見出し画像

VTuber界でイノベーションを起こすのは誰か・Vティーク VOL.4を読んで

専門情報誌「Vティーク」の最新号 VOL.4 が発売されました。いつも楽しみに読んでいるのですが、第4号にして今までと感じが変わっていて、それはVTuber界の変化を表しているように思えて、いろいろ考えさせられました。そこでまずは、VOL.1から順に見ていこうと思います。

これまでのVティークを振り返って

画像1

VOL.1 は2018年の夏に発行され、ブームの火付け役のVTuberたちの人気が確立していた時期でした。表紙はミライアカリちゃんで、いわゆる「VTuber四天王」の一人であり、VTuberというジャンルを作った1人と言えるでしょう。

第2特集の「にじさんじ」は、2018年の2月から活動開始して、この頃は新しいジャンルのVTuberとして人気が確立しており、これも順当なところです。

画像2

VOL.2 は、2018年の秋に刊行されました。表紙がシロちゃんで、こちらもVtuber四天王の一角です。企業の壁を越えたコラボ企画がよく行われるようになり、シロちゃんはそういった企画によく出ていたので、VTuberの要(かなめ)みたいなところがありました。

にじさんじの成功を見て、2Dキャラで生配信中心でやるという、にじさんじフォロワーのグループがたくさん生まれましたが、「アイドル部」はその中で最初に人気が定着したので、特集されるのも納得です。また、個人勢で一番人気だった「名取さな」が取り上げられたのも順当でしょう。

画像3

VOL.3 は2019年の3月に刊行されました。これまでと少し変わって、歌ものVTuberの特集という企画色が強いものになっています。ときのそら、富士葵、樋口楓、ヒメヒナなど。

歌はVTuberの重要な要素の1つではありましたが、当初はボーカロイドなど既存の曲を歌うのが主流でした。2018年の後半頃から、VTuberがオリジナル曲を歌うことは普通になり、また樋口楓の「KANA-DERO」やキズナアイの「hello, world」など、VTuberによる大規模な音楽イベントが行われるようになりました。ソニーミュージックやエイベックス(まりなす)など既存の音楽事業会社もVTuberに参入するようになりました。この特集は、そのようにVTuberの歌が注目されるようになったトレンドを表しています。ただ、主体はトップランナーのVTuberたちでした。

今回のVOL.4の特徴

画像4

そしてVOL.4 ですが、特徴的なのは、表紙が「斗和キセキ」ちゃんで、確かに話題のVTuberではあるけれど、Youtubeチャンネルの登録者数は8万人台で、必ずしも大手とは言えないことです。斗和キセキをはじめとして、じーえふさんプロデュースのVTuberが大きく特集され、他も「えのぐ」など後発組のVTuberがフィーチャーされていました。第二特集はホロライブですね。これまでは、例えばアキバで街角アンケートを取ったら名前が挙がるような有名どころが前面に出ていたのですが、かなり変わったなと感じました。

斗和キセキちゃんは今年の3月にデビューしたVTuberで、謎の三角形のオブジェを背負ったデザインとか、自己紹介動画がプロレスラーと共演など、奇抜な企画で注目されました。
「斗和キセキのめちゃくちゃリアルな生首を作りたい!」というクラウドファウンディングをしたら、目標額10万円のところに1500万円近く集まってしまい、むしろ使い道に困っているというオチが付いていました。ファンの数が特別多いわけではないが、熱量が高いことがうかがえます。

「えのぐ」はあまり存じ上げてないのですが、VTuberではなくVRアイドルだと名乗っていて、VR握手会をよくやっているのが特徴的です。こちらも、きっと濃いファンが多いのでしょう。

「ホロライブ」は人気グループですが、それでも登録者数や視聴者数で言えば、もっと多いグループはあります。ホロライブのすごいところは、スーパーチャット(Youtubeの投げ銭)の一人あたりの平均金額がトップクラスであることで、つまり濃いファンが多いと思われます。また、アイドル路線でありながら、虫を食べるなど奔放な企画もやっている自由なイメージがあります。

