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半沢にゴミ呼ばわりされた稟議書を書いてみた①


おはようございます!

みっつと申します!☘


新卒から8年間、それなりに投資銀行業務を経験した、バンカーの端くれとして、今回は絶賛放送中のドラマ「半沢直樹」の第2シリーズを題材に遊んでみようと思います!



読者の方は放送を見られている前提でざっくりと経緯を説明しますと、


メガIT企業である電脳雑技集団(以下「電脳」)が、同業の東京スパイラル(以下「スパイラル」)に敵対的買収を仕掛けます。

半沢が籍を置く東京セントラル証券はスパイラルのアドバイザーとして、なんとか電脳の敵対的買収を食い止めるべく戦うわけですが、電脳のバックにいるのは東京中央銀行。

半沢の宿敵である東京中央銀行の伊佐山は、スパイラルの買収に必要な資金を電脳に供給すべく、500億円の融資を行内で通すため、役員会に諮るのですが・・・。

ご存知の通り、結果的には大和田の力を借りた半沢が見事にその融資を阻止する、というのが大枠の流れでした。



さて、今回の記事は上記の「500億円の融資」の話です。

役員会で、半沢が伊佐山の持つ稟議書に向かって名ゼリフ。

「ゴミ扱いしているのではありません。ゴミだと申し上げているのです!」



これです。今回はこのゴミを作ってみようという斬新?な企画です。





ちなみに記事の構成は以下の4項となります。

1.プロジェクト名を決めよう

2.取組意義を考えよう(今回はここまで)

3.回収蓋然性を説明しよう(後半に続く)

4.担当所見を書いてみよう(後半に続く)



それではつらつらと書いてまいります。




さて、稟議書の見出しは真実の通りに書くとするならば、

「東京スパイラル買収に係る、既存先・電脳雑技集団向け株式取得資金の検討」

となります。


内容的にはもちろん正しいです。しかしながら、こんな見出しをつけて行内で稟議書を回付し始めたら、上司から役員からコンプラ部署から袋叩きに合うこと間違いなしです。


上場企業が上場企業を買収するというのは、言うまでもなくインサイダー情報であり、これをむやみに取り扱うと普通に逮捕される人が出てきたりしますので、銀行組織内でも最重要機密事項の1つです。

作中では既にTOBを発表した後に融資の検討に入っていることから、ゴリゴリのインサイダー案件ではないものの、やはり配慮をすべきでしょう。


金融機関、というかインサイダー情報を取り扱うような会社全て共通であると思いますが、インサイダー情報を含んだ案件を検討する場合、案件に関わらない社内の人間に対してその内容を伏せるために、プロジェクト名というものを決めることが一般的です。

もっと言いますと、インサイダー情報と関係のない非上場企業がターゲットであった場合でも、やはり企業を買収するというのは非常にセンシティブな話ですので、この世の買収案件には全てプロジェクト名が決められ、それを暗号代わりにして社内で会話します。



プロジェクト名の決め方については会社によって様々ですが、今回は「買収対象会社名の頭文字を拝借」して命名する方法をご紹介します。


買収対象会社、つまり東京スパイラルのことです。社名であるスパイラルの「S」から始まる単語をプロジェクト名にします。PJ:Sundayとか、PJ:Sandwichとかですかね。

ただし外資系企業の場合は、日常生活で使うような英単語をプロジェクト名に採用するのは避ける傾向にあります。

上記の例だと例えば「休日で申し訳ないんだけど、SundayにSundayの打ち合わせしない?」とか、「あいつSandwich食べながらSandwichの稟議にダメ出ししやがってさぁ」みたいな、非常に分かりにくい会話が展開される恐れがあるからです。


従って固有名詞が好まれます。地名とか学問用語(星の名前、科学用語、等)とかですね。地名を例に挙げると「PJ:Seattle」とかは良いかもしれません。シアトルはIT企業がたくさんありますから、対象会社の業種にも掛かっている感じがしてオシャレですね。



ちなみに今回は遊びですので、「PJ:倍返し」とさせて頂きます。

自由な社風の会社ですと色々とユーモアに富んだプロジェクト名を決めているところもあると思います。私もドラクエの呪文を使ってみたり、メインスポンサー張っているドラマやアニメのタイトルをプロジェクト名に使ったことがありますね。





