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スポーツデザインシンポジウム【日本の部活の将来を考える】に参加して。


1.スポーツデザインシンポジウム【日本の部活の将来を考える】

 杉並公会堂で学校の「部活動」の問題について、関係者が語り合うシンポジウムがあった。スポーツデザインシンポジウム【日本の部活の将来を考える】である。主催は、リーフラス株式会社。僕は10年ぐらいサポートをさせてもらっている。僕の本にもよく出てくるので、知っている人も多いと思う。

 日本の子どもたちのスポーツ指導は、10年ぐらい前までは、古い体育会系の文化が強く残っていて、「しごき」「体罰」「暴言」などが飛び交う世界だった。リーフラスは、そうした風潮を否定し、スタッフは全て正規雇用で行い、「殴らない」「暴言はかない」という指導態度を徹底化した。その結果、10数年で全国で46000人の子どもたちを指導するスポーツスクールに成長した。

 創業の時から、伊藤社長の最大のテーマは、中学校の部活動であった。自身が中学生の時に暴力教師の被害を受けたこともあり、せっかくスポーツに魅力を感じて入部した子どもたちが、暴力指導者のせいで、怪我をしたり精神的に挫折したりしたケースを多数見てきて、この状況をなんとかしたい、というのが創業のモチベーションであった。

2.内田良先生の問題意識

 会は、部活動に関わる、さまざまな方々の意見が聞けて、内容の濃いいものとなった。特に、内田良氏(名古屋大学准教授)の問題意識は、とても明快で、現在の課題を浮かびあがらせてくれた。

 部活動は、文科省の教育制度設計の中で、極めて曖昧でグレーな立場にある。部活動の指導者である教師は、ボランティアであり、本来の仕事である授業の準備時間を削ってでも、部活動の担当をしなければならない。しかし、問題は、そうした労働条件の問題だけではなさそうだ。

 内田先生が、部活動の先生たちを集めて意見を聞く会をやったところ、最初の先生は「部活動に割かれる時間が多すぎて、授業準備も出来ず、たまらない」と悲鳴をあげた、他の先生も同調するかと思ったら、逆で、次の先生は、部活動が子どもの教育にどれだけ大事かを語る。「目標に向かって先生も生徒も一丸となって突き進み、最後は涙で抱き合う。そうした生徒たちと卒業後も、良い関係を続けられる」と。そして、他の先生たちも、次から次と部活動の大切さと価値を語り、最初に、「たまらない」と言った先生は、異端という感じになったようだ。

 この話は、昔から学校の先生たちからも聞いたことがある。部活で事故があっても、学校の中ではあまり否定的に受け止められることはなく、部活に燃えてる先生が実は多数派なのだと。

 この話が通常のビジネスシーンであったらどうなのだろう。ある仕事があり、そこでの業務の他に、会社が別の業務を無償でやることを社員に強要するが、実は、本来の業務は楽しくないが、無償の業務は楽しいので、誰も文句は言わない。しかし、そういう光景を社外の人が見たら、理解が出来ないだろう。何かの洗脳か宗教行為なのではないかと思うのではないか。

 僕も高校時代は体育会系の部活をやっていたので、独特の雰囲気や上下関係なども理解出来る。だから、部活動を否定するものではないが、どう考えても現状の部活動のあり方には、問題が多すぎるのではないか。

 内田先生が言うように、文科省の制度設計の中に、きちんと部活動を組み入れるべきだ。部活動が正規のシステムでないために、夏休みなど、学校で部活動の練習に励んでいるのだが、保健室には誰もいないとのことだ。学校の保健室は、教育制度の中で、授業中の子どもたちの健康管理を維持するために設置されているので、夏休みは機能していないのだそうだ。部活動が正規の教育活動であれば、当然、保健室はむしろ大事な環境ではないのか。

3.これから

 帰り道、いろんなことを考えながら歩いた。公立学校の教師の負担がどんどん増えている。ICTでもっと合理化すべきという考えも強いが、ICTを使いこなすために、また新しい勉強をしなければならないが、そういう余裕もないだろう。英語にダンスに、と先生になっても、まだ新しい勉強をしなければならない。

 学校でパソコンの普及は遅れた。10年前はFAXでの連絡が普通だった。このFAXが各学校に増えて、便利になったかと思うと、文科省だけではなく、さまざまな省庁が、学校の現況を調査するために、アンケート用紙をFAXでガンガン送り、その回答をするだけで、先生たちは疲弊していった。その経験があるから、パソコンの導入にも後ろ向きだったのではないか。これ以上、余計な仕事が増えたらたまらない、と。

 昔は、学校は、それぞれの独立した校風や先生たちの想いがつまっていた。今のシステム化された中央からの指示でコントロールされ、それも現場の状況を理解していないものが多い。そういう愚痴をいろんな学校の先生から聞いたことがある。

 内田先生の話を聞いていて、もしかしたら、今の学校の先生は、正規の授業で自分が本来抱いている教育理念や方法みたいなものを実現出来なくて、部活動の方が本来の教育の姿だと思っているのかも知れない。

 正規の授業は、今後、ICTによるEラーニングが大きな意味をもっていくだろう。その時に、一人ひとりの子どもたちと触れ合い、一緒に努力して目的に到達しようとする部活動は、むしろ、これからの社会において、取り戻すべき本来の教育の場なのかも知れない。だとしたら余計に、文科省は、部活動を正規の活動として、教育制度の組み込むべきだと思う。体育会系だけではなく文化系も。パソコン部に入る子は、正規の授業で平均的な知識を学ぶより、パソコン部で専門的な学習やアプリ開発をした方がよい。

 一方で、正規の授業では体罰が厳禁になってから、やんちゃな子どもたちを部活動で締め上げる、みたいな先生もいるという話を聞いたことがある。それもこれも、正規の教育制度の外に、部活動が曖昧にぶらさがっているからだと思う。

 僕はインターネットがはじまった時に、20世紀の最大のテーマは「教育」と「銭湯」だと書いた。銭湯とは、人と人が裸で付き合えるコミュニティの再生である。教育も、明治以来のシステムを大きく見直して、新しい教育の社会的シクミを築く時代になっているのだと思う。

 学校教育の課題解決は、外側からやれることは少ない。全国の学校の先生たちと、情報交換・意見交換をしながら、時間をかけて、改革を進めていくべきだと思う。

スポーツデザインシンポジウム【日本の部活の将来を考える】

■シンポジウム概要
近年社会問題になっている「部活動」について、講演者に様々な立場の識者をお招きし、多角的な視点から部活動問題に切り込んでいきます。聴者には一般の方に加えて、各自治体の教育委員会関係者や地方議員等をお招きし、本シンポジウムを通して日本の部活動問題の解決の糸口を見つけます。

「主催」リーフラス株式会社
「後援」杉並区教育委員会
「会場」杉並公会堂小ホール(杉並区上荻1-23-15)
「日時」2019年5月27日(月)12:00~16:00
「内容」
・ご挨拶:伊藤清隆氏(リーフラス株式会社代表取締役社長)
・講演(1):内田良氏(名古屋大学准教授)
・講演(2):小林淳氏(杉並区教育委員会学校支援課係長)
・講演(3):清水恭孝氏(国学院久我山高校サッカー部監督)
・パネルディスカッション:上記3名+岩政大樹氏(サッカー元日本代表)


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参加型社会一筋
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