「あにまーれ」の記事もありますが、ここも熱量が高いファンが多いことで知られています。リーダーの因幡はねるちゃんについて言えば、BS日テレのTV番組内で行われた「バーチャルYouTuberランキング2018」で、並みいる有名VTuberをおさえ、ファン投票で4位に選ばれていました。
記事は、6月に行われた「あにまーれ24時間生放送」の後日談になっていて、あれもなかなかチャレンジングな企画でした。

こうしてみると、VOL.4で取り上げられたVTuberは、数字や一般層への知名度を最重視はせず、比較的後発のVTuber(グループ)の中から、ファンの熱量が高く、かつ変わったことをやっているVTuberを基準に選んだように見えます。

VTuberの世界は広がっている

これに関連して思い出したのが、緑仙と因幡はねるのコラボ配信、「有望な新人は潰さNIGHT」です。

公募で集めた新人VTuberたちを次々と呼んで、紹介するというよりは「潰す」というチャレンジングな企画でしたが、でも結果として、知られざる面白いVTuberさんの紹介にもなっていました。YouTube中心に見ている多くのVTuberファンにとっては無名だけれど、別のエリアでは有名人という方が何人か出ていて、それが特に興味深かったですね。fc2で活動しているバーチャルAV女優のKarinさんとか、イチナナLiveで投げ銭を月に数百万稼ぐという武良崎ゆきさんとか。VTuberの活躍の場はYoutubeだけじゃないんだなと、いまさらながら気づかされました。

これは武良崎ゆきさんの配信の切り抜きですが、最初何がなんだかわからなかったのだけれど、トークしながら、投げ銭をくれた人に個々に名前を呼んで返事してるんですね。すごい情報量のしゃべりで、すごい人がいるもんだなと。

2018年のある時点までは、VTuber界隈で何が起っているかは何となく把握していたつもりでしたが、もう無理というものです。人数が増えているし、活動の幅も広がっている。いわゆる有名な人以外にも、ファンの熱量が高い人たちがいて、面白いことはそういうところでも起こっています。

VTuberにイノベーションが必要だとすれば

VTuberはまだ、一般に広く親しまれているという存在ではありません。バーチャルタレントとして、生身のタレントと変わらないくらいに広く受け入れられれる時代がいつか来ると思っていますが、まだその域ではない。

それに近い位置にいるのは、いまトップレベルのVTuberたちかもしれませんが、トップレベルのVTuberだけを見ていると、今は若干停滞期にあるという見方もできます。一時期のように新しいことが目まぐるしく起こる状況ではないし、同時視聴者数などの指標で、ピーク時期より下がっているものもある。よりメジャーな存在になるための、ガラスの天井のようなものに当たっていて、これを突き抜ける必要があるのかもしれません。いまはそれを模索している時期で。

ではどうすれば突き抜けるのか。今やっているようなことを、よりお金をかけて、より高いクオリティでやるという方向性もあるでしょう。でも、そうではないアプローチもありえます。より画期的なアイデアと言うか、いわゆるイノベーションですね。大手が既存のやり方を洗練させているうちに、新興のプレイヤーが破壊的イノベーションを生み出して、市場がひっくり返るということは歴史上何度も起きていますから。

VTuber全体を見ると、例えば上のデータのように、ユニークユーザー数や視聴者数は順調に伸びています。それは中堅どころが大きく広がっていて、裾野はさらに広がっているからです。そして、そこで日々新しいことが起こってる。数が多くて、自由にやっているというのは、イノベーションが起きやすい環境です。イノベーションとは突然変異的なもので、数打ちゃ当たる的なことをどれだけ試行したかですから。抜き抜けるためにイノベーションが必要だとすれば、それを成し遂げるのは今トップレベルの人たちとは限らないかもしれません。

Vティーク VOL.4 が、比較的後発の、ファンの熱量が高く、新しいことにチャレンジしている人たちをフィーチャーしているのを見て、そのあたりを大いに注目するべきというメッセージだと受け取りました。僕もそう思います。VTuber界はこれからが面白いはずで、見届けていきたいと思うのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?