酒井くん記事_アイキャッチ__1_

ゴリゴリの実務者が書いた、LTVを正しく理解・計算する3つのステップ

こんにちは! マネーフォワードで分析推進室長をしている、酒井と申します。

早速ですが、LTVってご存知ですか? SaaSやアプリビジネス、広告に詳しい方には愚問かもしれません。『ライフ・タイム・バリュー』=『顧客生涯価値』の略称です。

でも『ライフ・タイム・バリュー』とはなにか、本当に理解して説明できますか?

本記事では、知っているようで知らないLTVの本当の意味について、どこよりも丁寧に、わかりやすく解説します。

本記事は3章構成になっています。
第1章:LTVを理解する
第2章:月次離脱率を理解する
第3章:月客単価を理解する

# 1−1.LTVの教科書的解説

画像1

まずは、典型的なLTVの解説を見ていきましょう。Googleで検索すると、色々な解説がありますが要するに「顧客から生涯にわたって得られる利益」です。

では、それはどうやって計算されるのでしょうか。例えば「LTV 計算」でググってみると、下記のような式が出ます。

- 顧客の年間取引額 × 収益率 × 顧客の継続年数
- 顧客の平均購入単価 × 平均購入回数
- ARPU / Revenue or Customer churn

…… 三者三様、それぞれわかりにくい!!!!

しかし、本記事を通じてLTVを理解いただければ、必ずやあなたの課題に適したLTVの定義が見つかるはずです。

# 1−2.LTVは、CACのためにある

申し訳ないのですが、ここでもう一つアルファベット3文字用語を使わせてください。

CAC(=Customer Acquisition Cost)とは、「1顧客あたりの獲得コスト」を意味します。CPA(=Cost Per Acquisition)という言葉のほうが馴染みがあるという方もいるかもしれません。

実は、このCACを導出するためにLTVがある、といっても過言ではないのです。LTVとCACには密接な関係があるんです。

LTVの単位は何でしょう?「顧客あたり利益」なので、答えは[円/顧客]です。では、CACは?「顧客あたり獲得コスト」なので、そう、同じく[円/顧客]になります。単位が同じということは比較が可能な気がしますね。

では、どんな比較をするとよいのでしょうか?

# 1−3.LTV÷CAC > 3 を目指せ!

最後にもうひとつだけ、アルファベット3文字用語を使わせてください。
ROI(=Return On Investment)、「投資利益率」という概念です。これは、投資に対して、いくらお金が返ってくるかという指標で、たとえば10万円株を買って、20万円で売れたら、ROIは+100%です(20万÷10万 - 1 = 100%)。

同じ概念をLTVとCACの間にも見出すことができます。1顧客を獲得するのに1万円(CAC=1万)かかって、その顧客がサービス内通算で5万円の利益を落とした(LTV=5万円)としましょう。そのときのROIは+400%、これは非常に良い投資ですね。実際に、SaaSの世界では、LTV÷CACが3(ROI +200%)を超えていると、非常に良いと言われています。

言い換えると、LTVが3万円のサービスであれば、CACが1万円以下であれば合格。仮に千円だとしたらあまりに獲得コストが安すぎるので、もっともっと広告等に費用を投下したほうがいいという意思決定ができるのです。

* なぜ”3”なのかについては別記事で書くつもりです(予定…)

# 1−4.LTVをどう計算するか

さて、概念を理解したところで、改めて計算の話をしましょう。
結論としては、LTV計算は、

売上ベースの場合:月客単価 ÷ 月次離脱率
利益ベースの場合:月客単価 × 利益率 ÷ 月次離脱率

で計算可能ですが、もう少しだけ辛抱いただいて理解を深めて使ってください。

# 2−1.なぜ月次離脱率で割るのか

画像2

LTVとは、お客さんが毎月落としてくれる売上(もしくは利益)の合計ですので、一番直感的に理解しやすいのは、下記の公式でしょう。
LTV = 月客単価 × 顧客の平均利用月数

この「顧客の平均利用月数」は「月次離脱率」から算出することができます。
以下、数学アレルギーの方は読み飛ばしてください。
これは高校数学で習った「等比数列の和の公式」で説明できます。

顧客の平均利用月数 = 利用月数期待値は(1 - 月次離脱率)をrと置くと、
r^0 + r^1 + r^2 + r^3… = Σr^n
で、これは初項が1、公比r、項数n(n→∞)の等比数列なので、和の公式より、
顧客の平均利用月数 = 1/(1-r)
ここで r = (1-月次離脱率) なので、
顧客の平均利用月数 = 1/月次離脱率となります。

ということで、
顧客の平均利用月数 = 1/月次離脱率
となり、これを先ほどの公式に当てはめると
LTV=月客単価×(1/月次離脱率)となり
LTV=月客単価÷月次離脱率
となるのです。

