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歌詞を楽しむ【読解】桑田佳祐「鏡」

サザンの桑田佳祐さんのソロ曲「鏡」は

私の好きなサザンナンバー(ソロ名義だけど)の五指に入る

アコースティックなギターの音色が、優しく温かく、かわいい、素敵な曲。

この「鏡」の歌詞について、考察したい。

曲は聴き手一人一人、伝わり方がそれぞれ違うと思う。

楽しみ方は十人十色なのが音楽の良い点。

ここでは、歌詞をメインに

推察を含めて、桑田さんの書く詞の世界を味わってみよう。

 

まずは作品概要。

「鏡」(サザン公式サイトに試聴、歌詞あり)は

1994年発売の桑田さんソロアルバム「孤独の太陽」の中の一曲。

(後に発売された桑田さんソロベストアルバム「TOP OF THE POPS」にも収録)

 

1994年ということは、桑田さん38才の時の作品。

アルバム「孤独の太陽」には、桑田さんが自身の曲で一番好きだと公言する「月」(この頃亡くされたお母様のことを歌い込んでいるとされる静かな名曲)も含まれている。

 

曲は小倉さん奏でるアコースティックギターの柔らかな音色が大変美しい、温かみのあるもの。

すぐ隣で弾いてくれているような近さを感じる。

大変リラックスしたような空間での雰囲気がある。

 

♪雨の昼間にコーヒーカップで愛をご馳走する

 

静かな昼下がり、コーヒーの香り、穏やかな気持ち・・・

とてもプライベートなひと時ーー

「ご馳走」する相手とは?

 

♪風凍る陳腐な青春に“投げキッス”を頂戴ネ

 

風凍る=寒い。 ギャグが寒い、とかの意の「寒い」。孤独なさびしさ

陳腐な=ありふれた

投げキッス=少し距離がある相手への軽く、冗談めかしながらの親愛なる愛情表現

 

思い返すと、痛いことだらけの若い頃の自分に対して

温かいまなざしを向けてやってくれ、と自分自身に軽く頼んでいる。

(後悔や自己嫌悪で「自身を責める自己」も、自分の中にいるのだ)

 

♪時刻(とき)迫るほどにジンクスは解けて

 

十代から二十代、さらに三十代の後半となり

月日の経過につれて、思い込んでいた(夢見て思い描いていた)

「ああだったはずなのに」「こうなるはずなのに」

という未来予想図が変わってきた。

 

あるいは・・・

「もう恋なんてしない」「俺なんか幸せになれるわけない」と

絶望したこともあったけど、気づくと人並みの幸せをつかんでいた。

 

♪鏡よ君に語ろう Hey,Na Na Na....

 

年齢を重ね、安定を得た今の自分にならできる。

鏡に映る自分自身、

自分の内面と対峙し、話し合ってみようとしている。

この曲の主題は、ここ。

 

♪向こうが泣いたら親友同士の愛は錯綜する

 

この一節は、どう解釈しよう!?

向こう=相手

泣いたら=困窮し、混乱し、まともな話し合いができなくなったら

親友同士の愛が錯綜するーーー・・・・・

 

親友同士とは?

 

ここでは、先ほど出てきた自分自身の中に住む

「若い頃の自分に好意的な自分」と「批判的な自分」と解釈してみよう。

 

若い頃にいろいろと失敗もした。

思い返すだけで自己嫌悪に陥りそうになるくらいの失態もある。

 

「あの時、なんであんなバカなことをしたんだろう」

「なぜ、もっと上手く立ち回れなかったんだろう」

後悔の思いで、愚かで無様な過去の自分を責める。

・・・責められても、過去を変えられるわけもなく

「過去の自分」は、ただおろおろと言い訳を繰り返すしかない。

涙をこぼしながら・・・・

 

元々、答えも結論も出しようのない過去の出来事の話。

なのに、なぜかいつまでも心の奥底に引っかかっていて

思い出すたびつらく苦い気持ちがよみがえるーーー

 

気持ちは錯綜し、自身との穏やかな対峙は到底できない。

 

・・・・・・あるいはーーー

言葉どおり、親友だった相手と恋愛絡みでトラブルがあった、と解するべきか?

