マネーフォワードシンカ公式note
【レポート】第2回スタートアップM&Aセミナー|Treasure Dataの事例に学ぶシリコンバレーのM&A
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【レポート】第2回スタートアップM&Aセミナー|Treasure Dataの事例に学ぶシリコンバレーのM&A

マネーフォワードシンカ公式note

マネーフォワードシンカが3週連続で開催しました「スタートアップM&Aセミナー」のレポートをお届けします。

本イベントでは、実際にM&Aや大型資本提携を経験したスタートアップ経営者を招き、M&Aに至った経緯や、実務面、生まれたシナジーなど体験談をお伺いします。

第2回のゲストは、2018年7月に企業売却を通じて英Armに入社した、Treasure Data共同創業者 芳川さんです。

「シリコンバレーのテクノロジースタートアップM&A」をテーマに、ArmとのM&Aについてお話いただきました。

登壇者のご紹介

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柏木:本日はマネーフォワード広報の柏木が司会、進行を務めさせていただきます。

早速登壇者のご紹介です。シリコンバレーにいらっしゃいますTreasure Dataの芳川さんです。

芳川:よろしくお願い致します。簡単に自己紹介をさせていただきます。

2011年にシリコンバレーのマウンテンビューでTreasure Dataという会社を創業、経営をしていました。その後、2018年にイギリスArm社が我々を買収。そこからは、Treasure Dataの社長兼Armの事業部長的な立場を担っていました。実は2020年10月から、Treasure Dataはまた半独立のような形になりまして、新しいジャーニーがちょうど始まったところというタイミングです。このあたりの話は、また後ほど。

柏木:ありがとうございます。現在そちらでは、コロナの状況はいかがですか?

芳川:あまり大きな混乱はないですね。特に「サンフランシスコベイエリア」と言われるこの辺りは、良い病院も沢山あるので、安心感もあります。とは言え、やはりあまり外に出たい雰囲気ではなく、みんな警戒していますし、一部で報道されているような住民がマスクをしないで集まっているみたいな状況は、ベイエリアではほとんど起きていないですね。

柏木:そうなんですね。皆さん基本的に、リモートワークでお仕事されているんでしょうか。

芳川:はい。ご承知の通りエクイティマーケットの状況は非常に良いので、景気はどちらかというと良い状況です。「リモートワークだけど笑顔の人も多い」というのが、今のシリコンバレーですね。

瀧:マネーフォワードの瀧です。私も柏木さんも、芳川さんとはビジネスでの繋がりというより、飲み友達、家族ぐるみの友達という感じです。シリコンバレーにいた時からの、お付き合いですね。

そういうこともあって、本日ご参加いただいている皆さんは「やけに会話がカジュアルだな」と感じられているかもしれないのですが、ご了承ください。

Treasure Dataについて

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柏木:それでは本題に入っていきましょう。まずは、Treasure Dataについてご説明いただけますか。

芳川:現在は「カスタマーデータプラットフォーム」という、いわゆるマーケティングテクノロジーのエンタープライズSaaSツールを提供しています。

創業当時は、猫も杓子もビッグデータという感じで、その流れで我々もクラウド上にデータウェアハウスを作ろうというところから始まり、徐々にマーケティングテクノロジーにフォーカスをして、現在のサービスになりました。

主な対象顧客はビールメーカー、化粧品メーカー、タバコメーカーなど伝統的BtoC大企業です。そういった企業の「世界中に客はいるが実際には誰なのかよくわからない」という状況に対して、各部署がいろんな形で持っているデータを集約し、ユーザーのペルソナや購入動機、満足度、需要予測などの解析を行えるサービスになります。

アジア、アメリカ、ヨーロッパなどグローバルに事業展開していまして、本社はシリコンバレーのマウンテンビューですが、日本のオペレーションも 非常に大きい会社です。

なぜシリコンバレーで起業したのか

柏木:なぜ起業の場所にシリコンバレーを選ばれたんですか?

