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ちょっと真面目にことばのはなし

「おまえらテープ回してないやろな」は冗談だった。

ネットニュースの見出しみたいな始め方をしてみた。

闇営業問題に関してはザンネンだったけども、私は政治家の失言や芸能人の不倫騒動のとほぼ同じ閾値内で受信していた。

なんとなく他人事じゃないなと思いだしたのは松本と東野のワイドナショー。仕事でタイムリーに観られずYouTubeで視聴したが、松本の全ての発言が心に響いたし、その時、詳しくないはないけど単純にお笑いが好きな身として、ことの重大さをより身近にじわじわと感じ取った。

岡本社長の記者会見も終わり、普段何の気なしにボーっと観られる情報番組でも議論がなされ、吉本芸人の出演の多さを改めて知った。その中でも確かに、って思ったのは、岡本社長の「おまえらテープまわしてないやろな?」が冗談だった発言についてのコメント。社長や藤原副社長の言い方からだと、私は本当に冗談やったんやと思ったし、関西人だからかもしれないけれど、普通に生きていて実際そういう場面はあるよなあとも思った。その事はバイキングでもコメンテーターたちが話していて、だからファーストインプレッションって恐いねって話になっていた。だって宮迫の言い方だと、アウトレイジ的な、迫られて言わたような感じを受けたから。そしてそれがもう、一旦は大多数の視聴者に浸透してしまったであろう印象だから。

事の真偽はさておき、ことばって一歩間違うと恐い存在。使い方や言い方や、話すときは声のトーン、書く時は文字の形などで受け取り方がゼンゼン変わってしまう。



前座が長くなりましたが、ほむほむこと穂村弘さんの「短歌という爆弾」は、副題「今すぐ歌人になりたいあなたのために」とあるように、歌人になりたい人のためのいわばHowto本なんやろなあと思って、恵文社一乗寺店で購入したものです。私は歌人になりたいわけではなかった。ただ単に、最近の短歌のスタイルが面白いなとおもって。

”こんばんは昨日のぼくの握力のまま冷えているトマトケチャップ”

”わりばしでアイスコーヒーかきまぜて映画になれば省かれるくだり”

上記2首は、「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」という最近出版された短歌集から拝借したもの(木下龍也、岡野大嗣著)。

知性と気品に溢れていて、わたしなど一生まじりあうことのない世界だなと思っていたが、この作品集やほむほむの著書を読んで、短歌って自由で、自由に使うとこんなに面白いんだなと感動した。

はたして、「短歌という爆弾」は「今すぐ歌人になりたいあなた」に解り易いようなハウツー本ではなかった。「君がいない夜のごはん」とか「にょっ記」を書いている人と同じとは思えないくらい、ほむほむと穂村弘が全く別人格なんじゃないかと思うぐらいヘビーで、ちょっと狂気じみている。(すごい失礼なんだけど、ああ、ほむほむは本当に歌人なんだなあと思った。)

本書は大まかに「導火線、製造法、設置法、構造図、世界を覆す呪文を求めて」の5章に分かれている。さいしょの方は、トーク形式の短歌作品批評やら、メール形式の短歌添削、実際にほむほむがどんな風に短歌に世界に入っていったかが軽やかに綴られていて楽しい。

だが、このリズムが「構造図」に入って止まる。まったく進まなくなる。難しいから。ただ、難しい、でも、分かる。そのぎりぎりのラインだからずっと面白い。

なぜ歌人になりたいわけでもない私でも楽しめるのか。それは短歌の作り方の話でもあり、ことばの使い方の話だったから。

例えば短歌が人を感動させるための二大要素として、共感と驚異が挙げられる。

短歌において慣用句や一般的な言い回し(ニコッと笑う、顔色を見る、など)の使用は面白味を欠いてしまうという。

でもこれらは別段、短歌に限った話じゃないと思う。

とくに私は接客業をしているからかもしれないけれど、いかに相手に伝わりやすく、頭に残るような説明ができるか、ということをよく考える。どこでもよく聞くフレーズは、聞こえていても最早聞きすぎていて感知できないことがある。いわゆる、聞き流してしまう。

よくあるフレーズの中に程よい違和を忍び込ませることは、聞き手を退屈させないためにも重要なことかもしれない。


”目薬をこわがる妹のためにプラネタリウムに放て鳥たち” (穂村弘)


そしてことばは、普段見えてる世界や次元をちょっとだけ歪めることも出来てしまう。


”下敷きを敷かずにできた筆跡の溝に時間の妖精がいた”

”ボス戦の直前にあるセーブ部屋みたいなファミマだけど寄ってく?”

”目のまえを過ぎゆく人のそれぞれに続きがあることのおそろしさ”


57577に凝縮されたとたん、ことばは急に威力をましてくる気がする。


もしかしたら、短歌こそ本当の”呪文”なのかもしれない。


(最後の3首はすべて既述の作品集「玄関の覗き穴から…(略)」の歌です。)




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