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クリエイターとOKR大冒険

こんにちは。メルカリ・マーケクリエイティブチームの稲川(misupuri)です。

メルカリのアプリから外に拡張する体験や期待値を生み出すプロジェクトの企画やクリエイティブを手掛けるチームで、マネージャーをしています。

ちょうど、本日(2020年6月10日)、新宿マルイ本館さんにメルカリ初のコンセプトショップ「メルカリステーション」をオープンしました。

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メルカリについて色々リアルに質問できたり、もっと使いこなすためのTIPsが詰まった、ホスピタリティあふれる空間です。気軽にお寄りくださいとは言いづらい状況ですが、長期で出店していますので、機会がありましたらのぞいてみてください。

他には、オリジナル梱包材デザインやコンビニの棚作り、配送のハードルを下げるため、無人配送端末のデザインをしたり、シニア向けにメルカリの始め方を教える教室のカリキュラムを作ったり、はじめしゃちょーと大掃除コラボ企画安達祐実さんのドラマでインフォマゆるいWeb動画広告を作ってみたり、10名の作家が紡ぐ「モノ」にまつわるストーリー「モノガタリ」のアートワークしたり、オフライン〜オンライン問わず、雑食に作っています。「え?そんなことも社内でやってるの?」のインハウス度の高さが売りのチームです。

さて、みなさん。目の前の案件をこなしていく以外に、自分の所属する組織や制度について、仕事中に考える時間はどれくらいありますか。

この記事はいつものデザイン系TIPSと趣旨を変えて、クリエイターと組織を結ぶ仕組みに焦点を当てています。ニッチですが「チームってどうやって回るんだっけ?」「なんか最近、会社で孤立してるかも」などのお悩みの方に、役に立つこともあるかもしれません。

さて、メルカリには4半期ごとに「OKRを決める」という、ウチのチームメンバーにとってやや腰の重いミッションがあります。理由は主に「まじめな文章考えるのが苦…もとい…文字では伝えられないパッションを別の手法で表現してきたメンバー」だからです。

入社2年半が経ち、OKRを設定するのも10回目。

振り返ると立てた目標が形骸化してまったく機能しない時もありましたが、トータルではOKRの運用や、そのカルチャーの浸透したメルカリでは、チームやメンバーの価値の開拓、キャリア構築などにプラスにつながっていると思えました。この記事では、どのあたりがクリエイティブメンバーにとって「あって良かったOKR」なのかをお伝えしていければと思います。

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OKRとは?

(OKRを知っている、導入してるという方は、この章は読み飛ばしてください。)

OKR(Objectives and Key Results)は、組織、チーム、個人の目標設定と管理手法(制度)のひとつです。入社するまで私も知らなかった単語で、調べると「あのGoogleやFacebookも採用してる!」といった触れ込みばかりが目に付き、あんまり印象はよろしくなかった記憶があります。

Googleの「re:work」というサイトで最高に分かりやすくまとめられているので、OKRを体系的に知りたい方はこちらを参照ください。

re:work:OKRを設定する

クリエイティブチームでのOKR運用

re:workのサイトを引用しつつ、1四半期で実際にチームでやっていることをまとめます。

・期始めにやること
組織(メルカリ日本事業)、部門(マーケティング)、チーム(クリエイティブ)、メンバーが、それぞれの単位で「目標(Objective)」を設定し、それぞれの目標に対して「成果指標(Key Results)=この成果を出せたら、目標達成に近づくであろう重要な成果の指標」を設定します。

Googleで目標を設定する際は多くの場合、組織のOKRの設定から着手します。3~5個の目標を立て、それぞれの目標について成果指標を3個ほど設定し、全体としての優先順位を決めます。

メルカリの場合も同様に、期始めに全社的なOKRがまず決まり、大枠の目標や進路が共有されます。その上で、各部門、チーム、メンバーは大枠の目標に目線を合わせつつ、チームやメンバーの成長に欠かせない重要な目標があれば、多少進路は異なっていても、それらも加味して、それぞれOKRの設定に落とし込んでいきます。

