新しい体の使い方を学び始めた話

キックボクシングを始めた。

家の近所にキックボクシングを教えるジムができた事はずいぶん前から知っていた。

ただ、格闘技全般は自分と縁遠いものだと思っていたので、特に詳しく調べることもなく前を通るときに眺めている程度だった。

入り口側の壁がガラス張りになっているその建物は、通り過ぎるだけで中の人達の姿がよく見えた。

ミットを着けたトレーナーとそれにパンチやキックを打ち込むトレーニーたち。一撃ちごとに響くバシン!バシン!という音がこちらまで響いてきて、何だか漫画の世界みたいだなぁと思っていた。

そのキックボクシングジムに、通い始めたのである。

就職して4年目、仕事にも慣れてきた上に直近抱えていた大きな仕事も一段落した今、新しいことを始めてみようと思った。

何を始めようか、と検討したときに浮かんだのがジェスチャーの幅を広げたいということだった。思えばこれまでの人生、体の使い方を拡張することに面白みを見出してきたと思う。

小学生の時に通い始めた水泳、中学生の時に部活に入ったバスケット、そして同じく中学生の時にはまったスキー。

運動神経がいい方ではないので最初は他の人に出遅れるけれど、それでも動きを繰り返し練習しているうちにそれなりの動きが出来るようになっていて、そのことに気がつく瞬間が好きだった。

そんな訳で、今まで自分が全くしたことのない動きって何だろう、と考えた時に浮かんだのが件のキックボクシングジムだったということだ。

ジムに通い始めて一ヶ月未満の現在、まだまだ満足のいく動きは全くできていないながら発見したことが1つある。

キックをするときに重要なのは「蹴る足以外の体の動き」ということだ。

例えば右足で蹴る場合、その一蹴りがスムーズに繰り出せるかどうかは予備動作における左足と右腕の動きにかかっている。

左足の踏み込み位置と方向が、しっかり上半身を捻ってかつ踏ん張れるようになされているか。また、足を踏み込む時右腕をしっかり振り上げてウエストに捻りを加えられているか。

予備動作の時点で蹴りの成否はほぼ決まっている、と感じた。

僕は左足の蹴りがどうしても上手く繰出せなかったのだけれど、トレーナーに左腕を大げさに振り上げるように言われて実行した途端、自分でも驚くほどスムーズに左足が出るようになった。

こんな風にちょっとしたコツで急にパフォーマンスが上がる瞬間を経験できるのが、新しいスポーツをする時の喜びの1つだと思う。

ジムに通い始めて以来、安定性を保ったままキックのリーチを伸ばせるよう、風呂上がりの股関節ストレッチも習慣化している。

目的に向けて自分のステータスを伸ばしていくのは、RPGみたいで何だか楽しい。

基礎ステータスを向上させながら、キックボクシングスキルのコツを体得していった場合、半年後の僕はどんな能力になっているだろうか。

寒空の下をジムに向かいながら、僕の心はホクホクしている。

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