芳川:三井物産のベンチャーファンド管理会社から投資を行う中で、プレイヤーも経験したいと考えたのが起業のきっかけです。

シリコンバレーを選んだ理由は、いくつかあります。まず、三井ベンチャーズの業務で2009年からこのエリアに駐在していたので、馴染みがあったこと。あとは、私はもちろん、創業メンバーであるエンジニアの太田と古橋、手前味噌ですが天才エンジニアである彼らが「シリコンバレーで勝負したい」という想いがあったこと。そして最大の理由が、Treasure Dataの商品が「基盤ソフトウェア」であったことです。

基盤ソフトウェアは、言語も関係ないし、特定のマーケット向けのカスタマイズも必要ありません。でも、日本で基盤ソフトウェアを作っても、日本のマーケットしか取れないですよね。本当の意味で世界で勝負するには、少なくとも日本では駄目だと考えました。

そこで、ソフトウェアマーケットの中心地でもあり、現地の投資家とのつながりもある、シリコンバレーを選んだのは、非常に自然な結論だったと思います。

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(創業メンバーの太田さん(左)と芳川さん)

柏木:なるほど。瀧さんもこの頃シリコンバレーいらっしゃったと思うんですが、現地での起業を考えなかったんですか?

瀧: マネーフォワードの場合は「日本のお金の流れ変える」という所に想いがあったので、投資家がつかない等の理由がなければ、日本で起業するのが良かったのかなとは思っています。

マネーフォワードと芳川さんの思い出で言うと、私が芳川さんにピッチデックを見せに行ったことがあったんですが「こんなの駄目だよ」と厳しくフィードバックをいただいて(いつもの芳川さんじゃない!怖い!)と思った記憶があります(笑)

そのアドバイスを受けてピッチデックを作り直して、金融情報の世界最大手企業が運営するVCをご紹介いただいて…と、とても事業を磨いていただいた記憶が蘇ってきました。

芳川:その節は失礼致しました(笑)

柏木:シリコンバレーで起業する上で、最大のハードルは何だと思われますか?

芳川:「チーム作り」だと思います。

シリコンバレーには「スーパーエンジニアが沢山いて、技術的なイノベーションの種が沢山ある」という一種のバイアスというか、イメージがあるかもしれません。確かに良いエンジニアは沢山いるんですが、それはここに限ったことではなく、世界のどこにでもいます。

Treasure Dataも、そういった世界中のエンジニアが集まっていますし、今まさにこのセミナーに使っているZoomも、コードベース自体は創業者の縁で中国の開発リソースが大活用されています。もちろん、セキュリティの根幹部分についてはアメリカ国内で開発していると思いますが。

似たような話で、先日アメリカで上場したContextLogic(Eコマースアプリ「Wish」を提供。本社はサンフランシスコ)も、基盤の多くがカナダや中国など、米国外で作られていました。

つまり、シリコンバレーは「良いエンジニアが集まる場所」である以上に「商売をする場所」なんです。あらゆるドメイン、ステージの会社にベストマッチする人材が沢山いて、資金へのアクセスもある。だからこそ、シリコンバレーで上手くチーム作りができる会社であれば、起点がどの国であっても成功できるんじゃないでしょうか。逆に言えば、最初のチーム作りを失敗してしまっている会社も多いと思います。

柏木:なるほど。ビジネスはその場所でしっかり構築して、エンジニアは世界でチームを作って開発するというスタイルが、これからは普通になってくるんでしょうね。

芳川:そうだと思います。それも、一時期にあったような、「BPOの文脈で開発業務の一部をアジア諸国等に委託しましょう」というようなものではありません。

トップクラスのエンジニアや経営レイヤーも含めたホワイトカラー人材を、どれだけシリコンバレー外でソーシングできるかというのは大事ですね。

マネーフォワードもTreasure Dataもそうだと思いますが、やはり良いスタートアップを作るというのは「人」が重要です。

シリコンバレーのM&A事情

柏木:この会のテーマが「M&A」ということで、シリコンバレーのM&A事情もお伺いしたいです。GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)に買収されたら成功というイメージもありますが、実際のところはどうなんでしょうか?

瀧:その質問で、12年前に芳川さんと飲んでいた時の記憶が蘇りました。もし自分が起業してその会社が買収されたらという話で、芳川さんは「Googleから10億円、Microsoftから15億円でオファーがあっても、俺はGoogleに買われたいなー」とか話していたんですよね(笑)

芳川:お恥ずかしながら、当時の自分の意見を綺麗に否定します(笑)

資金調達で重要なのは「企業価値をどこまで高められるか」と「双方の想い・理念」などではないかと。

あまり、キャピタリズムみたいなことを言い過ぎたくはないけれど、決められた期間内、資金内で企業価値をどれだけ高められるかというのが、本質的な社長の仕事であって、その点ではどこが買うのかはあまり関係ないですね。

