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「シティ・アズ・キャンバス」(前編)

本セッションは、都市空間での表現の在り方を探索するアートコレクティヴ「SIDE CORE」の方々にご登壇いただきました。

前編となる今回では「SIDE CORE」のこれまでの作品紹介を通じて、いかに都市をまなざし、そこに介入していくのか、というコンセプトから手法、表現に至る実践を見ていきます。

本記事は、2019年1月に開催した『METACITY CONFERENCE 2019』の講演内容を記事化したものです。その他登壇者の講演内容はこちらから
・TEXT BY / EDITED BY: Shin Aoyama (VOLOCITEE), Tomoya Matsumoto
・PRESENTED BY: Makuhari Messe

青木:では、次のセッションに入っていきたいと思います。次は『シティ・アズ・キャンバス』というテーマで、「SIDE CORE」というアーティストコレクティブにお話しいただきます。

彼らは「ゲリラで作品を街に点在させる」という活動を長く続けています。先ほどの和田さんのトークに出てきた「鉄工島フェス」も、彼らの活動の一つだそうです。今日は「都市空間における表現の拡張」というテーマを掲げる彼らに、これから街で一体どんなことができるのかについて伺っていけたらと思っております。では早速、自己紹介をお願いしましょう。

松下:どうもこんにちは。松下徹と申します。こちらはメンバーの高須咲恵と西広太志です。よろしくお願いします。

「SIDE COREって何なんだ」ってよく言われるんですけど、展覧会を企画したり、自分たちでアート作品をつくったりするチームです。アートと言ってもいろんな種類がありますが、主にグラフィティやストリートアートと呼ばれるもの、つまり路上で生まれてきたアート表現を題材にした活動をしております。

もともとは美大で普通にアートを学んできたんですが、卒業してこれからアーティストとしてどうやってやっていこうかというときに、東日本大震災が起こりました。それが「アート活動するってどういうことなんだろう」と考え直すきっかけになったんです。そこで、制度がなくても自分たちで勝手にできるストリートカルチャーがすごく面白く感じて、ストリートアートを自分たちで学んで実践するようになりました。それからストリートアート、グラフィティ、ロッククライミングとかの背景を持つ人たちと一緒になって、いろんな展覧会や制作を行いました。2017年からは西広太志くんが加入して、今の3人の形になりました。

今日の話は、インディペンデントというか個人が、企業や行政と交渉して公共空間の中から表現を生み出してく、もしくは切り開いてくみたいな話になるんじゃないかなと思っております。では、作品の話を具体的にしていきたいなと思います。

RODE WORK

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高須:私たちは普段作品をつくるために街をうろうろするんですね。特に夜中とか。そのなかで、自分たちの興味があるものや面白そうなことを探していきます。これは作品のためだけじゃない趣味的な活動、お散歩ですね。で、その中でも特に興味深かったのが、渋谷の道路工事現場です。ちょうど震災のタイミングで、工事現場にすごく大きな変化があった。何かというと、震災前はバラバラに点滅していた工事現場のコーンのライトが一斉に点滅するようになって、それまでよりずっとキラキラしていてたんです。なんでだろうって思ってコーンライトを抜いてみると、そこに「仙台銘板」って会社の名前が書いてありました。

仙台銘板について調べてみると、コーンとかライトとか、道路工事の安全設備に必要なものを貸し出してるリース会社なんですね。それで震災後に需要が増えて急成長したらしい。そうやって調べているうちに、道路工事現場のそういう風景の中で遊べたらいいなと思って。工事現場を模したスケートパークとかを東京の中につくれたら面白いね、ってみんなでよく話し合ってました。

松下:仙台銘板に直接聞いてみたら、その一斉に光るライトは線でつながってるわけじゃなく、中の電子時計の仕掛けで、いつオンにしても全部合うようになってるんですよ。その電子時計の電波っていうのは東日本と西日本で別なんですが、東日本のほうは福島の帰還困難区域の近くのほうに電波塔があって、そこから電波が一斉に来てる。東京で工事現場見てピカピカ光ってるなって思う時、それは東北でも同じカウントをしてるんですよね。

青木:同期してるんですね。

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高須:そうです。そんなのをやりたいねって話してるうちに、2017年になって、『Reborn-Art Festival』っていう宮城県の石巻で開催される芸術祭に呼んでもらって、作品をつくる機会があったんです。その会場が、被災して使えなくなった漁業倉庫を改造してつくられた「Onepark」っていうスケートボード場。

