鈴鹿 響

宇宙から来たうさぎです。プレアデスが故郷です。雑多な文章を綴ることでなんとか地球に生息…

鈴鹿 響

宇宙から来たうさぎです。プレアデスが故郷です。雑多な文章を綴ることでなんとか地球に生息することが可能となっている生きものです。noteでは文芸的なもの、はてなブログでは基礎代謝的な日記を綴っています。ブログ https://meteo.hatenablog.com

最近の記事

コード

昨晩、おかしな夢を見た。 夢の中で、私は学校の教室のような場所にいた。典型的な教室で、机が並んでいて、多くの人が席についている。その机の上には、大きなアンプのような、スピーカーのような、へんてこなステレオ機材がそびえ立つように載っている。 私は私の機材から微かに流れてくる音を、耳を澄まして聴いていた。斜め前の席に座っている人が、私にとって大切な人であることが分かっていた。彼の奏でている音が私のスピーカーから聴こえているのも分かっていた。彼の機材からは太くて頑丈そうな黒いコード

    • primal scream

      愛する人を思い浮かべる。目を閉じて。 眉間の奥、脊髄の延長線と交わった辺りに、意識を集中する。第三の目。ヨガでいう第六のアジナ・チャクラというエネルギーポイント。からだ全体の力が抜けていく。私は浮遊するひとつの瞳になる。 その人の笑顔、瞳から発せられる光、醸し出す波動。克明に思い浮かべる。停止された五感の代わりに、閉じた世界の裏側にあるスクリーンに、それは映し出されている。 他のことに考えが連鎖していってしまうのをひとつひとつ断ち切りながら、苦い想い出、くるしみへの回路をひと

      • 世界を受胎する

        胸に圧縮した憤りも 限りない密度の結晶となれば 透明な水のような静けさを抱く 沈んでいく  なにもかもが沈殿したのちに 荒涼とした世界は ひとしずくに凝縮される それを飲み干すのは かんたんなこと 見つめていたのはあなたの影だった いいえ わたしの影だった わたしはそれを あなただと信じ込んだ あなたをこの手に抱きしめるためには わたしは世界を飲み干さなければならない 世界を受胎しなければならない 涙も血も流し尽くせば わたしは抜け殻となり 抜け殻だけが 世界を孕む

        • 流砂の上を歩く

          流砂の上を歩く。 砂粒が足の裏を細かな棘のように刺す。それは熱さにも冷たさにも感じられる。神経組織が攪拌される。僅かな間にそれが沈殿するのを待つ。それを淡々と繰り返す。 立体感を失った平らな空は、雲の所在によって辛うじて落下するのをくい止められているようだ。計算し尽くされたような平行移動を忠実に守り続ける雲たちが、私を嘲笑っては流れ、消えていく。 流砂の上を歩く。 見渡す限りの砂の世界。歩けども進んでいるのか退いているのか、道程はまっすぐなのか曲がっているのか、まるで分から

          太陽と月と青い鳥

          夢を見た。 夜なのか昼なのか分からない空間。赤と緑のインクを混ぜ合わせて出来たような鈍く暗い、黒に近いが名付けようのない色彩が、天空一面にまだらに流れ出ている。 太陽がそこにあった。暖炉の炎のような、あるいはその前で微睡む老人の頬を思わせるような穏やかな色。それでも燃えさかっている様子が間近に手に取るように映る。プロミネンスの躍動がくっきりと見える。 空がばらばらと崩れ落ちたあと、大気の無くなった状態の空を仰ぎ見ているようだと思った。 追いかけるように、月が昇る。 シフォ

          太陽と月と青い鳥

          あるお伽話

          わたしはあなたとしっかりと手をつないで、空を飛んでいました。つばめのように風を知り尽くし、風に同化して。 何もかもは滑るように滞りがなくて、永遠に続くと思われた風を切る心地よさのなかで、わたしたちは何かを感じることを忘れていきました。何かが間違っているような気がしましたが、ふたりのテレパシーによる会話のなかで、その思いはいつも打ち消されてしまいました。 気流の分岐点が、突然目の前に現れました。 そこへ、姿の見えない神が現れました。 神は告げました。 ここから先は別々に行くと

          あるお伽話

          Trap

          赤黒い峡谷に男が橋となって架かっていた。 その眼窩には一度取り出して力ずくで再度嵌め込まれたような、ぎこちない角度の眼球が静止している。 峡谷とは言っても、大地が僅かに裂けた150メートル程の割れ目で、しかしその断層はどこまでも深く闇に呑まれ、地軸に達するかと思われるほど。 男は背中を日に晒しているために、半面のみが焼け焦げている。 男の目が私を捕らえた。義眼に光が走った。 この橋を渡りたいのかい? その眼は私の意識に直接訴えた。 私は静かに頷いた。 見渡す限り、赤黒い大地が