親友に泣かれて(こちらが折れなければ仕方がないような状況となって)

恋の糸がもつれてしまった。(自分が彼女と別れることになった)

 

♪憐れで呑んべえな精霊は過去に触れない

 

憐れで=他人の憐れみをも知る

呑んべえ=おおらかで鷹揚な、人生の酸いも甘いも知る大人

精霊=神の視点で、自分の全てを知る存在

過去に触れない=まあまあ!それはもういいじゃないか、と言ってくれる。

  

♪振り返るたびに天使は逃げて 

 

天使とは?

「幸せの象徴」

あるいは・・・・・

別れた想い出の恋人。

 

何度も思い返すけれど、そのたびに時間はどんどん過ぎ「過去」になっていくし

彼女が自分の元から去っていった、という想い出を繰り返し噛み締める。

 

♪今君は幸せかい? Hey,Na Na Na....

 

昔の彼女が「今、幸せに暮らしているだろうか」と思いを馳せる。

あるいは、

鏡に映る自身に対して、「君(=今の自分)は幸せかい?」と問うているとも取れる。

その後の

♪Without love~~

♪互いを嘆くような二人

の部分は、鏡の中の自分自身と向かい合い、見つめ合う様子が描かれる。

 

そういうのって、みんなやったことがあると思う。

鏡の中の自分の頬のたるみを見つけて、

ああ、自分も年取ったよなぁ・・とか思ってへこんだ表情をする自分に

「実際、そこそこの年齢になってるんだから、仕方ないでしょうが~」と説教してみたり、

「まだまだ老け込みたくはないわよ!」と叱咤してみたり。

 

この曲を桑田さんが書いた38歳ってのは、私も覚えがあるけれど

気持ちは若いままのつもりでも、確実に体力や体調の面で、

これまで通りにはいかないことを痛感させられる微妙な年齢でね、、、

40歳手前の人生の折り返し地点にいることに気づいて、ぞっとするようなね、

今までの自分を、ちょっと振り返りたくなるような、そんなお年頃なのですよ。

 

ハッと気づいたら、もう人生の半分まで来ちゃってて。

そう思うと、やり残してることとかいろいろある気がして焦るんだけど、

それなりに、もう自分の生活、社会的役割とかが出来上がってしまっていて

後戻りしようにもできない所まで来てることにも気づく。

  

♪俺が死んだら闇の銀河に誰を招待する?

 

死んだら=この世のしがらみ等が一切リセットされたなら

 

死んでも一緒にいたい人は?

あるいは・・・

この世では会えないけど、心の底でもう一度会いたいと切望しているあの人。

あの世でなら、全てのことは洗い流され、昔のあの時のままの笑顔で自分を見つめてくれるだろうか。

 

♪光の中じゃ永遠に嘘はつけない

 

光の中=神様の御前

 

この世では、「昔のこと」と自分に言い聞かせ、忘れた振りをしているけれど

本当はそうじゃない。

釈然としないままの気持ちが自分の中に残っている。

 

♪罪深き胸の人物のために

♪鏡よ君に語ろう  Hey,Na Na Na....

 

「人物」とは?

・・・・・やはり、昔、何かがあったのよね。

自分にも非がある。

だけど、彼女にも、そして親友にも裏切られたような思いが

ずっと胸に残っていて、それが月日を経ても自分の中で消化できていない。

いまさら、彼女や親友と会って話すとかできない。そういうことは望んでいない。

全ては自分の気持ちの整理の問題。

 

若い時は、腹立ちや悲しみに激昂して「もういいや!」と気持ちにふたをしてしまい

「もういい」事にしてしまっていたけれど・・・・・もう一度、よく思い返してみようか。

自分の中のもつれた心の糸を、ゆっくりほどいて

シンプルな一本の糸にしてみよう。・・・時間がかかるかもしれないけれど。

 

♪冷たいドアのような鏡

 

鏡に映る自分(自分の中のもう一人の自分)と手を繋ぎあいたい(理解しあいたい、許しあいたい)けれど

ドアに阻まれ、そう簡単にはいかない。

けれど、このドアを開けることによって、全ては始まるはず・・・・・・

 

・・・・・ということで、私はこの曲を

昔の出来事がある種のトラウマとなってこだわってしまっている人の

心の修復作業と解釈します。

 

「作業」とか、そう大げさでなくても、まぁ大抵みんな、

鏡を見てあれこれ一人思いにふけることってあるものね。

その雰囲気を上手く捉えた隠れた名曲だと思います。


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・2010年1月の記事再掲。

・私のブログ「夢で逢えたら…」にも同じものがあります。

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