画面を見ていただくと、工場の奥の壁にうっすらラインがあって色が変わっているのがわかると思います。これは、ここまで津波がきたよっていうラインなんです。4mくらいの高さまできて、工場としての機能を果たさなくなってしまった。それを勝又さんというOneparkを運営してる人が仲間たちと掃除して、きれいにして、セクションとかをつくって、子どもたちとか大人たちが遊べる場所にしたという。室内のスケートボードパークとしては日本でも最大級です。展示するには広すぎるくらい。

でも3カ月ほど滞在して作品制作したんですけど、開催1週間前に急に消防からNGが出て、会場に入れなくなくなってしまった。それで何か新しく作品をつくらなきゃいけない、ということになり、映像作品に切り替えました。

松下:スケートボードも一時できなくなっちゃったんだよね。今も休止しちゃってて。もともと仙台銘板が石巻にあったから、仙台銘板に「工事現場の道具を使って作品をつくらせてほしい」って交渉していたんです。向こうも震災のおかげで会社が大きくなったから地元に貢献したいってことで、ぜひやりましょうということになりました。

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これが映像です。屋内にあったスケートボードのセクションやランプといった競技のための設備を外に出して、仙台銘板から夜間工事現場の道具も借りてきてます。

高須:工事現場に見立てたスケートパークを屋外につくるっていう、東京で考えてたプランをやるときがきた!って思ってつくりました。

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松下:地元のスケートボーダーの人とOneparkを利用していた子どもたちと一緒に、みんなで工事現場の作業着を着て、震災で何もなくなってしまった街の中に、夜間工事現場に見えるスケートボード場をつくったんです。映像で滑ってくれてるのはガクト君っていう中学生の子で、小学校からスケートボードやってる子ですね。映像で途中に防潮堤が出てきますが、スケートボードパークとイメージが重なってくるような感じです。

高須:この野外スケートパークをつくり出した場所は津波被災で何もなくなった場所で、昼は工事をしているけど、夜は真っ暗な怖い場所でした。

松下:スケートボードができなくなってしまったスケートパークの外に、新しいアイデアでスケートボードできる場所をつくろうよって内容の作品ですね。もともとスケートボードと工事現場って親和性があって、スケートボードのトリックに工事現場のパーツとかを使ったりするんですよ。カラーコーンを並べてジャンプしたりとか。

どういうふうにいろんな困難を遊びに変えるか、ってところがスケートボードやストリートカルチャーの面白いところだと思っていて。昔サンフランシスコで地震があったときに、スラッシャーマガジンっていう雑誌が「サンフランシスコ地震特集」という追悼特集をやったんです。地震で隆起した場所とかで、スケートボーダーがいかにトリックするかみたいな内容で。僕たちの取り組みでも、森田貴宏さんとBABUさんっていうスケートボーダーでアーティストの方々に協力して頂いてて、最初に石巻に着いたときに、彼らが防潮堤にスケートボードを滑りに行ったんですよね。本来防潮堤っていうのは地元の人たちにとっては津波被害のトラウマがある場所で、近づきたくないんですよ。でも、森田さんたちがそこで滑ってるのを見て、地元のスケーターがトリックの映像とかを撮るようになったんです。カルチャーを通じた挑戦みたいなものが、見える景色を変えていくんだなって感じましたね。

青木:なるほど。そういうタブーや恐怖を、作品を通して読み替えていく効果があったわけですね。

高須:結果的にはそういう感じですね。それを狙ったわけじゃないけど。

松下:道路使用許可を取って工事現場のようなスケートボードをつくるって考えは、都内でもできることでもあると思うんですよ。実は去年、4月ぐらいに六本木アートナイトっていうのを企画のときに東京バージョンも撮影していて、ユニークな感じで撮れてます。

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高須:やってるといろいろ面白い場所を見つけるんですよ。すごい低い、車とかがたまにつっかえちゃうようなトンネルみたいなとことか。あとはこういう工事現場を実際滑って工事現場のおじさんが楽しんでくれたりとか。東京らしい、入り組んだ街の風景の中を滑るっていうので、カメラマン兼ディレクターのハリモトさんがたくさんロケハンして。

松下:そう。このときも滑ってるスケートボーダーは東京のスケーターじゃなくて、沖縄のROD CREWというスケートチームなんです。沖縄から東京に働きに来ているスケーターのチーム。若い子が沖縄から出てくるときにスケートボードを通じて、仕事とか面倒見たりってのをやっている。結構大きいコミュニティーになってるんですね。彼らに滑ってもらうことで、場所と場所とをストリートカルチャーでつないでいく。震災復興を通じて、東北の石巻から東京が繋がって見えてきて、そしてROD CREWを通じて沖縄と東京が繋がっていく。