そういった、キャピタリズムの本質のようなものと、非常に密接ではありつつ全く別の観点で、会社の持つ想いの部分をどう一致させていくか。

例えば、マネーフォワードであれば、日本の金融や、人々のお金の使われ方を変えていきたいという想いがある。そして当然、投資する側にも想いがあります。それこそ、マネーフォワードグループで立ち上げられた「HIRAC FUND」でも、想いってありますよね。

その2つを上手く叶えながら資金調達することが大事で、M&AなのかIPOなのかというのは結果に過ぎないと思います。

柏木:日本のスタートアップでは「資金調達したらIPOを目指す」という風潮があると思うんですが、なぜもっとM&Aが活発に行われないんでしょうか?

芳川:まず、シリコンバレーというよりもUS GAAP(米国会計基準)の方が、のれん代の償却問題等の観点から見て、企業買収に向いているというのはあると思います。

後は、やや古い感覚で今は当てはまらないかもしれないですが、伝統的に、日本の企業は自社主義が非常に強いかなと思います。大きい会社に買収されると、やはりその後の統合も大変ですし、そういったリスクを取るくらいなら自分たちだけでやろう、という感覚はあるかもしれないですね。

Arm × Treasure DataのM&A

柏木:ArmによるTreasure Dataの買収は2018年8月、創業7年のタイミングでしたが、こちらはいつ頃から検討し始めたんですか?

芳川:前提として、M&Aには大まかに「売りに行くM&A」と「買いに来られるM&A」の2種類がありますが、Treasure Dataの場合は完全に後者でした。

2016年にシリーズCを終えて、当時はシリーズDも見据えている状況。アメリカのSaaS企業は、成長するべき時にガソリンを燃やしまくる方針が基本で、キャッシュをきちんと使って成長を加速させていくので、各ラウンドで2年ほどのランウェイを設計して資金調達するんですよね。そのため、シリーズCの調達資金が2018年半ばに尽きることを想定して、シリーズDは必然でしたし、当時のTreasure Dataは成長軌道にあったので、シリーズDも問題なく調達できると考えていました。

一方で、それと全く関係なく、2017年初めにArmのCEOサイモン・シガースに会わせてもらう機会があったんです。

当時のArmは、完全に研究開発型のビジネスで、半導体の知財設計以外やったことのない中で、これから新しいマーケットを開拓し、ビジネスを多角化して成長していこうと考えていました。

そのタネとして考えていたのがIoT。IoTって、メインフレームのような中央集権型のコンピューティングではなく、組み込みコンピューティングと分散処理のビジネスなんです。Armはもともとその組み込みコンピューティングの知財が非常に強い会社で、IoTにフォーカスするっていうのは非常に自然な流れでした。

そして、IoTには大事なコンポーネントがいくつかあります。どうやってエッジからデータを上げてくるかという通信コンポーネント、そのエッジコンピューティングをどうやってリモートで管理するかというコンポーネント、そして一番大事なのが、上がってきたデータを価値に変えるというデータのコンポーネントです。

そこで、ArmとしてはTreasure Dataに限らずあらゆるデータ企業を探して話をしていたんです。

それ以降はずっとつかず離れず、情報交換だったり一時はパートナーシップを結ぼうという話もしていましたね。1年程経った頃、ある日突然「今から急遽会いたい」と電話かかってきて、M&Aを提案されました。

柏木:その時はIPOを目指していたんですか?

芳川:完全にそうですね。ファンドレイズを準備していてシリーズDを普通にやるつもりでした。

柏木:そこから、何をきっかけにM&Aを決めたんですか?

芳川:やはり一番大きいのは、Armと一緒になった後の期待値の高さです。

コンピューターの世界にいる人間にとって、Armというのは非常に大きなブランドで、そのArmの新しいビジネスコアを生み出すためのM&Aとなると、とても夢がありますし、Armと一緒になった方が、Treasure Dataのデータベースがより幅広く世界で使われるようになるはずだと考えました。

あとは、正直に言って提示されたバリエーションも意思決定の後押しになりましたね。当時のトップティアのマルチプルをつけていただきました。

柏木:日本円にすると660億円?

