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ワークショップはオンライン化できるのか?

一昨日、「大人のための国語セミナー 創造的な対話術」というオンラインワークショップを開催した。結果としては成功だったと言えるだろう。ワーク中の様子やアンケートを見る限り、参加者の満足度は高そうでほっとした。実際にコミュニケーションワークショップをオンライン化してみて気づいたことを記しておく。

ワークショップのオンライン化

「大人のための国語セミナー 創造的な対話術」はコロナ感染拡大のずっと前から企画し、準備してあったもので、もともと対面のワークショップとして組み立てていた。ところが、二月、三月と時がたつにつれて、コロナ感染拡大が次第に世界全体で重大なものとなり、対面式のワークショップを開催するのは難しくなってしまった。

だが、既に参加希望者がたくさんいるし、入金もしていただいている。そこで、Zoomを用いオンライン形式で開催することにしよう、と一緒に企画を進めているaikoさんと相談して決めた。

オンライン化に伴う不安

6~8人程度の小規模でテキストを読んで質疑応答していく勉強会は偶然、少し前からオンラインで始めていたが、20人を超える大人数を小グループに分けて、本格的なワークを行うのは初めての試みだ。正直、どんなふうになるのか見当がつかない。

連日、朝方までaikoさんと打ち合わせをして内容を検討した。急遽、お願いしたアシスタントの皆さんにも、深夜まで6~7時間にわたるワークの実験と打ち合わせに何度もお付き合いいただき試行錯誤を繰り返した。

そうやって何とかなりそうなシステムを組んではみたものの、それでもやはり当日の不安はぬぐえない。最後は「なるようになるさ」と開き直って飛び込んでみるしかない。

実際、本番が始まってしまえば、やるべきことが大量に押し寄せてきて、あっという間に全6時間のオンラインワークショップは終了した。

オンラインでオフラインと同じことをやろうとするのは不毛

技術的には様々な不安があったのだが、何よりも一番気がかりだったのは参加者に「対面のワークショップだと思って申し込んだのに、オンラインになってしまって期待したほどの満足が得られなかった」とがっかりされてしまうことであった。

ぼく自身、対面のワークショップの良さを感じているからこそ、ずっと今まで対面のワークショップをやってきたわけで、オンラインでそれをそのままやることは不可能だろう。

そこで、対面のワークショップをそっくりそのまま再現しようとするのはやめて、オンラインならではのメリットに注目し、そこを最大限引き出す形にした。

Googleスプレッドシートを活用した対話シート

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今回具体的に取り入れてみた工夫は、Googleスプレッドシートによる対話内容の共有である。

Googleドキュメント、スプレッドシート、スライドのシリーズはなかなか使い勝手がいい。複数の人間で同じファイルに同時にアクセスして入力すれば、常にリアルタイム更新される。その機能を最大限に生かしていく。

目の前のPCで開いたスプレッドシートに対話内容を入力していく。リアルタイムで更新されていくスプレッドシートを互いに見つめながら、ものを考えてやり取りをする形になる。

LineのチャットやTwitterのリプライの応酬などに感覚は近い。音声通話を伴う文字チャットのように対話する。

オンラインなら相手の顔は見なくてもいい

目の前に相手がいる普通の対話であれば、相手の顔にある程度視線を向ける。それが社会的な常識、礼儀とされているし、身体的にも習慣化されている。だから、仮に通常の対話で手元にノートPCを開いても、画面への集中は途切れがちになる。

オンラインの場合、目の前に相手はいない。ビデオをオンにしても、画面は小さいし、映像の反応の遅れもある。どんなに頑張ってもオフラインほどの視覚情報は得られない。

だったら、いっそ、相手の顔は見なければいい。「対話相手がカメラの前にいるかどうか」を確認できればそれで十分だ。相手の表情から感情や思考を読み取ろうとする努力はやめてしまって大丈夫。

その代わりに、PC画面上のスプレッドシートに注目する。

そうすることによって、対話の内容自体やそれに関する思考に没入しやすくなる。二人で一枚の将棋の盤面を共有し、それを眺めてじっくりとものを考える棋士のように対話ができる。

このやり方だと、目の前に対話の要点がまとめられて記入されていくので、相手の主張を無理に覚えておく必要もない。脳の記憶容量(ワーキングメモリー)を開放できるため、思考に全部振り分けられる。

シート記入によって相手の主張を正しく聞く

今回は、相手から聞き取った主張を、聞き取った側が記入する形式にした。そのため、相手が何を主張しているのかも自然と注意深く聞くことになる。相手の主張を聞いていなければ、それを正しく記入することもできないからだ。

相手の主張内容にきちんと意識を向けて話を聞けないために、創造的な対話ができなくなっているケースは非常に多い。相手の主張に同意する必要は全くないが、相手の主張を正しく聞き取って認識しておく必要はある。

オンラインで集中力は続くのか?

