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島尾敏雄の本

 これまでも何度かメディア断捨離をやって色々まとめて捨てたりあげたりした。最大のは31歳の時に、自分の持ってる本とレコードを、若い連中を集めて全部持ってけ、と言って、すっからかんになった。すっからかんになりたかったのだ、その時。

 最近、事務所を引っ越したが、その時に島尾敏雄の本が出てきた。何度かの断捨離の生き残り。さすが人間魚雷の隊長だけあるな^ ^ 懐かしいと思ったのは、本ではなくて、ウニタ書舗のブックカバー。神保町のこの本屋でたくさん本を買った。

 恵比寿に、「さいき」という古い飲み屋があって、若い大貫妙子がカウンターで飲んでるような店だったが、おばちゃんに可愛がられて、よく通った。二階に屋根裏みたいな座敷があり、そこに島尾敏雄の色紙が飾られてあった。「夢」と言う一文字。戦後、東工大の文学青年が通ってたという話を、おばちゃんに聞いたことあるが、そのつながりだろうか。おばちゃんはとっくに亡くなった。

 夢という文字が、昨今の若者が目を輝かせて語るそれではなく、戦争の地獄を通過した者だけが語る資格のある言葉のように思えた。戦争体験者にくらべたら、いつまでもガキだ、と思いながら、老人になった。

 本当の文学は、この騒ぎが終わってから、生まれるのかもしれない。

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