芳川:僕から金額を明言することはできないのですが、そのように報道されていましたね。

基本的に、アメリカのSaaS企業向けSaaSビジネスのバリュエーションというのは、ほぼ決まった計算式があります。その計算式において、利益というのはあんまり関係なく、年平均成長率 とグロスマージンが重要になってきます。

当時の売上マルチプル(PSR、株価売上高倍率)だと、8倍~13倍というのがベンチャーのバリュエーション相場。細かくは言えないですが、Armはそれをかなり上回るバリュエーションを提示してくれました。シリーズDを行う場合のシナリオと比較しても、Treasure Dataのボードメンバーと投資家の中で「これはすごい話だ」となりましたね。

瀧:Treasure Dataのリード投資家というか、ステークホルダーとなるキャピタリストの方はいらっしゃったんでしょうか?

芳川:チャールズ・リバー・ベンチャーズのビル・タイですね。ビルは個人でうちに投資してくれていました。また、シリーズAではシエラ・ベンチャーズのティム・グレリ、シリーズBではスケール・ベンチャー・パートナーズのアンディ・ヴィタス、そういった方々もボードメンバーにいて「最後はあなたたち(創業メンバー)が決めなさい」と言われていたものの、当然彼らの想いを汲んでいく必要がありました。ただ、非常に良いボードで、僕らの意に反した方向になるようなことは全くなかったですね。

瀧:シリコンバレーのそういったボード状況は、日本では知られてないことが多いと思います。例えば、3ヶ月おきぐらいで厳しく見られている空気感があるのか、半年とか1年先までちゃんと考えられるようになってるのかというところだと、どうなんでしょうか?

芳川:誰かボードに入るかによりますね。それは、ファンドのブランドよりも重要です。例えば、世界最高峰のVCであるセコイア・キャピタルであれば、トップパートナーが何名かいて、Googleに投資したマイケル・モリッツや、僕らの領域(エンタープライズソフトウェア)だとダグ・レオーネが有名です。そして、同じセコイアから出資を受けても、ダグ・レオーネが投資実行してボードに入るのか、セコイアの1番若いパートナーが入るのかでは全く違いますよね。

どういった文脈でこの投資を行って、この会社をどうしたいのかという所は、会社のマネジメントの大事なところですが、最後はVCもMoney Managerなので、IRR(内部収益率)をきちんと大事にするというのは、共通の文脈ですね。

柏木:ここまでの話を聞いていて、ボード全員の同意を得るの大変そうだなと思ったんですが、実際にM&Aが決まるまでの交渉などを振り返ってみて一番大変だったことって何でしょうか?M&A後のPMIについても、同じくお聞きしたいです。

芳川:時系列としては、2017年末に口頭で買収オファーがありました。そこから、2018年の2月頃にタームシートが届いて、当時たまたま妻の実家に埼玉に戻ってきていたので、埼玉から電話で交渉していた記憶がありますね。

最初に決めるのはバリュエーション、そこからタームシートの条件を交渉していくんですが、その中で特に大事なのは2つ。

まずは、エンタープライズ・バリューをきちんと決めること。Treasure Dataの何を買収するのか、残ったキャッシュはどこに所属するのか等、要はその会社のバリュエーションを決めていくことが1番大事です。私は社長としてお金を預かっていますので。

もう1つは、社員たちの処遇です。あまり詳細にはお伝えできませんが、例えばTreasure Dataの場合、買収金額とは別に日本円でいえば数十億円規模のプールを用意してもらって、コアメンバーにはその後の在籍に応じて毎年ボーナスを支給するというのを数年実施しました。

その後、1番辛かったのは人事的な役職のマッチングです。ArmはTreasure Dataからすれば何十倍の規模の組織ですから、例えば、Treasure DataのVPとArmのVPっていうのは、僕から見たら同じでもArmとしては全然違うんですよね。結果的に、僕がすごく信頼していて、頑張ってくれていて、一緒に育ってきたVPを、Armとの基準に合わせてディレクターに、ある種降格させるようなことが出てくるわけです。それはエモーショナルな観点でとても辛かったですし、マッチングが大変でしたね。

柏木:それで退職された方もいらっしゃったんでしょうか?

芳川:辞めた人はいなかったです。先ほど話したボーナスの割当も含めて、そこは丁寧にコミュニケーションを取りました。

柏木:発表されるまで、社長や一部のメンバーだけで進めていくと思うんですが、社員の皆さんには、発表後にそういう話をするってことですよね。

芳川:そうですね。M&Aの契約にサインした後に、人事マッチングを行ったんですが、Treasure Dataの場合はアメリカ政府の許可を得る関係で、契約のサインから実際のクロージングまで数ヶ月かかったので、その間に人事マッチングを行いました。社員みんなにアナウンスしてから、1人1人に説明をしました。世の中への発表はその後でしたね。

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(主要投資家ホストのClosing Dinner(M&A成功のお祝いパーティ))

M&A後の変化

柏木:案件クローズ後に変わったことはありますか?

