恋をして、僕はバケツになった。
高校時代、僕はサッカー部に所属していた。そして、エースとして(自称)高校2年時からレギュラーとして試合に出ていた。
ちなみにチーム内では、「チャンスに弱いFW」と名を轟かせていた。
そんな僕は別のクラスのKさんに恋をしていた。ある日、朗報が耳に飛び込んできた。
次の公式戦、Kさんがサッカー部の応援に来る......
僕は心に決めた、次に試合で格好いいプレーしてKさんに存在を認知してもらおう。(一回も喋ったことがなかったのだ。)もし活躍できれば、翌日学校で「昨日はお疲れ様」って声かけて貰えるかもしれない。
1学年10クラスある中、彼女はA組で、僕はF組だったので、フロアも違うし、学校ですれ違うこともほとんどなかったが、僕の頭の中では、彼女がF組まで、僕に労いの言葉とメアドを渡しに来てくれる設定だった。(15年前の高校生はガラケーでメアド交換をしていたのだ。ってか信じられない、もう高校生が15年前の出来事!)
迎えた公式戦、先発出場を果たした僕は必死だった。厳しい我がチームの監督が禁止事項としてあげている「審判への抗議」「ボールを取られた後の過剰なリアクション」を繰り返した。緊張してうまく行かず、とにかく格好つけて、ごまかそうとしたのだ。
間違いなく、彼女への熱い思いが、僕をヤバい方向に突き動かしていた。
ファールされてないのに「今のファールでしょ?」みたいなどや顔。中田英寿の真似をして仲間と話す時に過剰に手を動かし、フォーメーションについて語っているかのように見せてインテリを演出した。
何もかもうまくいかない中、前半が終わりハーフタイムを迎えた。
ベンチに座ると、Kさんが僕の射程圏内で僕のことをチラ見していたのだ。僕のことが気になるのか?妄想と勘違いで心と頭は満たされてる。
その時、ふと目に入ってきた監督は、僕の目をじっとみて、鼻をピックピックさせていた。やばい!!!これは監督がぶち切れる前兆だ。
そしてKさんが見つめる中、監督は発狂した。
「めしだ、お前何様のつもりだ!」
「あぁー?」
「お前なんか勘違いしてないか?」
「お前なんてなー」
「他のチームの選手だったら」
「補欠にもなれねー」
「バケツなんだよ」
それから僕は、バケツと呼ばれるようになった。
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