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永久少年と妖怪姫 Phantom Princess

僕は高校生のメル、至って普通の学生…って言いたいところなんだけど、僕には一つみんなと違うところがあるんだ。それは不老不死の力を持っていること。最初はこんな力、あったんだって驚いたけど、今ではすっかり慣れちゃった。元々こういうオカルト系は好きだしね、妖怪とか幽霊とかさ。さて、そんなある日、僕が学校から帰っている時、ふと路地裏に目をやると、なにか空気が歪むような感じがしたんだ。何だろうと近づいてみたらそれはどんどん勢いを増している、逃げようと思った瞬間、
「うわぁぁぁぁぁ!」
なんと、僕はその歪みに飲み込まれてしまった!
気がつくと僕は全く別のところにいた。
「ここはどこだろう…」と思った、その時周りの景色を見て、僕はびっくりした。空は蒼く晴れ渡り、たくさんの桜が花を咲かせていた。まるで、桃源郷のような見事な美しさのこの世界、僕は直感的に異世界に来たんだと確信した。僕が呆然と見とれていると、「おぬし、どこのものじゃ?」と話しかけてくるおじいさんがいた。
「ああ、突然地球からこの世界に来てしまったん…」そう言いながら振り返ったが、その直後、その行動を後悔した。なぜなら目玉が一つしか無かったからだ!
「ひ、ひゃぁぁぁぁぁ!」僕は声を上げて全力で駆け出した。必死に走って、走って、走り続けた。その逃げている途中にも、うさぎだったり、犬だったり色んな異形がいた。これがどんな存在か僕はすぐ分かった!
「こ、これは…妖怪なのか!?」驚きながらも、振り返らずに全力で逃げつつ、あっという間に山のほとりまで来た。
「何だこの妖怪だらけの世界は…」そう呟きながら、僕は桜の木の下で休んでた。逃げる途中に見たものよりも遥かに大きい桜、ふとその根元を見ると、たくさんのアネモネが添えられていた。赤、白、紫それはとっても色とりどりで綺麗だった。花言葉は確か、儚い恋、恋の苦しみ、あとは見捨てられた、見放されたなんかもある花だ。
その花をそれとなく見てると、不意に冷たい風が僕の頬を撫でたんだ。それと同時に
「………メル?」
小さい、しかしはっきりと聞こえる声がよぎった。僕は声のする方へ目線を向けたのだが、誰もいない、首を傾げていると、いきなり目の前に「わっ!」突然ピンク色の少女が飛び出してきた。
「うわあっ!」突然の登場に僕は驚いたけど、それよりももっと驚いたんだ。それは、彼女の体が透き通ってたのと、浮いているということだ。僕は恐怖のあまり腰が抜けてしまった。すると、
「…ねぇ、あなた、私とお話しない?」
と言うので、僕は怖がりつつも首を縦にコクンと振った。話を聞くと、この少女はサラと言い、この大きな桜の木に魂が眠っているお姫様らしい。
そこへ、僕が来たから話しかけたんだとか。せっかくだからこの場所のことを色々聞いてみた。
「ここは、妖怪の里。妖怪たちが毎日楽しく過ごしている場所なの。あなたも見たでしょ?一つ目のおじいさんとか、うさぎ人間だったり狛犬だったり。」
なるほど、あれはやっぱり妖怪だったのか。
「こんな私も妖怪よ、妖怪の中では姫っていう立場だけどね。」
そういうと、サラは楽しそうにフワフワ飛んだ。僕は苦笑いしながら、ふと気づいた事をサラに話した。
「ねえ、なんで僕の名前を最初に呼んだの?知ってたの?」そう問いかけると、サラは、
「ああ、それはね…」と言いかけた次の瞬間、
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」耳をつんざくような悲鳴が聞こえたんだ。サラと一緒に慌てて向かうと、
「なんだよ、これ…」
さっきまで見た美しい景色は炎に包まれ、地獄と化していた。僕は必死に足を動かした。ようやく現場にたどり着いた時、
「メル、伏せて!」とサラが言った。
咄嗟にしゃがむと頭上を炎の玉が通って行った。
「誰だ!」そう叫ぶと、奴はゆっくりと姿を現した。「おやおや、残念、せっかく珍しい獲物を仕留めようと思ったのに。」それはキツネ、妖狐だった。「く、どう立ち向かえばいいんだ!」僕が策を弄していると、突然手に剣が握られていた。
「それは、私たちの魂で作った刀、水竜刀。これであいつをやっつけて!私は持てないから、メルがやるしかないわ!」そう言われたから、僕は妖狐に向かって刀を構える。その時、心が酷く落ち着く感じがした。まるで、水に流されているかのような。
「はっ、そんな刀全部避けきってやるよ!」そう言いながら、妖狐は炎を飛ばしてきた!
その瞬間、僕に聞こえるのは水の流れる音だけだった。僕は水竜のようにうねうねと滑らかな動きで一瞬で距離を詰め、
「死んどけ、ゲス野郎…」
僕は一瞬で妖狐を倒した。その時、僕は確かに見たんだ。水に包まれている竜の姿を。
「ありがとう!メル!」その直後、サラが僕に抱きついてきた!今までのことも全部吹き飛んで、一気に顔が真っ赤になった僕は
「ちょちょ、何してんの!?」と言いつつ、何とか引き剥がしたのだった。
それから、数日後、何とか里の修復も終わり、僕はサラと桜の木の下で話していた。
「それで、結局なんで僕のことを知ってたの?」
「ああ、そうそう、それはね、昔、メルに助けて貰ったからなんだ。」
そんな答えに僕は「え?会ったことないと思うけど…」と返した。すると、サラは話し始めた。
「私は、前まで、人間界の桜に魂が宿ってたの、妖怪の里に戻れなくて、ずっと桜の中で時が過ぎていった。でも、そんなある日、私の桜に話しかけてくれる人がいた。それが、メル、あなただったの。そして、私を優しく育ててくれて、そしたら妖怪の里に戻ってこれたの。だからあなたには恩義があるのよ。それにあなた、不老不死でしょう?私は気づいてるわよ、だってその時から顔が全然変わってなかったもの。」なるほど、それで僕の名前を呼んだのか。
「そっか、ねえ、ところでさ、僕不老不死じゃん?多分だけどこの高校生のまま、姿か変わらないと思うんだ。だからさ、僕とこれからずっと一緒にいない?」そう笑いかけると、サラは顔を真っ赤にしながらも、「……!うん!」そう言って笑ってくれた。僕はサラのことが大好きになった。ふと、アネモネの花を見ると、全部が赤色になっていた。赤いアネモネの花言葉は
「君を愛す」
それに気づいた僕は、一人で笑った。

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