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愛情未満

 こんにちは。2月もそろそろ半ばな今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
 布川翼、女子大生。ハタチです。
 ひとりになって3年くらい経ちました。
 今は実家から通っているので毎日電車通学をしています。

「えーっと、どこだったかな」

 趣味という趣味はないですが、強いていうなら絵を描くことかな。といってもここ最近はめっきり書いてませんが。

「つばさーー!こっちこっち!」

 さて、今日は友達ふたりと女子会です。彼女からはSNSで話題のアレを食べたいとのお達し。
 遠くに見えた友達の元へと急ぎます。

 そしてすこし小さめなお店に入り、運ばれてくるは巨大パンケーキ。
 そしてそれをパシャパシャと撮る友人たち。わたしも記念に一枚ぱしゃり。
 そしてたっぷり生クリームを付けたパンケーキをもぐり。やっぱ動物性タンパク質おいし〜。

「つばさはさー」
「んー?」
「今年はどうするの?」
「え、なにが?」
「もうすぐだし、ちゃんと決めてあるのよね?」
「やっぱどこかでご飯とか?」
「だ、だからなにが……?」
「え? まさかなんも決めてないの!?」

 目の前のふたりは目をぱちくりとさせていた。

「バレンタインよバレンタイン! 彼とはどーなったの?」
「あぁー……」

 彼、とは最近わたしが知り合った男子、豊長くんのことです。
 彼女らの紹介で知り合い、最近よく連絡をくれる男の子。

「まぁ、彼とは友達だし、別にあげなくても」
「「はァ〜〜〜」」

 二人揃ってため息を吐かれても困るんだけれども。

「あたしたちがこーーーーんなに言ってるのになんであんたはそうなんかなぁ〜」
「釣った魚にエサあげないと死んじゃうよ?」
「いやそもそも釣ってないし。もっかい言うけど豊長くんとは友達だし」
「なに言ってんの!」

 彼女はバッと立ち上がる。
 ただでさえ小さい店なのにもっと手狭に……。
 
「いーい!? あんたね、そんなんでいつまでも好意を受けられると思ってちゃダメよ!」
「豊長くんが優しいからってそこに付け上がるのはよくないね」
「そう! さも当然みたいな顔してるけどね、そんな態度でいつまでも好かれてるって思ったら大間違いなんだから!」
「いつまでもあると思うな親金愛」
「ええ〜……」

 んなこと言われたって、別に今彼氏とか欲しくないし。そんな焦る必要なんて。
 そこで、眼前の彼女はハッとなにかに気づいたようで、

「あんたまさか。……チョコすら買ってないんじゃあないでしょうね?」
「え? うん」
「うわまじか」
「さ、行くわよ」
「え?」
「チョコを買いによ! ほら早く!」
「ちょちょちょ、待って待ってせめてコート着させて!引っ張らないで!」
「お会計済ませとくね〜」


  ☆☆☆☆☆☆☆

 そこは戦場だった。
 見渡す限り女子女子女子。チョコを求めし者たちが一同に会せし場所。
 要するにデパ地下です。

「さ、好きなだけ選びなさい」
「私もチョコ買ってこよーっと」
「あたしも義理チョコまだだったしちょうどよかったわ」
「はぁ……」

 え〜、ホントに買わなきゃダメ……?

「じゃ、あたしたちも選んでくるからあんたもいいの探してきなさい! こんだけあったら1個はいいの見つかるでしょ! ってか見つけなさい!」
「つばさの分も買ってくるからね〜」

 そう言って彼女らはどこかへ行き。
 わたしはひとり、ぽつーんと取り残されてしまった。
 …………。
 うん。
 わたしはカバンからスマホを取り出すと。

 きょ、う、は、か、え、り、ま、す。

 よし!かーえろ!


  ☆☆☆☆☆☆☆

 はぁー。つかれた。
 途中で買ったミルクティーをひとくち飲んで、電車の座席でひとごこち。
 窓の外では太陽が沈みかけていて、雲が紅く照らされています。
 ……まぁ、わたしのことを思って言ってくれてるんだけどさー。
 彼氏ってそんないなきゃダメなのかな。
 いなくても別に楽しいし。むしろいたらいたで大変だし。

 ピロリロリン。
 うっ、電話。なんか言われるのかな……。
 恐る恐るスマホを開くと、
(ああ、なんだ彼か)
『もしもし? 豊長です。この前言ってた映画、すっごく面白かった!』

 豊長くんからの電話でした。
 わたしのどこがいいのかは知らないけれど、彼は毎日このくらいの時間になにかしら連絡をくれます。そして、たまーに映画とかご飯とかに行ったりも。

「よかった、気に入ってくれて」

 ちなみに彼から好きとか付き合ってだとかは特に言われてません。まぁ言われてもちょっと困ってしまいますが。

「ていうかごめん、今ちょうど電車でさ。ほんとごめんね」
『いやこっちこそごめん! タイミング悪かったなー。うん、じゃあまた今度ね』
「うん、なんかごめんね。また今度あそぼ」

