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シベリア鉄道の食堂車でウォッカで酒盛り プーチン、仕事、LGBTQ、サッカー、KGBとかいろいろ話した

シベリア鉄道に乗ってロシアを周り、いろんな人の話を聞くプロジェクトМесто47。第三回目は、シベリアから極東ハバロフスクに向かう列車の食堂車で出会ったロシア人鉱夫たちが登場します。ソ連の崩壊以降、ロシア経済はモスクワを中心とする西側地域に一気に集中しました。その結果、ロシアでは地域間の格差が拡大する一方です。ロシア国内でも東側地域の状況はあまり報道されていません。彼らとの会話から、ロシア国内のメディアでもあまり報道されないシベリアや極東地域のリアルな現状が見えてきます。

※編集からのお知らせ:今回の記事にはLGBTQの方が不快に思われる可能性のある記述が登場します。ロシアの現状をそのままお伝えするため、発言にはあえて編集をかけておりません。ご了承ください。
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エカテリンブルクからハバロフスクへ向けて走る夜行列車の中、私たちは食堂車で夕食を取ることにした。私たちの座るテーブルの向こうでは鉱夫のグループが陣取っていた。彼らのテーブルの上には既に空になったウォッカの瓶が何本か転がっている。聞こえてくる会話から察するに社員旅行のようだ。冶金工の日(編注:ロシアでは各職業を称える記念日がある。教師の日、秘書の日、通訳の日等)を利用して開催されたサッカー大会に出場した彼らは、自分たちの街へ凱旋の途上だった。

彼らは外国語の会話を耳にして好奇心から話かけてきた。どこから来たのか、何をしていて、どこへ向かっているのか。最初彼らは私を外国人用のエスコートガールだと思っていた。サービス料金はどうなってるのか、時間制かなどと尋ねてきた。腹を立てた私は自分がジャーナリストであることを明かし、彼らは平謝りのていだった。その後彼らと酒盛りをしながら会話を始めた。一番のおしゃべりは彼らの「ボス」であるジェーニャ50歳、そして21歳のグリシャだ。

21:30 ウォッカのショット2杯 鉱夫の仕事

ジェーニャは自分の金色のリング、ブレスレットに太いネックレスを自慢げに見せてくれ、写真撮影にも機嫌良く応じてくれた。

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マリーナ:鉱夫の仕事について教えてもらえますか。

ジェーニャ 50歳 グループのボス:俺たちはムノゴヴェルシンニ(編注:極東ハバロフスクの人口2,000人程度の村)に住んでる。スイスの会社で金の採掘作業をしてるんだ。鉱夫っていうのは地下に潜って穴掘りする人間のことさ。穴から這い出て、肩にドリルを引っ提げたまま、ニコニコ顔で昼飯食いに行くようなやつらのことだな。丈夫なバカじゃないと鉱夫にはなれねえな。丈夫じゃないといけねえのは肉体労働だからさ。何も考えずに、働いて働いて働きまくるんだよ。バカだと恐怖を感じないから良いんだよ。地下120mでたった一人、真っ暗闇で世界に自分しか居なくなっちまったんじゃねえかって気分さ。そこでランプ一つと70kgのハンマーかついでなきゃいけないわけだからな。俺たちは仲間内でこんな冗談言い合ってんだよ。「思ったんだけどよ。俺が地下でおっ死ぬだろ。そしたら誰かが地上に引き上げてくれるはずだよな。それから葬式でもしたら地下に埋められるよな。3日経つだろ。掘り起こされてまたお天道様の下に出るわけだ。で仕事だっつってまた地下に送り込まれる」まあ笑えねえ冗談かもしんねえけどさ。忌み言葉みたいなのが俺らにはあってさ。「最後」って言葉は使わねえんだ。例えば誰でもいいから鉱山で働いてるやつに仕事のシフトを尋ねてみな。そいつは絶対に「今決まってる最後のシフトの日は、、」とは言わねえはずさ。だって本当に最後になっちまうかもしれねえだろ。

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グリシャ 21歳 専門学校生:専門学校で勉強してて、毎年夏になると鉱山で働いてるんだ。やることは簡単。懐中電灯を付けて進んでいくだけさ。落盤はどこでも起こりうるね。もしトンを超える岩が頭の上に落ちてきたらヘルメットなんて何の意味もない。壁のある部分がどうにも落ちてきそうで気になる。でも実際には落ちてこない。その場を離れてすぐ落盤が起きる。そんなことはもう20回はあったかな。俺たちはアリ塚のアリみたいなもんさ。鉱夫はエンジニアよりももっと稼げてしかるべきだと思うんだ。だって、鉱夫抜きにはなんもできないんだから。一番危ない仕事をしてるのが鉱夫ってわけさ。

ジェーニャ:鉱山では間違いは許されねんだ。自然の法則に従ってる限り事故は起きねえよ。何かひっかかる?行かねえほうがいいな。思い出せねえって?じゃあやめとけって話さ。

22:10 追加でウォッカのショット2杯 極東での生活 プーチン

グリシャ:モスクワのテレビとか雑誌とかでも俺らがどんな暮らししてるかみたいなこと話すだろ。暮らし向きはどうかって?じゃあ聞くけどさ、極東の方を列車が走ってるときに窓の外に立派な家とかちゃんと舗装された道なんかあった?

