき、「悪魔が食べようとするだろうから、食べようとさせておけばいい」(と言いました)。いっぽう彼はバスケット1つ分の子犬たちを集めてソリに乗せ、通り沿いに引っ張っていきました。子犬たちは中でキャンキャンと鳴いていました。

悪魔は、彼がふたたびやって来たのを見ました。悪魔は口から火をふきながら、頼んだのにも関わらず男が来たので、お前を食べてやる、と言いました。夫は言いました。
―来ない方が良い、マリナがこのソリの中にいるぞ、私が泥沼から釣ってきたんだ。

悪魔は脇を走りぬけ、泥沼へ走っていきました。男は最後の娘(三女)を治しに行きました。そうして彼は皇帝のもとに長きにわたって召されました。いっぽう悪魔は、泥沼にいるマリナの手にかかる羽目になりましたとさ。

単語

pahavirkani [形] 不機嫌な, 悪質な, 悪意のある
tulla toimeh 対処する
juohtuo [動] 思いが浮かぶ, 思いつく
pelata [動] 遊ぶ, プレイする
konsti [名] 方法, やり方, 仕掛け, 絡繰り, 策略
hete [名] 泉, ぬかるみ, 泥沼
tiputella [動] 垂らす, 落とす
varottua [動] 警告する, 前もって知らせる
kirvota [動] 落ちる, 落下する, 倒れる
šikäli [接] だから, ~であるかぎり, ~なので, その結果
onkittua [動] 釣る
korpikuusi [名] 枝がまばらな長いトウヒ
vapa [名] 釣りざお
pakšu [形] 太い, 厚い
hilanuora [名] 前後のソリをつなぐためのロープ
nuora [名] 縄, ロープ
šiima [名] 釣り糸
juakkeri [名] 錨, アンカー(якорь)
onki [名] 釣りざお, 鉤, フック
pučkata [動] チャポンと落とす
nykie [動] ついばむ, (魚が)餌にかかる
piessa [名] 悪魔
kynši [名] 爪
palkita [動] 報いる, 敬意を表する, 支払う
muokkautuo [動] 苦しませる, 悩ませる
muokka [名] 苦痛, 苦しみ
pelastuo [動] 救う, 保護する, 守る
pakko [名] 要求, 要請
koko [名] 大きさ, サイズ
kori [名] 小箱, バスケット
koiranpentu [名] 子犬
kovota [動] 集める, 取り集める
čuna [名] ソリ

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のヴオッキニエミ(ヴォクナヴォロク)
採取年:1937年
AT 1164

日本語出版物

カレリア、フィランド民話としての日本語での出版物は見当たりません。ロシアや東欧のお話としては紹介されているかもしれません。

つぶやき

嫁探し+穴に落とされた悪嫁(AT1164)のお話ですね。いやあ、出だしが『青い親指の母娘』と同じだったので、類似話かとドキドキしながら読み始めました。

読み始めて気づいたのですが、ポーランドの民話(特に悪魔にまつわるお話)を紹介されている小梅さんの記事で読んだお話と、同じ話型のバリエーションだったようです。

カレリアにも悪魔(や牧師など)にまつわる民話はありますが、キリスト教の流入以後の新しいお話です。ロシアから入ってきたお話かな、と推察。

とりあえず、妻の遺言に従った嫁探しは、(今まで読んだ限り)上手くはいかないようです。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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