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むつぎ大賞2022

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記事一覧

サイエンス・ファンタジー ワンシーンカットアップ大賞 結果発表

はじめにこの度はサイエンス・ファンタジー ワンシーンカットアップ大賞にご参加いただきありがとうございました。 結果発表の前にお伝えしておきたいことは、今回賞に選ばれなかったからといってあまり落ち込んでほしくないと言うことです。 重ねて言えば、賞を取っていない=劣っているということではありません。 むしろ、いずれも信じられないほどレベルの高い作品ばかりで驚いたというのが本心です。 これはコンテストですので、勝者と敗者が出てきます。 出来る限り平等に審査を行ったつもりですが、

アナゴーゴン退治

「YRRRRRRRRRR!!!」 ハルパーの曲がった切先が鰓穴に突き刺さり、ケルベモレイウスは身悶えた。最後の力を振り絞って、切断された2つの首と体でペルセウスに絡みつき締め付ける。アーマーの外から圧迫して中身を潰そうとしている。 ペルセウスは腰と肩を安定させ、ハルパーを発振させた。刃から発する高周波が筋肉を弛緩させて拘束をゆるめた。ペルセウスはハルパーを一気に引きぬいた。 「YRRっ」 3つの頭を全部切り落とされて、ケルベモレイウスは完全に静止した。高周波ハルパーを

ニールと結晶の乙女たち

金属の大顎が砂漠の熱風で回り続ける風車の根元に食らいつく。突如、空中から飛来した油圧シャベルの解体用大顎バサミにはアームしかくっついていない。しかし大顎は生きたワニのように鋼の牙を風車の支柱に突き立て、軽々とへし折った。 ニールはアームと一緒に屋上から落ちていく風車を瞼の無いギョロ目でみつめた。 (お前らなんか匿うんやなかった! ) 口をついて出そうになった言葉にニールは分厚い唇を歪ませる。予期せぬ客を受け入れたのは自分だ。言葉を必死に飲みこみ、ざぶんと音をたてて水の中に

五十億の死、幾万の骸

 骸、骸、骸。 銀の骸、緋の骸、緑の骸、桃の骸、灰の骸。 おおよそ、黎明期のAIによって描画されたような、統一感のない色彩が散りばめられた一面の亡骸で埋まった大地を、透き渡る青空が無感情に見下ろしている。  これらは過去の残滓であり、容易には消えることのない、この世界に刻まれた災厄の痕であった。そんな骸の畑の真ん中、エナジードリンクの缶をビルサイズに引き伸ばしたかの如き亡骸の一つの上に一組の男女。そして彼らの背後には、この場で唯一屹立する黒い像。 「20年前、五十億人が死

【MAGIC】

 「おいカメラ!どうなってんだとっとと報告しろ!」  「1000万分の1秒単位で消えてるんですよわかるわけないでしょう!」  「マルチ使ってんだろそれで確認しろや!」  「マルチ使ってそれですよ!まったく同じタイミングでどの角度からも映像から確認できなくなってます、文字どおり消えてんですよコイツぁ」  「ありえるかそんなことが!大学出てんだろテメェ!?GPS!GPSはどうなってる!?」  「右に同じー。やっぱ一緒に反応消えてますよ。追跡も効果ナシ。もう本当に消してるんじゃな

【マグロラーナの二週間】 むつぎ大賞

 流れ星すら見ることがなく(といってもシャトルも流れているのではあるが)もう70時間ほど経っただろうか、変わり映えのしない真っ暗な景色に飽き、船員が昼か夜かもわからないまま睡眠を貪っていたところでホノルルから通信が入った。コーディーはもうしばらくでマグロラーナにかなり近づくことを三度繰り返した後、宇宙での生活を冷やかすように酸味の強いコナをゆっくりと抽出する音を聴かせ、ふうふうとアロマを部屋に漂わせた後にそれをひと口啜る音をたてた。まったく嫌なやつだ、アンドレユスがそう言って

この塹壕のような惑星に救済を(原題:CビームのCはCrusaderのC)

〈以上が道に迷う者どもを待つ来世の一覧となります〉 草木も眠る丑三つ時。自室で眠っていた狩人の青年を揺り起こしたのはB教の司教でもある伯爵に侍る小柄な鉄の乙女、マイクロ比丘尼どもであった。 〈我々が計算した結果、今の狩猟生活を四十歳で死ぬまで続ければゼラ様の来世は良くて棘皮動物、最悪の場合はアミノ酸もありえます。今すぐB教に帰依しましょう〉 青年の名前はゼラ。是で良しと書いてゼラと読む。文机も燭台も無い狩人の部屋に集まった尼僧どもの双眸が闇夜の中で明滅を繰り返している。