マリーナ:なかったわ。

グリシャ:海外の国はなんでもスピード感があっていいよ。21世紀なんだからさ。それがこの国じゃ今ごろ釘の打ち方なんか勉強してるって具合さ。ヨーロッパじゃ100歳くらいまで長生きして。テスラの電気自動車まで出てきてさ。環境に配慮してるからディーゼルじゃないんだよ。それがこの国じゃ年金生活の60歳まで生きられるかどうかっていうレベルだよ。昔は今より給料もよかったんだ。うちのじいさんたちに聞いたらソ連時代は100ルーブルももらってたって。それでビール飲みにハバロフスクまで遊びに行ってたっていうんだからうらやましい話だよ。自分たちにはそんな余裕はないね。なんとか家族を養えるくらいだよ。低賃金のままで、もしかして死んじゃうかもしれない。そしたらどうしたらいいのさ。

大統領は自分たちの要求なんて何一つ叶えちゃくれないんだ。ここは別の国なんだよ。ロシアじゃない。舗装された道路はない、幼稚園もない。子供はみんな汚いところで遊んでる。労働環境だってよくない。仕事中の安全ルールなんて誰一人守ってない。その仕事だって選択肢がないからやってるんだ。でもしょうがない。家族も子供も養わないといけないし。それでも給料なんて雀の涙さ。でも俺たちは働くんだよ。家族のために。モスクワの方では壊れた道路なんてほとんどないんだろ?

マリーナ:ないですね。

ジェーニャ:俺はもうジジイだし、こうやって酒飲んでくだ巻いてたっていいんだよ。でもこいつらはまだ若いんだよ。若いのにこんなにロシアに対して不満がたまっちまってる。こいつらみたいな若いのがロシアを裏切ることはねえと俺は信じてるよ。でもさ、この状態で誰が大統領に付いていくってんだよ。

グリシャ:ぶっちゃけた話、ロシアの半分は近いうちに投げ売りされると思ってる。森が売りさばかれてるのを見れば一目瞭然さ。千年かけても切りつくせないくらいあるけど、それは置いといて。なんで地元のやつらがちょっと木を切るくらい許してくれないんだよ。なんで俺たちはダメで、モスクワのやつらはいいんだよ。コネがあるからだろ。魚もおんなじさ。極東だと、魚釣りしただけで百万ルーブルの罰金喰らうんだぜ。モスクワのやつらが今度は魚目当てにやって来る。魚はモスクワに持って行ってすげえ値段で売りさばかれる。極東のやつらの口には一切れだって入らないんだ。都会のやつらはそんなこと全く気づかないし興味もないんだろ。

ジェーニャ:FSB(編注:KGBの後継組織)がけっこう幅きかせてるからな。そんな大声でしゃべるんじゃねえって。

グリシャ:てことで、何にもないやつらはどうすればいいんだよ。どうやって生きていけばいいんだよ。自分とこの国民を支える気がない国でさ。みんな何もしないで、戦うべきものの為にも戦わない。そんなの現実的じゃないって。

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23:00 一人の韓国人と知り合う。彼が持ってきたシベリアコロナビールを飲みながら話を続ける。話題はゲイについて。

ジェーニャ:なあマリーナ、俺たちってまともだろ?

マリーナ:まあ、独自の世界観を持ってるっていうか。物事をありのままに語っているとは思います。フィルターを通してじゃなくて。

ジェーニャ:まあ確かにフィルターは通してねえぜ。

ここで韓国人の男の子が、グリシャのことをBeautifulだと言い、マリーナがロシア語でКрасивыйと変換して伝える。日本語ではどちらも”美しい”という意味だ。

グリシャ:そいつに教えてやってくれよ。この国では男のことを「美しい」なんて言わねんだって。そんな風に言うのは受け入れられないし、悪く取られることもある。ここにはここのルールってものがあるのさ。

ジェーニャ:俺らの仲間にゲイはいねえよ。いたら徹底的に追い詰める。そいつが良いやつかどうかは関係ねえんだ。

マリーナ:ゲイがいないんなら、なにが問題なんですか?