# 2−2.本当に、顧客平均利用月数 = 1 / 月次離脱率 なのか?

前項は、要するに「月次の離脱率がわかれば、顧客の平均利用月数がわかる」という話でした。
でも、これは本当でしょうか? 実はちょっと嘘なんです。

月次の離脱率ってなんでしょう?
先程の例では、毎月の離脱率が一定であるという仮定が置かれていました。実際の離脱率は初月ほど高く、長く使っていると低くなります。

一般的には、全顧客の平均月次離脱率が採用されていますが、特にサービス開始直後など、平均的な顧客の定着具合がまばらなときなどは、LTV計算の意味がありません。

もし、どうしても計算したい場合は、登録後経過月別の離脱率実績を集計した上で、Excelで各月の残存確率を計算するのがいいでしょう。残存確率を合計すると、平均残存月数になるので、その値に月客単価をかけてあげるのが良いです。

# 2−3.月次離脱率にどの指標を採用するか?

食傷気味でしょうか?笑
そうだとしても、LTV計算は、SaaSサービス経営の核ですので頑張りましょう。

次は月次離脱率に何を採用するか、です。

大きく月次離脱率には2つの指標があります。
① Customer Churn Rate
② MRR(=Monthly Recurring Revenue/月次収益) Churn Rate

①は「前月いた顧客が、今月どのくらい減ったか」という指標で親しみがあるかもしれません。しかし、重要なのは②「前月いた顧客のMRRが、今月どのくらい減ったか」という定義です。

というのも、①だと客単価の上昇を織り込めないのですが、②であれば客単価の上昇と顧客の離脱両方を織り込むことができます。ですので、売上ベースLTVの計算は、理想的には、
月客単価 ÷ MRR Churn Rate
となります。

しかし困ったことに、MRR Churn Rateはマイナスやめちゃくちゃ小さい数字を取り得ます。例えば、毎月客単価が倍になって顧客がx3/4になるときのMRR Churn Rateは−50%です。その場合、先ほどの式に当てはめるとLTVはマイナスになります、これは変ですね。同様にMRR Churn Rateが0.00…と限りなく0に近い値のとき、LTVは∞になります、これも変です。

なので、MRR Churn Rateが小さい企業の場合は、LTV/CACは使わず、回収期間など他指標を中心に見たり、あえて保守的であることを前提にCustomer Churn Rateを使うのがよいでしょう。

# 3−1.月客単価とはなにか?

画像3

ここで問題になるのは、無料利用者を含めるか、含めないか、ということです。
① 無料を含めるときにはARPU(Average Revenue Per User)
② 有料利用者に限定するときはARPPU(Average Revenue Per Payed User)
をそれぞれ採用します。

どちらを採用するかは、どんなCACを計算したいかに関係します。無料利用者の獲得も含めたCACの適切値を調べるときは①、有料利用者の獲得CACの場合は②を採用すればよいです。

ただし、離脱率についても①の場合は無料利用の継続率、②は有料利用の継続率を採用するように気をつけてください。

# 3−2.売上ベース?利益ベース?

これを最後の解説にしようと思います。月客単価について、売上ベースを使うか利益ベースを使うかという問題です。

1−4の項で、LTVの計算方法は売上ベースと利益ベースの2パターンあることを紹介しました。

売上ベースの場合:月客単価 ÷ 月次離脱率
利益ベースの場合:月客単価 × 利益率 ÷ 月次離脱率

まず、売上ベースで算出したLTVをそのまま使ってLTV/CACを見るのは危険です。利益率が10%の商品と90%の商品では倍ROIが違うのに、それらを同一視してしまうからです。

ですので、利益ベースを使いたいのですが、「何を以って利益とするか」が大きな課題となります。このときに採用したいのは粗利、つまり「1単位の売上に対していくらの利益が上がるか」という概念です。

言い換えると、売上に対して紐づく費用が、売上の何%かということです。一般的には、
- カスタマーサポート
- カスタマーサクセス
- プロダクト開発(R&D)
などが「売上に対して紐づく費用」とみなされます。これが何%かを計算し利益率を割り出せば、LTV計算式の完成です。

# まとめ

・LTVは、適切なCACを計算するためにあるといっても過言ではありません
・LTV計算において、どの月次離脱率を使うかは状況によって全く変わります
・基本的には利益ベースLTVを採用し、月客単価 × 粗利率 ÷ MRR Churn Rate で計算するのが良いです

# さいごに

たいへんな長文を読んで頂き、ありがとうございました。

いままで、なんとなくLTVを使っていた方に、一歩進んだ理解を提供できましたら幸いです。実は、他の指標(回収期間など)や企業のバリュエーションで使われるDCFとの関係など、まだまだ語り残したことはたくさんあります。

もしLTVを始めとしたユニットエコノミクスについて悩むことがあれば、いつでも相談してください。より深い議論をしたいという方も歓迎です。

では、よりよいLTVをお過ごしください!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?