【OKRの記入例】
※ 実際のOKRは社外秘にあたるため、カリー屋メルカリーという架空会社のOKRを書いてみました。

カリー屋「メルカリー」 
2020年度 第4Q クッキングユニット メニュー開発担当 稲川の個人OKR

Objective 1:新800円メニュー「シーフードカリー」の成功
Key Result 1(KR1):シーフードカリーを提供する競合店舗を100店舗食べ歩き、ストロングポイントの調査レポートを全社共有する
Key Result 2(KR2):魚介の仕入れ先を新規開拓し、魚介の原価率2割に
Key Result 3(KR3):スパイスと出汁の組合せを毎日1パターン作り、70種以上ストックする

Objective 2:

上記例の様に、KR(Key Results)は、Objcetive(目標)の成功や達成に対して必要と考える「指標」として、なるべく誰が見ても分かる定量的で証明しやすい行動の成果を設定します。

また、書いて提出して終わりではなく、指標と目標の妥当性などマネージャー・役員とディスカッションしながら調整して仕上げます。

・期中にやること
期中は、チームMTGや1on1などで、設定したKRの達成度を取り組んでいるプロジェクトの進捗と紐付けながら、適宜確認します。設定したOKRと進行している実務の方向性に大きな乖離が発生している場合は、KRを軌道修正するなどして、期末に向けてチャレンジを続けます。

・期末にやること
各KRを何%達成し、Objectiveを達成できたかを、自己評価をベースに振り返っていきます。

メルカリのOKRは、人事評価のツールと連携していますが、Googleのre:workの記述によると、

OKR は、実績を評価するためのツールではない。言い換えれば、OKR は個人や組織を包括的に評価する手段ではないということです。

と、されています。

メルカリでも原則は、OKRの達成度そのものを人事の評価対象にはしていません。OKRは、組織やメンバーの大きなチャレンジを効率的に促したり、引き出したりするものであって、評価はOKRから生まれたチャレンジそのものに対して行われます。

前述のOKRを例に取りますと

Key Result 1(KR1):シーフードカリーを出す競合店舗を100店舗食べ歩き、調査レポートを全社共有する

このKRに対して、調査できたのは60店舗だった場合も、100店舗行けなかったから、失敗で人事考課が下がるということではありません。あくまで、評価の対象は60店舗の調査結果の内容と、チャレンジの過程になります。

とはいえ、現実の運用はそこまで明確に区切れるものではないので、OKRの達成度等が評価に連動する側面もあります。むしろ、そうした方がメンバーの評価を高くできたり、結果チャレンジを促せるとなる局面では、積極的に連携していく部分もあります。

【参照】Googleの組織マネジメントをシリコンバレーで聞いた話

OKRとクリエイティブ職の相性は、水と油?

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前章までのとおり、OKRはとてもシンプルな仕組みです。

その分、組織とメンバーの意識が常に伴っていないと実効性がなく、「絵に描いた餅」になります。

テレビゲームのようにリッチな表現と共に与えられるミッションを淡々とこなしていくようなものではなく、人狼ゲームのように役割だけ決め、あとは参加者の会話の腕次第でゲームの面白さが変わるようなもの。全員が面白くしようとしないと、面白く成立しないたぐいのものです。

加えて、どの部署にもフィットする万能ツールというわけでもありません。例えば、新規会員を○○万人獲得、○○○率を○%リフトさせるなど、事業のコアに近いことを担当する部署ほど、KRを定量的な指標で立てやすく、クリエイティブ職のように業務のほとんどが定性的で、一般的にコストセンターに属するチームだと、誰が見てもわかる定量的な指標を文章にするのが相当むずかしい側面があります。

冒頭にも書いた、メンバーの腰が重くなる理由は主にそこです。「言語化できないものを別表現に置き換えてる仕事なのに、それを言語化するのむずくない?」みたいな。

クリエイティブワークをしたことがない人でも分かる定量指標の設定を優先するがあまり、本人的にはモチベーションポイントがずれたまま業務に臨み、大きなチャレンジや自発性が生まれにくい状況になります。

一方で、メンバーのパッションを炸裂させた指標にした場合はチャレンジが生まれるかもしれませんが、チャレンジそのものが事業にかすっているかどうか、社内に理解を得られず、チームやメンバーが社内で孤立することになりかねません。