さて、プロジェクト名がようやく決まったところで、本格的な稟議作業に移っていくわけですが、

兎にも角にも銀行という組織は「取組意義」を大事にします。


第一条 この法律は、銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もつて国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

(銀行法 第1章「総則」より抜粋)


銀行法にも書いてある通り、銀行の業務は高い公共性を帯びていることから、社会的に意義のある案件に取り組まなければならないと。


もう少しわかりやすく説明しますと、以下のざっくりとした銀行のビジネスモデルをご覧下さい。



銀行が企業に融資するときに使う「お金」とは、国民が銀行に預けている「預金」に他なりません。

つまり、世の中の皆様、個人個人から預かっているお金を勝手に拝借するからには、世のため人のためになるような案件に使いなさいと、こういうことです。


従いまして、そのお金の使い道、銀行的には「資金使途」という言い方をしますが、取組意義として認められない資金使途というものが存在します。


例えば投資のお金はなかなか資金使途として認められないケースが多いです。

「ビットコイン買いたいから金貸してくれ、あとで倍返しするからさ!」

これはNOです。一部の人間が儲かるだけで、その富(利益)が社会に分配されないような案件は、公共的使命を持つ銀行が出せるお金ではないという整理になります。


そして本題ですが、

敵対的買収資金という資金使途も、基本的には銀行の融資対象としては認められません。

理由は、敵対的買収という行為そのものが、日本国内において否定的に見られていることは大きいかと思われます。

否定的に見ているのは国民です。世論ですね。つまり世論に反するような行為に、公共的使命を持つ銀行が加担するのはまずい、ということだと考えられます。



さて、参りました。

これでは完全にそもそも論です。


しかし仮にも東京中央銀行の役員会にまで諮られた案件です。

取組意義がないわけがありません。





そう、取組意義がないのであれば作るしかありません。



ここで注目したいのは、電脳がスパイラル創業メンバーである加納と清田から株を買い取っているという事実。


実態は、金に目が眩んだ2人が瀬名社長を裏切ったという構図ではありましたが、そこを逆転させます。

つまり、瀬名社長を悪者にしてしまえば、そこに取組意義が生まれるではありませんか。





ほぼ全て嘘ですが笑、要約+補足しますと、

・瀬名社長はものすごいワガママ、やりたい放題。悪いやつ。

・瀬名社長の権力は上場企業の代表者としての許容範囲を超えてしまっている。問題。これが明るみに出れば、社内のガバナンスが機能していない会社だとレッテルを貼られてしまう。株価暴落するどころか、上場不適格とみなされるかもしれない。

・瀬名社長からスパイラルを守りたいという加納と清田からのSOSを受けて、電脳は人肌脱ごうと思っている。目標は瀬名社長を追い出すこと。そのためには買収しかない!東京中央銀行さん、力を貸してくれ。

・銀行としてもスパイラルの現状は看過できない。電脳に協力して買収成立させることで瀬名社長を追い出せれば、スパイラルは良い会社になる。そうすればスパイラルに投資している個人投資家の皆さんを救うことにもつながる。社会的意義のある案件ではないか!



こんな整理になりました。

さすがにここまで作り込んだのがバレたら、とんでもない話になりますが、社会的意義を誇張するために案件の経緯とか書面で残らないような部分を「盛る」ということは、わりと日常的に行われていることです。

また、視点を変えてみると違う表現ができたりするもので、良く言えば「説明の仕方」の一環かなと思います。これがうまい銀行員は評価が高く出世しやすいと勝手に思っています。



さて、なんとか取組意義も説明?できたことですし、次の記事で、回収蓋然性の検証をしたいと思います。

500億円の融資を実行したとして、一体どうやって回収するつもりなのか。その回収プランを説明できなければとても融資は通りません。

次は結構数字の話がいっぱい出てくると思います。


長々と読んで頂き、ありがとうございました。

引き続きよろしくお願いいたします!


#半沢直樹 #銀行 #稟議 #融資 #企業買収

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