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次の作品は、工事現場用品を使ったシャンデリアです。まるでタコ型宇宙人みたいに見えると思うんですけど。

高須:さっきの映像に出てきた工事現場のライトを使ってつくりました。

松下:夜になるとOneparkの周りは真っ暗になって、工事現場の光だけになるんですよ。工事現場って、まさに変化しつつある途中段階を表す場所ですよね。それと同じで、この中もどんどん変化していく。外と中をつなげるモニュメントみたいな作品ですね。

catcher in the city

西広:これは「catcher in the city」という、都市の中の落書き禁止やスケートボード禁止といった「禁止の張り紙」を使った作品です。今、渋谷とかには、自治体やお店の人が独自に作った張り紙がたくさんあります。デザインの種類もいろいろで、面白いなって思ってたんですね。

聞いた話では、大阪には「禁止することを禁止する」といって、いろんなところに貼られた禁止の張り紙を全部剝がしていってるホームレスの人がいるらしいんです。すごく興味深いなと思って、そこから禁止の張り紙についての作品をつくったらいいんじゃないかなって話になりました。

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僕たちが考えたのは、「Graffiti」とか「落書き」とか、そういうポスターに書かれた「禁止されているもの」の文字だけを切り取って、その文字をタイポグラフィー帳みたいに展示空間に飾る、というものです。すると、文字を切り抜かれた張り紙だけが街中に残っていく。切り取っても背景の壁があるんで、文字自体は読めるんです。展示ではマッピングもして、見に来た人たちがそれを見て回れるようにしたっていう作品です。最初は日本語だけだったんですけど、2010年ぐらいから、落書きする外国人もいるって警察も分かってきて、「No Graffiti」みたいな文字も増えてきましたね。

松下:本当にタイポグラフィー帳みたいにいろんなフォントがあるんですよね。展示は、大きいデベロッパーさんが関わってる渋谷の展覧会で行ったんですが、担当の方とかもいらっしゃって、「SIDE COREさん、僕たちもグラフィティとかストリートアート好きなので、作品つくってください」みたいな感じで言われたんです。僕たちも犯罪がしたいわけではないので、素直に「こういうアイデアが面白いと思うのでやってみていいですか」ってお願いしたら、「面白いアイデアじゃないですか、ぜひ!」って言ってくださったんです。しかも許可取りまでしていただいて。

ただ、いざ展覧会が始まったら、別の担当の方に「これは駄目だ」と言われてしまって。作品も途中で撤収されてしまったんです。そうしたら驚くべきことに、展示を企画した人達が、切り出した文字をもう一度街の中のポスターに貼り直していったんです。

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西広:僕たちはポスターがあった場所をグーグルマップ上にマッピングしていたので、、その人達が実際に現地に行って貼り直していったんです。セロテープではめていったんですが、結構長く残ってましたね。最近も残ってるところがあったような。

松下:そこが面白いなと。この作品って、重要な作品ではあるんですけど、僕たちの中ですごく大きい作品というわけではなかったんです。ただ、展覧会に出してこういう展開になったことによって、別の意味が生まれたというか。

西広:貼り直すのもそうですけど、切り取るのも想像以上に大変で、僕らも腱鞘炎なりかけたり(笑)。

松下:結構、大ごとになってしまって怒られたりはしたんですけど、会社の担当者の方が、壁紙の持ち主の方にいろいろ連絡していったところ、ほとんどの持ち主さんが「うちこれ貼ってませんよ」って。要するに、ビルをたくさん運営してるオーナーがいて、管理会社の人に全部頼んでるんですよね。その管理会社の人が張り紙を作って貼ってるので、オーナーさんは貼ってあったことすら知らない。ただ、こういうトラブルだったり、いろんなきっかけで、そこから対話が生まれる。そこからまたどんどん作品ができていく。正面からやらせてくださいって言ったら、いきなりはやらせてくれないかもしれない。でも起こってしまった事実については、みんな腹割ってしゃべれるところがあるというか。

高須:面白いなと思ったのが、私たちもデベロッパーの人たちも、個人的な表現とか大事にしてるものとかは共通しているんだけど、個々人の「ここからは駄目。ここまではOK」という線引きがすごく曖昧なこと。

松下:そうだね。今ニュースで話題になってるバンクシーも、2000年初期に日本に来て描いたときは単なる落書きだった。なのに今では知事が横に座って喜んでる。

みんな分かってはくれてるんだけど、社会としてそれをどういう風に捉えていいかが難しいんですよね。そのグレーさを制度として整理しようとすると、絶対矛盾する。例えば法律もそうですけど、そういう制度でデザインしきれないものをどういうふうにつくるのかがストリートカルチャーの一つ重要なアイデアなんですよね。