この辺りのバランスがとてもシビアな上に、そもそも文章を書くのが得意ではない右脳系メンバーは、苦手意識が先行してより悩みます。

「メルカリー」で働く動画クリエイターのOKR(1期3ヶ月分)を例に、説明していきます。

Objective 1(達成したい目標)
シーフードカリーで第一想起されるブランドになる
Key Results案(目標に対して、動画クリエイターが達成すべきと考える指標)
1. シーフードカリーを作る過程のバンパー広告動画を50種制作する
2. 50本分のシーフードカリー動画の企画書を作成し、30本以上の制作準備を完了する
3. A/Bテスト用のクリエイティブを10種作成し、テストを回して勝ち筋クリエイティブ1種以上成立させる
4. 他のカレーブランドの動画クリエイティブを10社分以上リサーチし、自社のブランドウィークポイントをまとめてレポートを共有する
5. YouTubeの自社チャンネルに50万再生以上の動画が5本ある状態にする
6. YouTubeの自社チャンネルの登録数を+2万人増やす。

「定量である」「誰もがわかる」という意識をすると、こういう案が並びます。

まず、お伝えしておくと、3ヶ月で50本などの一見厳しい設定数は

ストレッチ ゴール」と呼ばれる、自身が可能と考える設定値より高い目標を設定することがよくあります。

OKRの特性の一つで、100%達成できそうなゴールを設定しているのではなく、Key Resultsは大きなチャレンジを引き出していくために「頑張れば70%程度」達成できそうな指標を設定しています。

では、クリエイターが掲げる指標として、パッと見どうでしょう?

3ヶ月後これらを達成したとして、シーフードカリーで第一想起のブランドに近づけそうでしょうか。また、クリエイターの大きなチャレンジを促せそうでしょうか。各Key Resultsの良い点/良くない点を確認していきましょう。

Key Results1と2:動画の完パケ本数や企画の「物量」指標パターン

良い点
・(客観的には)シンプルで、チャレンジがパッと見わかりやすい。
・早い、安い、美味いのファストコンテンツクリエイターを目指しているのであれば、この指標がキャリアともマッチしてチャレンジングである。

良くない点
・本数を作れば良いというモノでもないが、示せる分かりやすい単位が「本数」なため、勢いでそうしがちになる。
・(この指標が組織内でスタンダードになると)クオリティにこだわるクリエイターのモチベーションが下がる。クオリティへの優先度が下がる。
・50種がゼロベースなのか、微調整を含めるのか、チャレンジ部分がクリエイター自身のさじ加減なので、意識が問われる。

まとめ
インパクトとスケールが求められる目標にはマッチし、クリエイターではないメンバーが見てわかりやすい易さはシンプルな指標。クリエイターのキャリアアップ観点では、手抜きの発生、クオリティー基準の低下など、本質的でない部分もあるので、長期的にはチームやメンバーの首を絞めかねない達成指標に。

Key Results3と4:定性的な「クオリティ」に相対の評価軸を設けて、定量的に提示しやすい指標に仕上げるパターン

良い点
・定性的な部分の多い「クオリティやセンス」=「広告効果の良し悪し」という評価軸で定義する。A/Bや競合比較で相対性を持たせることで、定量化を試みる。事業観点では馴染みやすい指標。

良くない点
・例えば「カレーの香りが感じられる」「ぬくもり、辛さを感じられる」動画の様な、クリエイターが工夫をこらし演出する本質的な「クオリティ」部分は評価されにくくなる場合がある。

まとめ
「クオリティ」を「効果の良し悪し」という指標で割り切って相対性を出すのは、非クリエイターから見てもわかりやすい指標。

一方で、技巧を凝らした・面白さを求めた・演出がリッチな動画が、必ず効果が高いわけではない。そのため、クリエイターの表現スキルで手間隙かける部分が求められず、チャレンジに対してモチベーションが維持しづらくなるケースもある。これが続くと、メンバーの経験値や感性が偏り、その組織でしか活躍できないクリエイターが爆誕するリスクにつながる。

Key Results5と6:制作物の運用で「再生数」「会員登録数」など、最もベーシックな定量指標を出すパターン

良い点
・お客様(潜在的な顧客)へのリーチ数という、誰が見ても最も分かりやすい指標
・制作するだけではなく、配信運用まで含めて効果にコミットする。クリエイターのキャリア拡張となる大きなチャレンジを促せる。
・実際チャレンジするとなると、広告出稿費の捻出など、他のチームとの連携や折衝が必須となってくる。周りを巻き込める関係性を含めて、このKRをクリエイターから設定できる環境は、チャレンジングで理想的。