芳川:大きく変わったことはないかもしれないです。

Armっていうのは非常に良い会社で「Treasure Dataの商号はぜひ残したい」と言ってくれて、しばらく「Arm Treasure Data」と名乗っていたんですね。Treasure DataのメンバーはTreasure Dataに対するロイヤリティが高かったので、その点でとてもありがたかったんですが、一方で、Armへのロイヤリティを持ちづらいところは課題でした。

シリコンバレーで日本人が作ったTreasure Dataと、ケンブリッジ大学を奥の院として研究開発を中心に発展してきたArmでは、やはりカルチャーも違うので、その辺りの調整は大変でしたね。

柏木:Treasure Dataのカルチャー自体は今も残っているんですか?

芳川:かなり残っていると思います。リーダーシップチームもあんまり変わってなくて、これは本当にArmに感謝しています。

M&Aでは、買収側が売却側のリーダーシップチームをガラッと変えるケースもありますが、Armは「私たちはソフトウェア会社の経営をしたことないからできない。だから、君たちにある程度裁量を渡すので、引き続き自律的にオペレーションしてもらいたい」と言ってくれて、M&A後も僕がやりたいことはある程度できたかなと思っています。

そういう意味で、人もカルチャーもあんまり変わっていないですね。そもそもArmは人に優しい良い人が多いんです。

NvidiaのArm買収とTreasure Dataの事業分離

柏木:次の動きとして、2020年9月に、NvidiaがArmを買収してTreasure Dataの事業を分離するという報道がありましたね。なぜTreasure Dataは分離されることになったんですか?

芳川:Nvidiaというのは、簡単に言ってしまうと半導体屋さんなんです。今回のArm買収では、半導体の知財開発というコアの部分の買収が主な目的ということで、Treasure Dataはこれを機に改めて外に出て独立してやっていきましょうという感じですね。ArmにはArmで株主さんがいらっしゃいまして、色々な事情もあったのだと思います。

柏木:Armと一緒になる方向性を見据えて動いてたのに、また切り離しますとなったらTreasure Data社内は混乱しないですか?

芳川:混乱も多少ありますが、影響は小さいですね。

ArmとのM&A後は、IoTはもちろんArmの他のビジネス部隊とも一緒に事業開発をしていたんですが、一方で、Treasure Dataのコアビジネス(マーケティングテクノロジーのデータ解析)は先ほど申し上げた通り引き続き独立してやってたので、ビジネスユニットとしては半独立状態だったんです。

もちろん人事制度の再設計などはありますが、ビジネスや、その日々の業務は変わらないメンバーがほとんどだと思います。

柏木:これまでArmと一緒にやってきた提携事業はそのまま続いていくんですか?

芳川:是非そうしたいです。ただ、そこはNvidiaの戦略もあるので、彼らが我々とのパートナーシップをどう見るかですね。

M&Aを成功に導くために

柏木:最後にまとめとして、M&Aを成功に導くために大事なことを教えてください。

芳川:これは、有名なベン・ホロウィッツが言ってるんですけど、買収には3つの種類があると。

1つ目は、テクノロジーを買うための買収。ビジネスとかあんまり関係なく、会社のコアIPや人材を買収企業が取り込みたいパターンですね。

2つ目は、プロダクトを買うための買収。そのまま、製品ラインナップを増やすことができます。

3つ目は、ビジネスそのものを買うための買収。

これは比較論ですが、1、2、3の順番でどんどん規模が大きくなっていきます。Treasure Dataは完全に3つ目のビジネスを買うための買収でした。そうすると、人のすり合わせっていうのは非常に大事。

M&Aって例えば、当時のTreasure Dataの株主からすれば、サインして、エクイティを渡してキャッシュを受け取っておしまいなんですが、会社はその後も続きます。そのM&Aが上手くいどうかは、どうやって人を残していくか、あるいはどうやって買収してくれた会社のカルチャーと自分たちのカルチャーやプロダクトをすり合わせていくかというのが、大事な作業なんです。

「契約にサインをして終わり」だと思わないことが、一番大事だと思います。

柏木:感情の部分がとても大事になんですね。

芳川:大事ですね。瀧さんもそうだと思いますが、スタートアップを経営してると、日々良いことよりも悪いことの方が起きるんですよ。後で考えると良い思い出だったりするんですけどね。

その中で1本筋を通して「このビジネスを新しいオーナーに引き継いできちんと育ててくんだ」って気持ちはすごく大事ですね。

柏木:ありがとうございます。瀧さんからは何かありますか?