実際にやってみるまでは、6時間もの長い間、参加者はオンラインで集中力が持つのだろうか?と非常に不安だった。そのため、ワークショップの構成を、説明・デモと参加型ワークが2~30分ごとに交互に来るようにした。飽きがこないようにするためだ。また、50分やったら10分休憩を入れて、集中力の回復時間を細目に作った。

実際、ワークショップ終了後、参加者にその辺の感想を聞いてみた。

「従来の対面型ワークショップよりもかえって疲れなかった」
「部屋の温度調整を自分で自由にやれたり、休憩時間は自室でくつろげたりするので楽だった」
「ワーク用の個別のブレイクアウトルームに入ると、対面と違って周りのグループの声や様子が入ってこないため、ワークに没入できた」
「オンラインワークショップのほうが時間が過ぎるのが早く、1日があっという間だった」

想像以上に良い反応が多く驚いた。

参加者の集中力を保てるようにきちんと計画してワークショップを組み立てれば、わりと大丈夫なようだ。

やはりケチケチせずに休憩時間を毎回10分、ちゃんととったのが大きかった気がする。多分、休憩時間の回復度自体はオフラインよりもオンラインの方が高いのだろう。人目を気にせず、ごろっと寝たりとか自由にできるしね。

「え?もう休憩?もうちょっとワークやりたいな」

そんな風に少し物足りなく思うくらいの頻度で休憩は入れた方がいい。

主催者側は休憩時間もあれやこれやと技術的なトラブル対応などに追われて休んでいる暇はほとんどないのだけど。でもこの休憩時間がないとトラブル対応をする時間すらないので、やはり休憩は細目にたくさんいれましょう。

オンラインワークショップでの学習効果は?

さて、肝心の学習効果の方はどうであっただろうか?オンライン化によって学習効果はどう変わるのか?

「スプレッドシートにメモを取っての対話は、対話内容を振り返りやすく、話しやすかった」
「相手と自分の主張が一致しているよりも、不一致なときの方が逆に興味が持てるという体験をした」
「相手の言葉を反芻するのは、相手に話しやすさを与えるだけでなく、自分に理解を促したり、自分が冷静に話せているかを判断する材料にもなりそうだと感じた」
「互いの主張の一致点、排反点を整理してから議論を始めることで、スムーズに話が進んだ」

参加者アンケートを見る限り、こちらが伝えたい、体験してもらいたいと思ったことをきちんと受け取ってもらえているようだ。

「創造的な対話術」のワークショップは、対面ワークショップの形で数年前にも一度開催している。その時は口頭のみで言葉を交わす方式であった。スプレッドシートを用いた情報共有はしていない。

そのときに比べ、今回は、各班とも、より具体的な内容に踏み込んだ議論が展開されていたように見える。オンライン化に伴い、スプレッドシートを使用したことによって、対話内容、コンテンツをより重視した議論が行われるようになった。これは狙い通りの嬉しい変化である。

ワークショップ会場への往復がないのは最高

あと、なんだかんだ、全員が自宅からアクセスできるのはやっぱり素晴らしい。地方の人も交通費や宿泊費がいらないし。ワークショップが終わった後、会場から家まで電車に乗って帰らなくていいのは本当に楽。

ぼくはワークショップ後の参加者さんと「ウェブ懇親会」という名の単なるZoom飲み会をやったあと、疲れ果ててすぐに隣の部屋に敷いてある布団で爆睡した。終わって15秒後には布団に入れる。最高。

オンラインワークショップの良さに気づいた

オンラインでもワークショップはやりよう次第によっては十分なんとかなるし、かえってオンラインでやった方がいい結果が得られるタイプのものも多くありそうだ。ちょっとした勉強会や読書会とかはオンラインの方が手軽でやりやすいはずだ。

ぼくも今まではオンラインワークショップってとてもハードルが高く感じていたのだけど、オンラインだからこその良さにも気づいた。今後、めんたね、メディカル・ダイアローグ、今すぐやる会などもオンライン化できそうなものは積極的にオンライン化していくつもりだ。

そして、コロナ問題が終息する頃までには、オンラインとオフライン、ワークショップ参加者がどちらでも好きな形式を選べるように間口を広げていきたい。コロナが終息してもオンラインの良さは変わらずにあるわけだからね。





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