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好きだった歌が心に響かなくなっても

実家に帰省している。私の部屋の勉強机は、高校生のころから時が止まっていて、当時の参考書やノートがほとんど残った状態だ。

ふと気になって、何冊かノートを手に取ってみたら、当時のメモが残っていた。

これはたぶん小説の中で出てきた慣用句を覚えるためにメモしたんだろうな。でも大人になって日常生活で一回も使ったことないぞ。そもそも、なんて読むの……。調べた。もくしょうのかん、らしい。使ったことない。『舞姫』かな……全然記憶にない……。

2ページ目にはまったく違うことが書かれている。どうやら慣用句のメモはすぐにやめたみたい。当時吹奏楽部に所属していたので、練習中の注意事項を書くノートに変更したみたいだ。

『ピッコロマーチ』ってなんだろう……まったく思い出せない。

「自分が一番言いたい音に向けて大きく(そして小さく)」というのは、なんかハッとする。

3ページ目も吹奏楽の曲の演奏メモ。

『光と風の通り道』ってどこかで聞いたことがあるような気もするけど、まったく音楽としては思い出せない。ほんとうにこれは私のノートなんだろうか。

まったく違う誰かのノートを盗み見ているような感覚になる。

このノートは5~6ページのメモのあと、何も書かれていなかった。当時メモ帳の上手い使い方が分からなくて持て余してたんだと思う。その気持ちだけなんとなく分かる。でも紙の上に書かれていることは自分じゃないみたいだ。


乱雑にブックスタンドに並べられた教科書の間に、現代文の授業のノートがあった。高校二年生のときのものだ。当時17歳。今から12年前。じゅ、12年も前なのか…………とショックを受けつつ、ノートを開いてみたら、中からプリントが落ちてきてた。夏目漱石の『こころ』を読んだクラス全員の感想集だった。

推測するに、私の書いた感想はこれだ。⑥番。最初は私が書いた感想は⑦なんじゃないかと思ったけれど、ノートの隅のメモが⑥と一致したので、⑥が私なんだと思う。

でも、うーん、本当に私、こんなこと考えてたんだろうか……。「私の文章だ!」という実感がまったくない。文章としては一応成立しているけれど、これが過去の私が書いた文章だと言われても、どこか他人事のように思えてしまう。一瞬よく書けているようにも思えるけど、うがった見方をすると、丁寧な言い回しで文字数を稼いでいるだけにしか見えない。面白く思えないのは、自分が書いたことだからなのかなあ。

メモと、感想文。たしかに自分が書いたことなのに、書いている人物はまったく別人のように思えてしまう。不思議だ。



私の勉強机のそばには、Mr.ChildrenのアルバムやMDが並んでいる。そういえば高校生のころ、私はミスチルが大好きだった。でも社会人になってから、あまり好きではなくなってしまった。理由は分からない。でも、歌を聴かなくなってしまった。

変わっていくさみしさについて想いを巡らせているとき、ふと思い浮かんだのは、Galileo Galileiの『夏空』という歌の一節だった。はじめて聞いたとき、衝撃を受けた。

好きだった歌が響かなくなったな
誰のせいでもない 僕のせいでもないんだろう

誰のせいでもない。僕のせいでもないんだろう。
嬉しかった。
大好きだったものが変わってしまう、もどかしさと苦しさ。
それがこの歌詞によって救われ、心がちょっぴり軽くなったような気がした。


新しい景色を見て、新しい体験をする。どんどん知らなかったことを吸収して、少しずつ中身がアップデートされていく。肉体は同じでも、心の方は変化しているところもあるんだと思う。もしかしたら、まるっきり生まれ変わっていることだってあるかもしれない。

ふと振り返ったときに自分の変化に気づいたら、驚いてしまうけれど、そんな自分の変わったところも、変わっていないところも、愛せたらいいなと思う。

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コメント (2)
私もミスチルが好きだったのは高校時代だけです。
昔好きだった人は今も好きなのに、昔好きだった音楽は嫌いな事があります。心の成長と関係あるのでしょうか。
なるほど。わたしの場合は、昔好きだった人なのに、今は好きでも嫌いでもなく、まったく興味がない、という相手がいますね…!
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