街をどういうふうに見るか

松下:ちょうど今日、津田沼に住んでいて、SIDE COREにいつも参加してくれているアーティストが来てくれてるんですよ。

高須:菊地良太さんっていう、幕張の風景を使って写真を撮影しているアーティストです。彼はもともとフリークライミングっていう、綱を付けずに岩の割れ目とかに手足をひっ掛けながら登るロッククライミングをやっていた人。例えば「BORN」っていう作品では、ふだん彼が岩場でやっていることを都市で挑戦しています。

松下:まさにこの会場の近くで撮影してるんですけど、二つに分かれたロードライトを子宮に見立てて、子宮から人が生まれてくるみたいなことを表現した作品ですね。菊地君はたぶんちょうど子どもが生まれた頃だったんじゃないかなと思うんですけど。

この作品も幕張ですね。道路の上に人が立っているように見えるんですが、実はこれ逆さでして。この近くの高速道路の橋桁の裏側に菊地面君がぶら下がってるんです。ただの鉄の面に、ぶら下がってるんです。

青木:なるほど。これどうやってぶら下がってるんですか。

松下:これは、すごい強力な磁石を付けた靴を履いてぶら下がってるんですよ。

高須:1個30キロ耐えられる磁石を、二つか三つくらい付けて。

松下:展覧会では来たお客さんもぶら下がれるようにして、いろんな人たちに体験してもらいました。

震災に関連した「stuck」という作品もあります。これは津田沼駅で撮影されたものです。津田沼駅前には噴水の機能を持ったレリーフがあるんですが、震災のときにその水が止まってしまった。それで、そこのレリーフの隙間に自分が挟まってみるっていう作品。

彼は「街をどういうふうに見るか」みたいなテーマが分かりやすいんですよね。ロッククライミングって、岩山の中に無限のコースを探すわけじゃないですか。そういう視点で街の中を眺めて、街の風景の中にコースを探す。「ラインを見る」って彼は言うんですけど、そういうアイデアから写真だったり映像作品を作っています。

彼は、夜中とかに街を車で走りながら、こういう面白い場所をずっと探してるんですよね。そうやって発見していく視点がすごい重要で、さっきの落書き禁止のポスターだって、ちゃんと見てないと気がつかないんですよね。よく見ると何十種類もあって、内容を見ると何でもかんでも禁止されてるなってわかってくる。スケートボードだってオリンピックの競技にもなるのに、街では滑ると捕まっちゃう。オリンピックをやるためにオリンピックの競技を取り締まるってすごい面白いなと思って。そんなふうに、発見していく視点がまずあって、そこにどういうふうに介入していくかってところが、ストリートカルチャーの表現の面白いところかなと思いますね。

NEXT:後編はこちらから!


登壇者プロフィール

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SIDE CORE
アーティスト・コレクティブ。2012年から高須咲恵と松下徹により活動を開始。2017年より、西広太志が加わる。美術史や日本の歴史を背景にストリートアートを読み解く展覧会『SIDE CORE -日本美術と「ストリートの感性」-』(2012年)を発表後、問題意識は歴史から現在の身体や都市に移行し、『SIDE CORE -身体/媒体/グラフィティ-』(2013年)、『SIDE CORE -公共圏の表現-』(2014年)を発表。2015年の『TOKYO WALK MAN』からは表現の場を、室内から実際のストリートへと広げる。 ゲリラ的な作品を街に点在させ、建築や壁画、グラフィティを巡る『MIDNIGHT WALK tour』は、現在まで不定期に開催している。公共空間にある見えない制度に、遊びを交えた視覚化をするアプローチの手法が確立されていく。2016年からは東京の湾岸地域のスタジオの運営など、都市での表現のあり方を拡張し続けるアーティストたちが、流動的に参加できる場として、活動を展開している。これらの活動は公共空間のルールを紐解きその隙間に介入し、新しい行動を生み出していくための実践である。

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青木 竜太|RYUTA AOKI
コンセプトデザイナー・社会彫刻家。ヴォロシティ株式会社 代表取締役社長、株式会社オルタナティヴ・マシン 共同創業者、株式会社無茶苦茶 共同創業者。その他「Art Hack Day」、「The TEA-ROOM」、「ALIFE Lab.」、「METACITY」などの共同設立者兼ディレクターも兼任。主にアートサイエンス分野でプロジェクトや展覧会のプロデュース、アート作品の制作を行う。価値創造を支える目に見えない構造の設計を得意とする。
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