良くない点
・個人を計る指標としては制作〜配信運用まで、達成に関わる要素が多いので、達成に対しての個人の貢献度が見えづらい部分はある。評価者のマネジメントスキルが問われる。

まとめ
このようなKRを、クリエイター発信でポンポンチャレンジできる組織は理想だが、その土台を整えるまでが、至難…

以上のように、どの指標も一長一短で「これぞ、クリエイターOKR!」となるオールマイティーな設定が、残念ながらなかなかありません。

(これだ!という目標設定がある方は、ぜひコメントください)

クリエティブチームでは、上記例のような指標を組合せ、クリエイター以外の人が見ても分かる指標もあり、クリエイター自身のチャレンジを促すものもいれつつ、短所が悪目立ちしないようなマイルドに運用しています。私の10回のOKR経験値ベースでは、メルカリのようなサービス事業メインの組織とクリエイターを結びつける設定指標として、OKRとクリエイターの相性は良くないな、数字をかけるチームが羨ましい…と思うことの方が多いです。プロダクション、デザインファームなど、ほぼクリエイターやデザイナーで組成されている組織で運用する分には、まったく違ってくると思いますが。

でも、あって良かったOKR

これまで書いてきたように、クリエイティブチームのOKRは、試行錯誤をいまだに繰り返してたり相性良くないなと思いながら運用している部分があります。

そこで「じゃあ、止めたほうが良いのでは?」とならず、実はメルカリにOKR制度があり、そのカルチャーが社内に浸透している状態そのものが、クリエイティブチームやメンバーにとって良い影響をもたらしてくれています。ここが「あって良かったOKR」の部分です。大きなメリットとして3つ挙げます。

1. OKRをキッカケにしたチームのニーズ開拓
2. メンバーが組織での存在意義とキャリアを意識しやすくなる
3. 3ヶ月ごとの強制リセット

1. OKRをキッカケにしたチームのニーズ開拓/部署間の「壁」を取り払うOKR

メルカリのクリエイティブチームは、2年ちょっと前に、割とノリで集まったクリエイターをベースに構成されています。社内に何となくニーズがありそうだけど、何をやるかが明確に決まってないまま、チームになりました。ほぼ全員異業種からの転職組です。

採用時も「仕事ないかもしれないけど、何とかなるから、来なよ。」みたいな誘い文句で集まったメンバーです(※通常のメルカリの採用は、こんなノリではありません)。

当時の様子の記事

この記事は、2年前に発足した頃のクリエイティブチームの紹介をしていますが、だいぶ浮いている輩加減が見て取れると思います。

周りにクリエイターしかいない前職から、クリエイターが自分達しかいない環境のギャップを、想定以上に感じました。他チームのメンバーも、我々のようなタイプに接点がないメンバーが多いので「彼らはどんな人達で、何をどういう風に相談できるのか?プロダクトデザインの人と何が違うの?」という状況でした。

一歩間違えたらやることなくて、即解散もあり得たこの時期に効いていたのが、OKRカルチャーです。

この時期は、とにかく「会社に必要性を感じられるチームになる」ために、OKRにひたすら「事業 × クリエイティブ」のチャレンジを背伸びして設定し続けました。

OKRカルチャーの浸透しているメルカリでは、もともと部署の垣根を越えたチャレンジが盛んに行われていたこともあり、我々も「クリエイティブチームのOKRに設定したやつ、一緒にやってくれませんか?」「そのOKRにのらせてください。」とOKRをキッカケに、色んなチームと連携してプロジェクトを立ち上げることができました。

実際のプロジェクトを通じ、クリエイティブチームの出せるバリューを理解してもらいつつ、各種ニーズを吸収し、適したロール・ワークフローを構築していくことで、徐々にチームを組織にフィットさせていく、その背中をOKRカルチャーが後押ししてくれました。

これらを1年続け、事業関連だけでなく、採用、IR、リーガルまで、社内のほぼすべての部署と一緒にクリエイティブワークを伴うプロジェクトを遂行し、現在では、チーム発足時とは比べ物にならないほど、大きなチャレンジができるチームになっています。

