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「Last Week Tonight」はおもしろい

先日あるマスメディアの中の人と話をしていて、アメリカのフェイク・ニュースショーはおもしろいですよ、と言ったのだが、どうも相手はフェイクニュース・ショーだと思ったらしく、あまり芳しい反応は返ってこなかった。日本にもああいうのがあればいいのにと常々思っているのだが。

フェイクニュースはニュースそのものが嘘だったり存在しなかったりするが、フェイク・ニュースショーはニュース自体は本物で、実際の出来事を取り上げる。厳密には報道番組ではないという意味で、フェイクがかかるのはニュースショーのほうである。アンカーやスタジオのセットなどもいわゆるニュース番組ぽい体裁をとることが多いが、単なる報道ではなく、風刺の効いたコメディとして伝えるわけだ。このnoteでも、ラリー・ウィルモアの番組を取り上げたことがある。

フェイク・ニュースショーの起源は長寿番組Satuarday Night Liveの一コーナーで1975年に始まったWeekend Updateだと思うが、現在のフォーマットを確立したのは1996年開始のThe Daily Showだろう。特に2代目司会者のコメディアン、ジョン・スチュワートの皮肉が効いて辛辣なアンカーぶりが一躍人気を博した。そのThe Daily Showの特派員役出身で、イギリス生まれのコメディアン、俳優であるジョン・オリバーがアンカーを務めるLast Week Tonightは2004年に始まってすぐに大人気となり、今年でシーズン10となる。ここ10年ほどでは最も成功したフェイク・ニュースショーだと思う。ケーブルテレビ局の雄HBOが制作しているが、忖度もなく(HBOがからかわれることも多い)、リスキーでややこしい話題をがんがん取り上げている。もちろんトランプだの政治だのもよく取り上げているが、私の個人的関心に基づいていくつか紹介すると、

人工知能。

暗号化。

政府による監視。ここまでおもしろおかしく解説できるとは。

見れば分かるとおり、30分の週番組(正味は25分程度)だが、とにかく制作に手間暇がかかっている。ビデオクリップ等を探してくるのも大変だろうが、何と言っても中身がきちんとした報道になっているのがすごい。あくまでコメディ番組だと言い張っているが、内容が内容だけにうかつなことを言えば訴えられるだろうから、作りは周到である。また、積極的にネット展開しているのも特徴で、本来はHBOに加入していないと見られないわけだが、すでにお分かりの通り大体はYouTubeで見られる。もうテレビなど見なくなった若者層に大人気で、いわゆるwokeというかアメリカの若者層の左傾化は、おそらくこうしたフェイクニュース・ショーがもたらしたのではないかと個人的には思っている。

一言でいえば、ニュースの内容は視聴者のレベルに合わせないが、伝え方は視聴者に合わせるのである。これが、一連のフェイク・ニュースショーの成功の理由だろう。イギリス訛りで真面目そうな風貌なのに、放送禁止用語を連発するのも辞さないオリバーの個性も番組の成功に大きく貢献している。

日本のテレビで似たようなものはなかったかな…というと、ワイドナショーはコンセプトとしては近いような気がするが、取り上げる話題がいかにも薄く浅く、コメンテーターも感想レベルに留まると思う。最近亡くなった上岡龍太郎がかつてやっていたことは割と近かったような気がするが、いかに上岡が知的だったとしてもああいうものは一人だけで続けるのは無理で、有能なブレーンを何人も用意しなければならない。Last Week Tonightに何人が関わっているか分からないが、博士号や修士号をもつような専門家が何人もリサーチャーとして関わっているのは間違いない。しかも、そうした知見をおかしく分かりやすく伝えるためには凄腕の放送作家やグラフィック・デザイナーが何人も必要で(この番組はエミー賞脚本賞の常連である)、ドラマで儲かっているHBOだからこそ負担できるコストであろう。


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