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「死」について考える小説『キッチン』

本日は吉本ばななさん著者の小説『キッチン』を紹介いたします。

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吉本ばなな

東京都文京区出身の吉本ばなな(本名:吉本真秀子)さんは父が詩人・姉が漫画家という芸術の血が流れている家庭で育つ。5歳の頃には、小説家になることを夢見ていたという吉本ばななさん。

『キッチン』の概要

1988年に福武書店から刊行された短編小説『キッチン』は海燕新人文学賞を受賞し、その中の1作『ムーンライトシャドウ』では日本大学芸術学部長賞を受賞した作品でもある。

この『キッチン』にはそれぞれ

・キッチン

・満月 キッチン2

・ムーンライトシャドウ

の3篇が収録されている短編小説である。

あらすじ

1.『キッチン』

主人公の桜井みかげは幼くして両親と祖父を亡くしている大学生。その頃から大好きだった祖母に大切に育てられたものの、その祖母までもを亡くしてしまう、天涯孤独に身となってしまう。

そんな中、祖母の行きつけの花屋で親しくしていたというとアルバイトの男子大学生、田辺雄一と出会い、居候することになる。そして田辺家でみかげと雄一、その母であり、父でもあるえり子(父の名を雄司)の3人で生活をする。日を追うごとにみかげは祖母の死を少しずつ受け入れ、みかげは心を取り戻していく。みかげは台所が好きで、田辺家での居候を決意するのも台所が気に入ったからでもある。作名は『キッチン』だが、作中では『台所』と表現されている。

2.『満月 キッチン2』

みかげは大学をキッパリと退学し、長らくお世話になっていた田辺家からも独立をする。そして好きな料理作りに没頭し、アシスタントとして日々成長していた。

そんな中、えり子さんが経営していたバーで、えり子さんが殺害されてしまったという話が耳に入る。そして再び、みかげと雄一と2人での同居生活が始まる。みかげも雄一も太陽のような存在、えり子さんを失ったことで言葉では表現できない悲しみの渦の中に...。雄一は姿をくらまし、みかげは出張で伊豆へ。みかげはそこで、とあるカツ丼に出会う。それを雄一へ届けるために夜な夜な伊豆から遠く離れた雄一の元へといくのだが...。

3.『ムーンライトシャドウ』

主人公のさつきは、愛し合っていた恋人の等を不慮の事故で亡くしてしまう。一方、等の弟である柊は同時期に兄と恋人のゆみこの2人を亡くしてしまう。4人はよく遊ぶくらいに仲が良く、不運にも等がゆみこを送る途中で車の事故にあってしまったのだ。2人とも死を受け入れることができず、さつきは早朝にジョギングをする日課が生まれ、柊はゆみこさんの制服を着て生活を送るようになる。それくらい、2人の心は大切な人を亡くしたことで疲弊していた。

そんなときにさつきは1人の明るい女性、うららと出会う。彼女は謎に包まれた存在だったが、彼女の存在が2人を前へと背中を押していく。

いずれも「死」がテーマとなっている

身近な人の「死」は遠い存在のようで、いつ、どのような形で起こるか分からない。実は人間にとって隣り合わせで人間はいつだって死に向かって生きているのだ。

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そんな哲学的なことを言葉にするのは簡単だが、実際に身近で「死」を体験することは言葉にできない苦しさや悲しみ、喪失感がある。そんなあらゆる感情が吉本ばななさんの美しい表現力で書かれた1冊がこの『キッチン』である。

「死」について考えることは恐怖でもあり、自分自身とは無関係であると、誰もが思いたいが、人間は皆「死」と隣り合わせであることを一度は考えてみたいものだ。

この小説は、そんな感情を身近で感じることのできる美しい小説だ。

ぜひ読んでいただきたい1冊である。


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