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「隠れADHD」の苦悩、注意すべきは二次障害。【書評】精神科医が伝えたい「発達障がい」でもだいじょうぶ! 端谷 毅

以前の職場では「あの人、発達障害らしいよ」「へ~、やっぱ病気なんだ」という会話が交わされていた。しかし、「あいつ、発達障害なんだって!」と言いふらしている人のほうが、よほど発達障害の傾向を見せていたりするのだ。「君、あんまり変わらないよ」と言いたいと思っていた。

発達障害には根深い偏見?がある。スペクトラムと言われるように、発達障害と「普通」は陸続きなのだから、「発達障害=病気」という構図は変えなければならない。

著者は精神科医で、自らもADHD・ASDの傾向を持つという。特にADHDの特性は顕著で、物忘れや不注意による事故などの多さは「本物」であることを確信させる。そのため、発達障害に対する目線は徹頭徹尾、優しいものだ。発達障害に関して理解のある人と一緒にいられるというのは心地よいものだ。責めることなく、話を聞いてくれて「君は、そのままで大丈夫だよ。」と言ってもらったような読後感があった。

「隠れADHD」の苦悩

ASD(いわゆるアスペルガー)とADHDは厳密に区別できるものではない。ADHDでもASDの傾向を持っていることがあるからだ。しかし、どちらかといえば、ASDは目立ちやすい。対人関係がうまく行かないことが多く、問題が表面化するのだ。

しかし、ADHDの場合は、自分が「できないこと」が多いだけでコミュニケーションがうまくできれば「だらしないやつ」「仕事のできないやつ」レベルでとどまることが多いので、なかなか精神科領域に表れることは少ない。彼らがADHDだと気づくのも、多くは二次障害としてのうつ病などを患って精神科を受診した後なのだという。

「周囲は、それが先天的な発達障がい(発達の偏り)のせいとは考えず、本人の性格が悪いからとか、努力が足りないからとか、親が悪いんだ、というような見方につながります。親や先生など育てる立場にある人たちは、本人を社会(家庭や学校)に適応させようと必死になり、いろいろと威圧的な手段を取ろうとします。常に「お前はノーだ!」と言い続けられる」

まさに、これは「隠れADHD」の発達そのもの。自分自身でも、他者からも絶えず「ノー」を突きつけられる。交流分析のOK牧場の概念で言えば、ImOKの領域にはいつまでもいけないのだ。私自身、思春期からずっと続く慢性的なうつ症状も、実はADHDによる社会との不適合の可能性が高いと思えた。もっと早くそのことが分かっていると、気持ちが楽だったかもしれない。変えられないものは変えられないと割り切ることができるからだ。

もともと、ADHDというラベルを自分に貼り付けることは、あまり好きではないけれど、周りの理解が得やすいという意味では、子供への発達障害の診断は行ったほうが良いのかもしれないとも考えるようになってきた。

発達障害の「強み」

ADHDとASDを比べると圧倒的に、ASDのほうが「強み」が出やすいようだ。ASDの「困りごと」を強みに転換した例が取り上げられていて興味深く読んだ。

「アスペルガーの人たちの将来を考えるときに一つ手がかりになるのが、「困っていること」です。その能力がエキセントリックに優れているから、一般の人たちとは相いれずトラブルになる、ということも少なくありません。匂いに敏感すぎるなら、逆手に取って、それを長所として活かせるところはないかと考えるわけです。」

嗅覚過敏に悩むM君には、香水販売の仕事を斡旋したという。確かに困っていること(弱み)は逆に返すと「強み」になりうる(可能性がある)。まあ、ADHDなんか、注意が散って集中できないだけなので問題児という扱いしかされないけれど。アイデアが豊富とか、衝動性ゆえの行動力とか、使える面が多少はあるかもしれない。

もっとも、発達障害の人が、自分で自分の「困りごと」を「強み」に転換するのは不可能に近いだろう。そういう目で発達障害の特性を活かそうとする親や教育者に恵まれるかどうかがカギになりそうだ。

ADHDの脳に効果?フェルラ酸成分

認知症治療(予防)のためのフェルラ酸が、ADHDの脳にも好影響を与えることが分かってきたという報告があげられていた。

「米ぬか脳活性食」に含まれる米ぬか成分・フェルラ酸には、脳の再生・成長をうながす作用が確かめられており、認知症に対してさまざまな効果が発表されています。今回の研究では、それがADHDやアスペルガーの症状に対しても好転する可能性があることがわかりました。症状を抑えることによって少しでも社会適応が楽になることは、「生きにくい」発達障がいの人たちにも、また周囲の人たちにも、喜ばしいことです。

フェルラ酸に関しては、ほとんど聞いたことがなかったが、いくつかの製品を調べてみると、やはり認知症予防で使われているサプリのようだ。ADHDへの効果のほどは、ネット上にもほとんど情報はない模様。

少し調べてみて人体実験してみようかしら。すでにサプリには抵抗がなくなっているし。

ありのままの自分でいい

発達障害の問題は、二次障害(うつ病や適応障害)にあることが、痛いほどわかった。自分の経験も照らしてみる時に、文字通り痛い気分だった。どうしても不適合な自分を何とかしよう、何とかしようと駆り立ててきた日々を思う。適合しようとする、その努力がストレスを生んできたのだ。

「ありのままの自分を理解して、その身の丈に合った人生を考えるのが一番です。ストレスを感じたときに、それを乗り越えようと無理をすれば、それ以上のストレスに見舞われるのがアスペルガーやADHDの人たちと言えるでしょう。」

努力しないわけではない。でも、変えられないものを変えようとはしない。この本の最後の言葉は「がんばらなくても、ぜんぜんかまわないのです」というものだった。いつの日か、私も自分にOKを出してあげられる時が来るかもしれない。そんな風にちょっとだけ思えたのが収穫だった。

表紙と体裁が異なるけれど、この本と同じみたい。レビューが総じて良いものだ。温かい発達障害支援本の一冊としておすすめできそう。


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読書感想文

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq