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Unlocker! 美女の扉と少年の鍵

バーの照明が消えたのかと思った。

「貴方がミカルね」
油臭い水を啜っていた少年……ミカルは、遥か頭上から降る低い声で初めて、自分を呼びつけた女性によって灯りが遮られているのだと気付く。
女性という前置き無しに、巨きい。2mはある。加えて羽織ったロングコートの乾いた煙の香に、無意識に少年は緊張していた。

新聖暦333年。階層都市【アリアドネ・ヘプタゴン】。最下層。
11月だが、そこは地獄のように、暑い。

「私はヴィオラ。【事件屋】ヴィオラ。呼び出しておいて、遅れて失礼。座っても?」
と、少年が応える前に、椅子に悲鳴を上げさせながら彼女は対面に座った。
「何の用でしょう。ボクみたいなのに、上層《うえ》から」
「何か感じない? 私と会って」
言いつつ、ヴィオラがコートの前を開くと、暗黒の影と甘い女の香りが漏れ出した。
「上層のヒトが下層のガキに何を……?」
声が上ずることを自覚しつつその不可解な誘惑にミカルは困惑し、赤面する。

「ヴィオラちゅわ~ん。鍵無くしたってマ? ブッ殺しに来たよン」
バーに不愉快な声が響いたのはそんなときだった。

ミカルがヴィオラの肩越しに見たその男の左掌には、深々と鍵が突き立てられている。
「マスチフ……こんなとこまで……」
ヴィオラは心底面倒くさそうに呟く。
「アンロック。レッドヘイズ。死ねよ、鍵無し。下層のクズに紛れて」
男、マスチフの掌に鍵が飲み込まれ、【扉】が開く。そこから吹き出した煙に巻かれて、バーの客が次々に死んだ。
「時間がないから無理矢理いくわよ。無くした私の鍵の代わりを持ってるのは貴方。だと私は直感している」
そう言ってヴィオラは一気にコートをはだけさせると、巨大な双つの山で造成された、あまりに深い谷間が少年の目の前に曝け出される。
「あと数秒で鍵を開けなきゃ、二人とも死ぬ。鍵穴は無くても鍵は持ってるでしょう。マイ・キイ」
少年の手には鍵が。女の胸元には鍵穴が。現出していた。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。