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[カレリア民話] ものぐさな妻(LAISKA AKKA)

ものぐさな妻

 あるとき、ある場所で、ある男がある娘に出会いました。一目で気に入ったので彼女に求婚し、妻にめとりました。村のばあさんたちは男にこんなことを言い始めました。
―ああ何てことだい、立派な男が、なんだってこんな自分のためにご飯すら作ろうとしない、ものぐさな嫁を迎えたんだね。
―ご心配なく、ただの女から(立派な)嫁にしてみますよ。自分が食べたり飲んだりして暮らしたいなら、彼女(自身)も(良い)妻にならないといけませんからね。

 そうして一緒に暮らしはじめると、男は妻が食べ終わるとすぐに寝床へ行き、何ひとつしないでいる様を見ました。夜、横になると男は言いました。
―ああ何てことだ、お前は氷のかけらのように冷たいじゃないか、お前と一緒に寝ることなんてできないな。
妻は言いました。
―何を言うの、私は前よりも寒くなんてないわよ。
―そんなことは知らんね、とにかくお前と一緒に寝るなんてできないよ、氷のかけらのように冷たいんだから。

 さて、朝になると彼らは起き上がりました。男は仕事へ出かけ、妻はただ暖炉の上に上がり、何もしません。お尻を温めるために暖炉にこさえた寝床に座っていました。1日中座り、どこへも動きませんでした。夕方、男が仕事から帰ってきました。妻はそこから動きません。女中が食べ物や飲み物をテーブルに置いても、彼女は動きません。寝床が整えられると、妻は、すでに男が横になっていた準備のできた布団に入っていきました。男の横へ行ったところで、男は言いました。
―ああ何てことだ、そんなに冷たいなら、一緒に寝ることなんてできないよ、氷の山が冷たい風を吹きつけてくるようだ。
(妻は)言いました。
ーせんのない話はよして、1日中お尻が痛くなるくらい暖炉の端に座っていたのよ。
―何が座っていただ、それで暖かくなろうとでも思ったのか?そんな方法じゃ、暖かくなんてならないさ。
―じゃあ、何をすれば良いっていうの?
―何をすれば良いかって?仕事をするんだよ!人は働けば働くほど、熱をもつんだ。火のそばで暖かくなんてならんよ!

 そうして過ごしたある日のことです。妻は働き始めました。薪を割り、水を運び、薪を運びました。1日中働いていたので、額から汗が出てきました。男が仕事から帰ってくると、食事を出し、飲物を出しました。そうして床につきました。
(男は)妻に言いました。
―おや、何があったんだ、どうしてお前はこんなにも熱いんだ?
―何を言うの、額から汗がしたたるまで1日中働いてたのよ。
―言ったとおりだろう、仕事をすることで人は熱をもつんだ、火のそばじゃなくてね。
 こうして妻は働き者になり、ものぐさすることはありませんでした。

単語

pistyä šilmäh 目を射る, ひきつける
kos's'uo [動] 求婚する, 結婚を申し込む
kehata [動] ~したいと思う, 何かをしようとする
hätä [名] 不幸, 災難
ei ole hätyä たいしたことはない
verta [数] それほど(たくさん)の, それだけの, 同量の
šen verran ~と同じ分だけ, 同じくらい, ~するとすぐに
šija [名] 場所, 寝床
tikku [名] マッチ
ei pane piällä tikkuo tikun 指一つ動かさない, 何ひとつしない
puatie [名] (暖炉に接続してつくられた)寝床
kuumentua [動] 暖める, 暖かくする
takapuoli [名] 後ろ側, 背面
liikkuo [動] 動く, 移動する
liikahttua [動] 動かす, 動かして作業する
palvelija [名] お手伝い, 女中
kravatti [名] 寝台, ベッド(кровать)
peitto [名] 隠れること, 覆われること
viruo [動] 横になる
tukku [名] 積み上げられた山
jiätukku [名] 雪がつもってできた山
huohtua [動] そよ風が吹く, (冷気・暖気・においが)流れる
turha [形] 無駄な, 不必要な
reuna [名] 端, ふち, 境界
tuškautuo [動] 苦しむ, 痛める, 患う
toivuo [動] 願う, 望む
šahata [動] 木を切る, 伐採する
hiki [名] 汗
očča [名] 額(ひたい)
tippuo [動] したたり落ちる
ruanta [名] 仕事, 作業
ruataja [名] 労働者, 働き者

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のウフトゥア村
採取年:1937年
AT 901*B

日本語出版物

類似話がロシア民話にあったような気がしますが、平和的解決をはかるこのバージョンは見当たりません。

つぶやき

前回読んだ民話「青い親指の母娘」があまりにもぶっとんだお話だったので、今回は妙に落ち着きがある、というか普通に感じます。

この話型の多くは、言うことをきかなかった他の者(動物)を妻の前で痛めつけたり、ときには殺してしまったりと、残虐な手段を見せつけることによって妻をしつけることに成功するバージョンが多いのですが、ヴィエナ・カレリアで採取された今回のお話は珍しくも平和的なお話としてまとまっています。

カレリアでは、行商人として旅に出たり、猟や伐採のために長らく家を空けたり、街に出稼ぎにいったりして不在の男性たちに代わり、力仕事も含め女性が家の事柄をすべてまかされていました。そのため、怠惰な妻なんてもっての外なのです。その教訓を感じさせるお話です。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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