1年続けてきた後のクリエイティブチームの紹介記事

他社でインハウスのクリエイティブをされている方と情報交換をしていると、通常は明確なミッションやタスクがあって、採用をかけてチームが作られるので、特定の事業や部署の専任になり基本縦割りで他部署の仕事をすることはほぼない…という話をよく聞きます。

一方で我々は「メルカリのインハウスクリエイティブ機能 = 酢豚にパイナップル」「あってもなくても会社は回る」「動かなければ何も生まれず、解散」という状況、社内の無料ドリンク自販機よりニーズが少ない状態からのスタートです。

OKRカルチャーが浸透したメルカリでは、OKRのもとでは平等で、なりふり構わずチャレンジをしていたら、どのチームと壁を作ることなくフラットにプロジェクトを連携できるようになり、クリエイティブのセントラルキッチンのようなポジションを確立できました。OKR、大好き。

2.メンバーが組織での存在意義とキャリアを意識しやすくなる

1.の延長でもありますが、OKRはチームメンバーの組織での足場固めにも効いています。

私は以前プロダクションに勤めていました。業界には基本的にクリエイティブにかかわる人しかいないので、組織ベースでも業界ベースでも「クリエイターのキャリア」が存在します。

例えば、エンドクレジットにも出る映画などはイメージしやすいと思いますが、アシスタントから始まり、3rdの助監督、2nd、1st、演出、監督というキャリア。また、デザイナーも入社何年ぐらいアシスタントして、何年でジュニアになり、何年でミドルどころになり、何年位でシニアにというようなキャリア目安があると思います。

メルカリでは前述の通り、クリエイティブ職は我々のチーム+αしかおらず、加えてメンバー全員専門とする職能が異なります。メンバーが大体「メルカリで1人目の○○」という状況で上も下もおらず、何という肩書を名乗るか、自分が今後どういうポジションになりたいかも自分次第という状況です。

クリエイターのキャリアが確立した世界で「今のあなたのポジションはここです」と決める人がいる環境から、決めてくれる人も周りに比べる人もいない環境に移ると、ノリで生きているメンバーでも、さすがに自分の足元がおぼつかなくなります。

そんな時に効いたのも、OKR。

目標やチャレンジを文字にすることに馴染みのないメンバーでしたが、OKRを設定することで、シンプルにこれにチャレンジするんだというマインドセットがまず働きます。

さらにOKRが浸透している組織においては、OKRのチャレンジを組織で実現していく大きな流れがあるので、自分の設定したOKRにチャレンジするだけで「組織の中で働けてる感」がある程度生まれてきます。これだけでも、足元のおぼつかない不安から解放され、チャレンジに集中しやすくなります。ここまで書くと、信仰や宗教の話をしているみたいですがそう置き換えても、あまり違和感はないかもしれません。

ふと「あれ、何でメルカリで働いてるんだっけ?」「やっぱ、映画とかゲーム作りたいな」などと思う瞬間は今でもあるのですが、3ヶ月スパンのOKRが無かったら、いくら仕事が楽しくても前進感や開拓感を感じにくく、2年待たずにクリエイターのキャリア体系の見える業界に戻っていたのではないかと思っています。OKR、イイね。

3. 3ヶ月ごとの強制リセット

「メルカリって、プロダクトがメルカリだけだし、ぶっちゃけ仕事飽きない?」

と時々聞かれます。

私も入社当時は、そこをとても懸念して、副業推奨のメルカリなので違うことを副業でして、トータルで飽きがこないようにしようとか、色々皮算用してました。

ただ、2年半経った今もまだまだ底の見えないサービスだなと感じ、飽きたと思ったことはありません。OKRカルチャーは、ここにも効いているなと感じます。

私は、前職で短編映画の制作や、ソーシャルゲームの運用などをしていました。

前者と後者、そもそもコンテンツジャンルが違いますが、前者は明確に締切りが決まっていて公開がゴール。チャンスは一回限り。失敗が許されないので、特に撮影は何重にも保険をかけて万全を期して、卒倒しそうになる緊張感で臨みます。完パケたらすべて忘れて1週間位休んでリセット、また新作へのようなループです。

後者はリリース後が本当のスタート。改善点や新機能、イベントを日々アップデートしたり終わりなきグロースの日々です。こちらはリカバーが効くこと多い分、緊張はそこそこですが、運営の続く限り間常に仕事のことがうすーく頭から離れない日々が続きます。