 電話を切る。
 はー。
 別に嫌いとかじゃあないんだけど。
 なんか、なぁ。今はそういう気分じゃないっていうか。

 ピロン。
 見ると、彼からラインが。

『何度もごめん!
 この前言ってた本ってサメが出てくるやつで合ってる?』
『ん、んー……、たしか、ちがかったよーな』
『そっかー。わかった!じゃあまたなんかそれっぽいの見つけたら連絡するね』

 この前ちょっと言ったことなのに。マメだなぁ。
 んー。
 いい人……、ではあるんだよね。
 優しいし。色々よく気づいてくれるし。
 スマホを見ながら考え事をしていると、
 あっ。
 明日、ついに見たかったやつ配信してくれるんだ!帰ったら見よーっと!
 んー、コンビニでお菓子買ってアレ買って! 明日なんも予定入れてなくてよかった!
 と、ここまで考えて。
 ……もしかして、私って薄情?
 でも、今は別のことの方が楽しいんだもの、仕方ないじゃない。
 別にひとりでも寂しくないし、むしろ今がせっかく楽しいのに誰かと過ごさなきゃいけなくなるなんて嫌だし。やっぱり恋愛ってタイミングってのがあるし、人に言われてやるもんじゃないっていうか。
 そもそも自分の気持ちも相手の気持ちもまだはっきりしてないのに、そんなこと言われたって。
 駅を降りてもそんなことをぐるぐる考えながら、家路につくのでした。

  
 ☆☆☆☆☆☆☆

「あーんーたーねぇー」
「ご、ごめんて」

 次の日、まぁいますよね。怒った友達2名。

「てかやばくない? 途中で帰るとかどんだけ嫌だったの」
「だって……」

 嫌なもんは嫌だったんだもの……。

「てかさ、あれって好きな人にあげるもんでしょ? 別にわたし、そんな好きってわけじゃないし……」
「義理でいいじゃん! あんたチョコをあげるだけでもダメなの?」
「別にダメではないけどさぁ」
「じゃ、あげればいいんじゃない?。日頃お世話になってるんでしょ? お礼ってことでさ、あげてもいいんじゃない?」
「まぁ、お礼の気持ちはなくもないけど」
「あるならあげれば?」
「でも……」
「でもでもだってじゃないの!」

 はぁ。と彼女はため息をついてから、

「あんまりさ、つれなくしてると諦められちゃうわよ?」
「そうそう。いなくなってから寂しいって思ってからじゃ遅いし。それとも嫌々相手してる?」

 ………………。

 別に、嫌々ではないけど。

 まぁ、たしかに一理あるなー。
 日頃の感謝としてってことなら、まぁ、あげるのもいい、か、も?

「まぁ決めるのはあんただからね。あんまりとやかく言うのもアレだし、あとは自分で決めなよ」
「……うん。わかった、そうする」


 ☆☆☆☆☆☆☆☆

 今日は2月13日。そう、件の日付まであと1日。
 買いに、行、く……うーん。
 あの喧騒を思い出してしまうと、ちょっとあそこに行くのは躊躇われるというか、なんというか。
 ま、まぁ義理なら別にわざわざ当日に渡さなくてもね! うんうん!
 明日にしよう。てかなんならあそこで買わなくてもいいし。
 そう私が自分を納得させると。ピロン、とスマホが鳴りました。
 ああ、もうそんな時間だっけか。

『つばさー、今からカラオケ行くんだけど来なーい?』

 あー、カラオケかぁ。でもなんかそんな気分じゃないし。断っとこ。
 カラオケかぁ。そういえば最近行ってないかも。今度気が向いたら行こ。うん。

 ☆☆☆☆☆☆☆

「ただいまー」

 家のドアを開けると、ふんわりと甘いにおいがした。この臭いはアレだな……?
 とりあえずリビングに行くと、

「あっ、おかえりなさーい」
「めっちゃいいにおいじゃん。チョコ作ってるの?」
「そう! なおくんにあげるの!」

 なおくんとは妹が好きな男の子である。女の子だもんね、好きな人のためにチョコのひとつやふたつくらい。
 わたし?
 好きな人なんていないので……。

「お姉ちゃんヒマ? ヒマならレシピ読み上げる係やってー!」
「いいよーうんうん」

 机の上の家用タブレットを拾い上げる。

「ふんふんふん……え、ブラウニーなんて作れるの?」
「これは炊飯器で作るやつだからだいじょーぶ!」
「へぇー。ホントだ、混ぜて炊くだけ……ほうほう。おねーちゃん生チョコくらいしか作ったことないから知らなかった」
「みどちゃんに教えてもらったの!」
「女子の情報網はさすがだ」

