【MeWSS論文コラム】 メディカルライターになるには その3
外資系出版社傘下のメディカルライティングチームで、日本人メディカルライターを英語論文の責任者にするシステムを作ったというお話を、前回のコラムで書きました。
こういったやり方については、結果として売上を6倍に伸ばしたので英国の本部からも文句は出ませんでしたが、本当のところは理解してもらえなかったろうなあ、と思います。その思いもあって、前回のコラムではちょっと先走り過ぎたかもしれません。今回は一息落ち着いて、Nativeのメディカルライターについて説明しましょう。
メディカルライターに資格はありません。CMPPという論文倫理の資格(米国)があるのですが、これは主に製薬企業のパブリケーションマネージャーに必要とされているものです。特に米国系の企業は取得必須としているところが多く、私もかつて前職では取得しました。CMPPについては今度改めてご説明したいと思います。
前職のメディカルライターチームの本部は英国にあって、80人近いメディカルライターを雇用していました。採用時未経験の場合は、半年以上の教育プログラムや、先輩ライターの補佐を経て一人前と認定されることになっていました。メディカルライターになった後も段階的な評価システムがあり、ポジションや給与に直結していました。シニア、プライマリーメディカルライターというようにタイトルが付くのですが、そのタイトルは社内のポジション(マネージャーとかディレクターとか)とは独立していました。つまり管理職になりたくなくても職人として昇進することができ、実際にそういう人の方が多いようでした。
英語Nativeの国のメディカルライターは、常に仕事に困ることはないと聞きます。米国では製薬企業が自社内にメディカルライターを雇用するので、経験豊かな人材は取り合いになり報酬もどんどん高くなっているようです。途中仕事から離れても復帰しやすいですし、生命科学系の大学院生の人気の職業とも聞きました。医学部出身者でもメディカルライターになる人は結構います。ちなみに、英国の研究者友達に話をすると、メディカルライター?ふん、という反応で、研究者から転職する人は少ないようです。私自身も研究者だった時は、人の研究の論文を書くなんて全く想像がつきませんでした。
いいメディカルライターは内容を理解する、と前回のコラムで強調しましたが、結果や方法をいじることは絶対にありませんし、できません。事実に完全に忠実にかつ客観的な論文を書くが故に、第三者のメディカルライターに任せる意味があるとガイドラインでは言われています。
バイアスの気配を排除し、最新の研究を元にしたIntroductionやDiscussionを、メディカルライターは書きます。ここにプロの技術と経験が現れると思っています。
製薬会社からの案件ではプロトコール、結果、統計解析計画書の3点をセットでもらいます。プロトコールにはその試験をやるにあたっての背景や意義なども書かれており参考にはしますが、そのまま使うことはありません。最新版のガイドラインや総説をライター自ら読んで、この研究の目的や現時点での臨床上の位置を考えます。そうしないと査読に耐えられる論文を書けません。
私のチームでは、こういった作業はアウトラインを書く日本人ライターと、1st Draftを書くNativeライターの両方で独立して行いました。1st Draftの段階でストーリーが変わることは、私の経験ではありませんが、参考文献が増えたり内容がより深まったりすることはよくあります。
いいメディカルライターとは?という疑問があると思います。私は30人以上のNativeライターと一緒に仕事をしたことがありますが、優秀ですごいと感心させられた人は3−4人です。もちろん英語力には関係なく(みなさんnativeなので)、それよりも論理的展開とか強弱の付け方とか、そしてそういったクオリティーの高い仕事を短時間でこなすとかといったところでポイントが高く、さらにこちらから指摘したりお願いしたことをすぐに理解して対応してくれる柔軟さがありがたいです。バイアスをなくすのがメディカルライターの務めですが、著者の意見もありなかなか簡単にはいかないこともあります。それを根気よく丁寧に説明して軌道を修正していけるのも、優秀なライターの力です。
今MeWSSで私のパートナーとしてやってくれているライターは、その中でもっとも私が信頼している人です。次回はMeWSSでの仕事のやり方について書こうと思っています。