このように、短編映画の制作とソーシャルゲームの運用では、クリエイティブコミットのスタイルがだいぶ異なります。

メルカリはサービスプラットフォームなので、後者の24時間365日営業の性質を持っています。また、自社事業であるため、いつまでに何をやるのかを決めるのは、自分たちしかいません。

もし、何のルールも存在しなかったら、プロダクト規模が大きくになるにつれて組織も大所帯となり、各々がそれぞれの時間感覚で動いて足並みの揃わない状況が生まれて、効率の悪いアップデートが繰り返されたりすることになるでしょう。

クリエイターも使われるのかよくわからないクリエイティブを、延々とこねくり回すような事態が発生し、飽きたり、精神衛生上よろしくないルーティンに陥ったりします。

そこで、OKR。

3ヶ月ごとに全社でOKRが運用されることで、良くも悪くも、全社の時間感覚がキッチリ揃います

メルカリのような24時間365日走り続けるプラットフォームにかかわるメンバーに「リセットタイミング」があるのは、少なくとも私の精神衛生上は良く働きました。

自分の決めたチャレンジを3ヶ月後に成立させていく有言実行の適度なプレッシャーと、失敗しても、また次の3ヶ月でトライできる安心感によるものです。

もちろん、半年や1年かけたほうが効果的な施策もありますし、期を気にせずに長期で続けることに価値のあるチャレンジもたくさんあります。そういうケースも、一度3ヶ月ごとに区切って実現する、振り返るを考えていった方が、人の巻込み方が効率的になったり、段取り力も付いてくるのではないかと思っています。OKR、最高。

まとめ

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ここまで、ニッチな長文にお付き合いいただき、ありがとうございます。

クリエイティブチームとメンバーは、OKRの設定が上手くできるわけではないけど、メルカリがOKRカルチャーが浸透している組織だと理解して仕事に臨むだけでも、レバレッジが効いて色々回しやすくなった、というお話でした。

さらにニッチ感がでますが、ちょうど自粛モードで見返している海外ドラマ「Walking Dead」を例にもうひと押ししてみたいと思います。この作品はゾンビ(ウォーカー)だらけになったアメリカで、何とか生き残る人たちを描いたドラマです。シーズン10も続くロングランで、単純に戦う、逃げるだけでなく、ゾンビというギミックの可能性を広げているのが魅力のひとつです。

ある話で、登場人物がふと気づきます。「なんで、ウォーカーどもは共食いせずに、生き物だけを狙ってくるのか、視覚?聴覚?いや、嗅覚か…じゃあ、ウォーカーの血や皮を身にまとえば、ウォーカーの中でも、気づかれないのでは…」とシャツにウォーカーの血を塗り、無事ピンチを切り抜けます。一方で、銃の威力を過信したり、話を聞かず逃げる人は、大体ウォーカーに食べられてしまいます。

つまり戦うのが苦手、逃げ足が遅くても、ゾンビの集団そのものに関心を持ち、観察して想像力を働かせるだけでも、生存できる可能性は高まる。自分の手駒のことばかり考えたり、ゾンビを得体のしれないもの扱いするほど、生存率が低くなる。

組織やカルチャーはゾンビのように襲っては来ないですが、置かれている状況に観察や想像を巡らせずに、自分の手駒だけで切り抜けようとすると、孤立したり、対処できないことも出てきます。一方で、足りない手駒で1人で無理しようとしなくても、組織に対して、観察や想像を巡らせ、身を任せるだけで上手く流れに乗れる場合もあります。

この記事ではメルカリに浸透する仕組としてOKRをテーマにしましたが、OKRでなくても、どの組織にも、所属する人の多くに浸透している仕組、思考、テーマ、合い言葉のようなものは、何らかあると思います。

ふと、仕事のサイクルが上手く回らないとか、なんだか空回りしているなと感じた時は、組織を客観的に観察し、浸透している要素を抽出してみましょう。その要素に対して、自分がうまく対処できない、興味が持てないものであっても、試しに関心を持って意識してみるだけで、上手く回ることもあるのではないかと思っています。

執筆:misupuri
イラスト作成:tennis
タイトル画像作成: crema
編集: crema / taiyo