 ピロン。
 スマホを見る。

『今ね、しーがチョコ作ってるみたいだから、あんた面倒見ててくれない?』

 母からだった。
 心配性だなあ。もう中学生なんだからひとりで料理くらいできるだろうに。

「あっ!!」

 盛大になにかが倒れる音。
 見ると、半泣きの妹。床に視線を落とせば、なにやら黒っぽいものがべったりと。
 うーん、まだ彼女には早かった……のかもしれない。


 ☆☆☆☆☆☆☆

「「でーきた!」」

 あたりが暗くなってしばらくした頃。
 そこにはキレイにラッピングされたブラウニーが!
 そしてその後ろには何度か失敗したブラウニーが……。

「ありがとおねーちゃん! だいぶ手伝ってもらっちゃった」
「うん、でもちゃんと作れてよかった」

 いや、ホントに。
 大変だった。材料が足りなくなってコンビニに行ったあたりとか本当に。

「なおくん、食べてくれるかな」
「女の子からのチョコなんだから喜んで食べるよ」
「そうかな? そうだといいな」
「ほら、はやく冷蔵庫入れてきな。パパに食べられないようにちゃんと奥の方にね」
「うん!」

 やっぱり恋する女の子はかわいいっていうけれど、恋して頑張る女の子はさらにいい。うんうん。頑張って欲しいものです。
 そして、ちらっとスマホ。
 もう6時半か。どおりでちょっとお腹すいたと思った。

「じゃあお姉ちゃん自分の部屋行くけど、ちゃんと後片付けしといてね」
「うん、ありがと!」

 うんうん、がんばるのじゃぞ。後片付けまでが料理じゃ。
 階段をあがりながら、なんとはなしにスマホを見つつ。

「…………なんか、忘れてるよーな」


 ☆☆☆☆☆☆☆

「じゃあ行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」

 次の日。妹は昨日のチョコを持って学校へ。
 どうやら休日にもかかわらず学校で待ち合わせしてるんだって。いいねぇ。
 てか学校ってチョコ持ってっていいんだっけ?
 私たちの世代では禁止だったような。まぁ何人かは持ってってたし、先生も暗黙のうちに認めてたみたいなところはあったけれど。
 スマホを見ると、うーんこれなら二度寝してもいい時間かな。
 昨日は遅くまで映画を見てたのでちょっと眠たい。
 部屋に帰って布団にもぐると、ピロン。と通知音。
 見ると、ただのSNSの通知。
 それをなんとなく確認し、流れでSNSを更新するとやっぱり、バレンタイン大喜利やバレンタイン豆知識などの毎年見るようなものがバズっていました。
 でも一年ぶりに見る中にもたまーに新しいものが入ってたりして、まぁつまりは例年通りのバレンタインです。
 そのままうとうとしながらスマホを眺めていると、やっぱり昨日の夜はデートなどをしていたり、おいしそうなもの食べてたり、あ。このチョコおいしそ。ふーん、思ったより安そうかも。こっちのもおいしそう。これも食べたいな。それと……。


 ☆☆☆☆☆☆☆

 結局一日だらだらと過ごしてしまった……。
 窓の外はすっかり暗くて、時刻はもうそろそろご飯の時間になります。
 そして、わたしはまたスマホをちらりと。
 …………。


 あれ?


 そういえば。
 脳裏にはふと友達の言葉。

『あんまりさ、つれなくしてると諦められちゃうわよ?』

『寂しいって思ってからじゃ遅いし』

 …………。
 そんなこと。

『そんな態度でいつまでも好かれてるって思ったら大間違いなんだから!』

 大間違い。
 遅いし。
 諦め。






 ピロリロリン。ピロリロリン。

 あっ!

「……もしもし?」
『もしもし! 豊長です。この前の本の話なんだけど、友達が知ってたよ!その本! クジラが出てくるやつじゃない!?』
「え? うーん、そう、だったかも」
『やっぱり? よかったぁ。大事そうな本だったからさ、どうしても見つけたくて!
昨日友達に話したら今日教えて貰ってさ!』
「あ、その、ありがと。てか昨日って……」
『そう! 実は昨日さ、ケータイ落としたら電源つかなくなっちゃって。今やっと代替機が貰えたから早く伝えなきゃって……あ、もしかして今忙しかった?』
「ううん、そんなことない、ヒマだった」
『ならよかった! それでさ━━』


 ☆☆☆☆☆☆☆

 この気持ちがどんな名前なのかはまだわからないけれど。

 一日ぶりに彼の声を聞いてわたしは、
 明日、チョコを買いに行こう。と思った。

おしまい。

作者の他の小説はこちら
普通人がやってきたぞっ
自己否定は誰も幸せにしない

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ムカデって虫じゃなくて動物の一種らしいですよ
5
だいたい1000〜10000字くらいのものを投げたり投げなかったりします
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