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想像の上をゆく伏線回収 【ブックレビュー】辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ社、2017年)

著者:辻村深月
書名:かがみの孤城
出版:ポプラ社

 本屋大賞の受賞作は、おもしろいだけではなく、読みやすい作品という印象がある。「趣味は読書です」と言えるようになった頃、無難におもしろい本に出会うには?と考えた私は、とりあえず直近の数年分だけでもいいので、本屋大賞の受賞作・ノミネート作品からいろいろ読んでみようと考えた。本書は、2018年の本屋大賞を受賞した作品である。しかも、過去最高得点で受賞した作品らしく、ブックレビューは軒並み高評価である。そんな口コミを受けて、この本を手に取った。

 本書は、さまざまな事情から学校に行くことができなくなった中学生が、「城」に集められて物語が進行する。物語序盤で張られていた伏線が、終盤で見事に回収されるかたちになっている。
 このような「伏線回収」系の小説は、仕掛けられたトリックに途中で気づいてしまうと、ネタばらしのときの感動が薄れてしまうように思う。本書で用いられたトリックは、割とよく用いられる手法だと思っている。そのため、私は途中で、本書のだいたいの構成に気づいてしまった。だから、ある程度読み進めた段階で、終盤にはあまり期待することなく、読み進めることとなった。
 しかし本書には、いい意味で裏切られた。私が途中で見抜いたトリックの他に、もう一つ秘密が隠されており、幸いにも、私はこちらには気づけなかった。物語終盤でそのことが語られた時には、さほど重要ではないと思って読み進めていたことが、実は伏線だったと気づかされ、文体の読みやすさも相まって、最後まで一気に読んでしまった。

 莫大な伏線を回収する作品の中には、物語の終盤に差し掛かって、その伏線を回収しきるために、あまりにも単調な説明文が長く続いてしまうものもある。個人的には、「伏線を回収するための核心だけを述べて、あとは読者の想像におまかせ」といった作品の方が好きである。本書は、どちらかといえば前者に属していて、終盤で丁寧な描写がなされている。それでも楽しく読み進めることができるのは、ひとえに、著者の筆力によるものだろうと思う。

 私は、登場人物が学校でいじめの対象となるような物語が苦手である。どうしても登場人物に感情移入してしまい、その問題が解決するまで、読み進めるのがつらい。本書でもそのような描写がなされ、加えて、本書で登場するいじめっ子側の人間は、徹底的に「悪者」として描かされいる点も踏まえると、本当に読むのが辛かった。物語の終盤で、ある程度希望が見出されるのが幸いであった。

 優しい感動に包まれる、本屋大賞受賞作らしい一冊。

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