瀧:ここまで深い話をすごく丁寧に話していただいて、感動しながら今日は聞いていました。Treasure Dataのカルチャーなどもあって、M&Aにまつわる激変もある程度緩和されていたのかもしれませんが、それでも色々ご苦労があったんだなというのは、芳川さんの顔色を見て感じました。

芳川:そうですね。Armとしては、Treasure Dataの買収というのは過去最大のキャッシュの買収だったそうです。彼らとしてもアウトサイズな買収だったということです。

例えば、SalesforceのSlack買収、FacebookのInstagram買収もそうですが、大型の買収でいきなり何もかも一緒にするのではなく、良い所と悪い所をきちんと選別して、徐々に一緒にしていくことが成功の近道なんだと学びました。

OracleのNetSuite買収では、NetSuiteはまだかなり独立した状態で続けていますよね。要は「買収したから明日から君の会社は俺のものだから」ではなく、徐々にOracleブランドを乗せていくなどが良いんでしょうね。

Q&A

柏木:最後に、参加されている方からの質問をいくつか。

Treasure Dataは現在売上3桁億円以上の規模とのことですが、今後5年間でどの程度の規模の会社に成長するとお考えでしょうか。またその際に必要な条件、資源はどういったものになりますか。

芳川:条件はやはり人ですね。5~10億円の会社の経営やリーダーシップをするのと、100~200億円、あるいは数兆円規模の会社のそれは、求められる能力が全く異なります。僕やCTOの太田も、創業者としてカルチャーのコアとして幸い尊重していただいている一方で、やはり本当の意味で成長していくには、適切なタイミングに前向きな意味で人を追加し、入れ替えていくことが大事だと思います。「入れ替える」と言ってしまうと、ちょっと刺激的に聞こえてしまうけど、人を追加していって経営のあり方をどんどん強くしていく必要がありますね。

スタートアップの良いところとして、組織がまだ小さければ社長とそれ以外という感じでフラットに成り立つのですが、そのままで成長できる程世間は甘くない。組織も、人事制度も作らなければいけないし、人も育てなければいけない。そういうことを経験した人たちのDNAを入れていくのは大事ですね。

柏木:ありがとうございます。次の質問です。

「日本企業でM&Aを活性化させるために、買う側の視点から重要なことは何でしょうか。

芳川:すごく良い質問ですね。逆に、僕も教えてもらいたいところではあります。

M&Aは、買う側もやはり怖いんですよね。社内には反対する人もいるだろうし、特にSalesforce・Slackの例のように、数兆円をかけて買収する大型買収のケースはきっとなおさらです。

そうすると、重要なのはリーダー。CEO、社長、経営陣などリーダーの「この買収を成功させる」「このROIを最大化させる」という強い想いが大事です。怖さもあるけれど、上手くいけば、これまで全く対象マーケットでなかったようなドメインに、いきなりメジャープレーヤーとして登場できる良さがあるわけです。

そこで言うと、社長が数年単位で変わる状況で、M&Aを上手く進めていくというのは、あまり整合性が取れないかもしれないですね。

柏木:ありがとうございます。最後に私から芳川さんに質問です。今後、芳川さん個人としてはどんな活動をしていきたいですか。

芳川:せっかくこうして日本人としてシリコンバレーでネットワークを作り、色々経験もさせてもらったので、その経験を他の人たちにシェアしていきたいと考えています。日本のマーケットからシリコンバレーにも来てほしいという想いもありますし、そういう仕事ができたらいいですね。

柏木:それは楽しみです!芳川さん、瀧さん、本日はありがとうございました。

マネーフォワードシンカでは、スタートアップのM&A支援サービスも行っています。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。

第1回のレポートはこちら。

文・構成/甚野広行苞山美香

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「経営者の想いとSynchronizeし、経営者とともに進化する」 成長企業向けフィナンシャル・アドバイザリーサービスなどを提供するマネーフォワードシンカの公式noteです。 https://corp.mf-synca.jp/