パロマは「殻」の中

⚠︎警告:ホラー描写、およびブラック労働描写が含まれます。苦手な人は読まないでください⚠︎  バルトロメ・ゴンザレス・ヒメネス子爵・著『魔術師の民俗』より  第三章『民間伝承』、ある労働者階級の老婆の子守歌  ――ねんねこ坊やお眠りよ、夜が明けるまでお眠りよ    夜道の足音誰の音、「殻」に籠もった「魔術師」よ    夜に歩けば「魔術師」に当たる、見つかりゃ命はありはせん    貴族も乞食も盗人も、さあさ逃げろや「殻」の音    追い付かれたら攫われる、明日は「魔術師」の

竜の天蓋、エーテルの海、そして月へと至る道 #むつぎ大賞

 その日の勤めを終え、定宿である『赤蛙亭』へと戻った魔術師ミゴリスは、二階にある自分の部屋の扉に手をかけた途端、小さな小さな違和感を覚えた。  扉には封印呪法を施してあった。三十六層極小方陣術式からなるそれは、他者の侵入を決して許さない魔法の錠前である。ミゴリス自身が組み上げ、彼以外に破れるはずがないと確信を持って断言できる、唯一無二の術式だ。  ミゴリスは濃灰色のフードを目深に被り直すと、扉に触れる指先に精査術式を送り込んだ。術の発動は、瞬きほどの時間。だがその一瞬で、指先

吾子よ、世界の果てを越えて翔べ。

吾子よ、世界の果てを越えて翔べ。  イチカが処置を終えて早期発生室前のベンチに座ると、偏光アクリル張りの未出生児室が良く見えた。午後を廻ったリプロダクト・センターは平日にも拘わらずにぎやかだ。亜人の親たちが熱心にアクリルの向こうを見つめている。今日中にあの人たちの仲間に自分たちも加わるのだと思うと、ちょっとドキドキする。  背中にツートンカラーの翼を生やした丹頂天狗が、ゴールデンレトリバーのコーボルトをその翼で掻き抱き、そのすぐ隣では大きな耳を忙しなく動かす兎の獣人に只人

宇宙龍脈幹線 地球支線(スペースレイライン・ジ・アースブランチライン) #むつぎ大賞

■  烏帽子型ヘルメットの給気口からガニメデの大気がしみ込み、おごそかな駆動音と共にヘルメット内へもたらされる。タンク内の酸素と混合された冷気をゆっくり、時間をかけて吸込み、また同じ時間をかけて吐き出す。吐息は狩衣を模した袖の排気口から外へ出ていく。  ごく微量、異星の大気を呼吸する。  星の一部を取り込み、自分の一部を吐き出す。 『客船、界面より浮上』 『承知』  金属板瓦を葺いた屋根の上に木星がかかり、分厚い雲をたなびかせている。その渦の内側から、青く輝く宇宙船が

海水の女神【ペンドラゴン・サーガ:オリジンより】 #むつぎ大賞

一機の宇宙船が音もなく海岸近くに着陸する。 「青い海に緑の森……故郷の星と同じ。本当に美しいと思わない?」 船内で背の高い女性が銀色に輝く髪をかき上げ感激している。 「確かにそうですけど、任務を忘れてはしゃぎ過ぎないでくださいよ」 同じく銀髪の若い男性が念を押す。女性が丈高いのも相まって、彼はまるで少年のように見えた。 「わかってるわよ。じゃあわたしは野外調査してくるから機材の準備は頼んだわね」 「仕方ない人だ……」 女性が船外に出ると迷彩機構が起動し、宇宙船は岩塊にしか見

周回するダイヤモンドとその後のメーテル

 リオ・バナナナッツの繰り出した魔法陣が、フィールドで光を放つ。周囲の植物は、短く刈り揃えられているにもかかわらず、そのエネルギーにより揺れている。  彼女が拳に力を入れると、円陣は跳ねるようにして中空に浮いた。まるで生きているみたいだ。次第に収斂して球体に近づいてゆく。そのたびに輝きが強くなっているのを感じる。これはやばい。  俺は脳のリミッターを外した。デジタルアルパカ社製の合金サイバネは強度も高いが出力も高い。うまく制御できない腑抜けは、自分の脳に細工をしなければなら

パラポリンカ

〇 紫と翠色が混ざり合っているような夕刻の空。雲が遠く、近くと峰をつくる。上空一万メートル。地表の色は黒く、空の色とあいまって、綺麗なツートーンを水平に描いていた。風が強く、甲板に出るとゴーグルなしには目を開けることができない。突如、近くの雲から小さな爆発のような破裂音が聞こえる。我らローバルト空団の大ガランカ(直径二キロメートルの母船)の船先が顔を出した瞬間だった。ガランカに粉砕された雲が後ろに流れていく。 「ナユタ、ガランカが出てくる。周囲の警戒を怠るな