ジェーニャ:ある日イルクーツクから300万くらいするバイクに乗って来たやつがいた。耳には向こう側が見えるくらいでっけえイヤリングの穴が空いてた。俺たちが何をしたかって?そいつの耳の穴とドアの取っ手を錠前でつないでやってそのまま放っといてやったのさ。4時間後に解放してやるとそのままどっか行っちまったよ。

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グリシャ:極東にちょっと住んでみればいいさ。そもそも人間ってのは簡単に仲良くできないようにプログラミングされてるんだよ。こちら側とあちら側みたいに。でもさ、もしそれに甘んじることになったら、どうやって家族を作るんだよ。女の子はどうやって子供を産むのさ。試験管かい?今どれくらいたくさんシングルの女の子がいるんだよ。彼女たちは子供を産まないだろ。民族が消滅しちゃうよ。もしみんながゲイになったら誰が君のことを愛してくれるんだよ。

いいかい?人の進化っていうのは行きつく所まで行くと、今度は退化が始まるのさ。同性婚っていうのは自分の民族を滅ぼす行為だよ。頭の中で何かの依存症状が起こってる。考えてみてよ。白樺の苗木が成長した結果オレンジになるかい?ゲイは精神病なんだよ。頭の回路がおかしくなってるんだ。知ってる?女の裸を見て興奮するゲイだっているんだ。やつらはそれを認めないんだ。ホモ野郎っていうのはどうしようもないやつらなんだ。

ジェーニャ:俺の村の若いやつの話をしよう。そいつは女がいたんだが、サンクトに引っ越しちまった。それで、やつも女を追って行って、そこでクラブのバウンサーの仕事を見つけたんだ。ある時にクラブに男同士でキスしてるやつがいた。やつは、そいつらにここから消えろって言ったんだ。そのあとマネジャーが来て注意されたんだと。やらかしたなって。結局そいつはクビになったよ。分かるか?俺たちは育った環境が違いすぎるんだよ。俺は男同士でキスするなんて死んでも理解できねえ。

極東のいいところは、そういうやつらがいねえことだよ。うちでは、おたくらのとこのハゲ(編注:ルシコフ前モスクワ市長。在職中にゲイパレードが開催される。)みたいにパレードなんてやらせねえんだ。極東ではしつけのやり方が違うんだよ。いいか。おかま野郎と本当の男は全くの別物なんだよ。おかま野郎は国を売り渡す。本当の男は国を守るんだ。

23:50 ビール瓶が全て空になる。取りとめもなく話を続ける。次第に話題は詩とサッカーに流れていく。

グリシャ:読書はあんまり好きじゃない。学校じゃエセーニンの詩なんか読まされたよ。飲んだくれがなんかうまいこと書いたんだろうけどさ、だからって子供が読んで暗記しないといけないようなもんじゃないと思う。別に詩が良いって思うこともないし、無くても別に困らないよ。

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実はリオデジャネイロに移住したいと思ってるんだ。きれいな街だろ。カーニバルがあって、砂浜があって、海があって。あともちろんサッカーだな。前はクリスティアーノ・ロナウドが唯一好きな選手だった。でも今は他にも才能のある選手がたくさんいるよ。

この国でサッカーするのは難しいよ。そもそもサッカー場がないんだ。でも才能の宝庫だと思ってる。ワールドカップでロシア代表がどんなだったか見た?あいつら全員クビにした方がいいと思うよ。やつらに払ってる給料で病気の子供が山ほど救える。海外の選手はプロとしてプレイして、それに見合う給料をもらってる。ロシアの選手は近所のガキがその辺でボール蹴ってるのと同じだよ。口動かす代わりに足を動かせってんだよ。若い選手にやつらに払ってる4分の1の給料でも提示してみろよ、死に物狂いでプレイしてくれるはずさ。

12:00 テーブルには空になったボトルが散らかり、鉱夫たちは隣の席でいびきをかいている。そこに、でっぷりしたからだつきの女性車掌が意志の強そうな足音を響かせてこちらに近づいてくる。

女性車掌:食堂車を閉めます。ありがとうございました。またのご利用お待ちしています。

マリーナ:今何時ですか?もう少し座っていてもいいですか?

グリシャ:外国人のお客人がいるんだよ。こんな早く閉めるなんてつれないね。

女性車掌:ありがとうございました。またのご利用お待ちしています。

私たちは彼女の言葉におとなしく従って客席に戻って飲み続けた。でもICレコーダーの電源は既に切ってある。

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読んでいただいてありがとうございました。新しい記事は毎週、火曜と金曜日に公開予定です。

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