見出し画像

雇用主が女性のメンタルヘルスをサポートすべき5つの理由

一昔前までは「男性は外で働き女性は家を守る」という考え方が典型的でした。
働いてお金を稼ぐのは男性で、家事や育児などをするのは女性というのが世間一般的だったのに対して、時代が変わるにつれてその役割の決まりがなくなりつつあり、近年では女性の社会進出が様々な分野で進んでいます。

実際、1898年と2015年を比べた女性の社会進出に関する内閣府のデータによると、その約30年間で部長・課長・係長級ともに女性管理職の数は増加しています。
また男女共同参画局によると、上場企業における女性役員の割合も2012年の1,6%→2019年では5,2%に増えています。
欧米など世界に比べるとまだまだ女性の社会進出は少ないといわれる日本ですが、確実に男女の差というのはなくなっています。

ただ女性が働きやすい環境、社会になったことで彼女らの選択肢が増え、企業として、雇用主として女性故の健康課題についてしっかり耳を傾ける必要があります。
そこで今回は、雇用主が女性のメンタルヘルスをサポートすべき具体的な理由について解説します。

女性は男性の2倍、うつになりやすい

女性は男性の2倍程度、うつ病になりやすい。うつ病が女性に多いことは、世界的な傾向である。男女差の原因としては、思春期における女性ホルモンの増加、妊娠・出産など女性に特有の危険因子や男女の社会的役割の格差などが考えられている。また、うつ病は一般には若年層に高頻度にみられるが、うつ病の経験者は若年層と中高年層の2つの年齢層に多く、中高年層にも心理的な負担がかかっている可能性がある。

厚生労働省(2004)『うつ対策推進方策マニュアル

社会人として働くにはそれなりのプレッシャーがあります。
特にメンタルへの影響が大きく、それ故にうつを発症してしまうことも考えられます。
女性は男性の2倍うつになりやすいとされており、これは女性ホルモンの増加や妊娠・出産などによるライフスタイルの変化の多さなどにより大きなストレスがかかり、うつを発症してしまいます。
うつの原因になるであろうとされる神経伝達物質のセロトニンやノンアドレナリンなどが女性の場合は生理現象により、特に減少しやすくなり、うつを引き起こしやすくなっているのです。

うつになると何も手がつけられないほど落ち込むだけでなく、何となく気分が上がらない、いつもより疲れやすい、集中力が低下したなど日頃のちょっとした体の変化にも現れます。
その小さなサインを見逃さないことがうつの悪化を防ぐために重要になります。

月経随伴症状による労働損失は4911億円

例えば、女性特有の月経随伴症状による労働損失は4,911億円と試算されている。健康経営を通じて女性の健康課題に対応し、女性が働きやすい社会環境の整備を進めることが、生産性向上や企業業績向上に結びつくと考えられる。

経済産業省ヘルスケア産業課(2019)『健康経営における女性の健康の取り組みについて

生理があるたびに襲ってくる痛みや吐き気、めまいなどのいろんな症状を「月経随伴症状」と呼び、これに悩まされる女性は少なくありません。
その症状の程度というのは個人差があり、デスクに座っていることでさえ辛くなるような症状が重い女性もいます。

多くの女性が社会に進出するということは、この月経随伴症状についてもしっかり考える必要があります。
本人が辛いのはもちろんのこと、引用部分にもあるように月経随伴症状によって大きな労働損失があり、さらに医薬品や通院にかかる費用などを加えると社会的経済損失は約7000億円にも及ぶとされています。
雇用主としては、無理をしないで休める環境作り、休み希望を躊躇なく伝えることができる環境を整えることが女性の社会進出の助けにもなるでしょう。

働く母親は父親に比べて、バーンアウトを発症する確率が高い

アメリカではパンデミック以降、235万人の働く母親が「家庭と仕事の不平等な両立」を原因にバーンアウトに悩んでいると推測しています。

MAVEN(2020), "Parents at the Best Workplaces"より当社翻訳

あなたは「バーンアウト」という言葉を聞いたことはありますか?
これは「燃え尽き症候群」という意味で、今まで熱心に仕事をしていた人が急にやる気を失うことです。

バーンアウトの具体的な症状としては、3つあります。

①情緒的消耗感
仕事相手と信頼関係を築くため誠実で思いやりのある対応を心がけると、情緒エネルギーが使われます。それが消耗することで疲弊感を感じるようになります。

②脱人格化
情緒的なエネルギーがなくなると、それ以上消耗をしないために人間は脱人格化という防衛を行い、相手の人格を無視したり冷たい対応などを取るようになります。

③個人的達成感の低下
これは上記の2つにより提供するサービスの質が低下し、それにより達成感や成果が得られなくなり仕事へのやる気ややりがいなどが低下してしまうことです。その結果、仕事を辞職したり休職することにつながります。


バーンアウトは、特に医療従事者や介護、接客など人と直接的にコミュニケーションをする職業でなりやすいといわれていましたが、最近ではどの職種でもバーンアウトを発症する人が増えています。
実際、今日WHO(世界保健機関)でもバーンアウトについては問題視されており、それは個人だけの問題ではなく組織としての責任という見方もあります。
そのため、雇用主としては従業員に対して、職場での不当な扱いやコミュニケーション不足、過大な業務量などバーンアウトを誘発する原因を一つ一つ解決していく必要があります。

危惧される女性管理職の健康状態

パンデミックによる影響で、労働時間の短縮や離職を検討せざるを得なくなってしまった女性のうち、「母親、管理職、黒人」という
3つのグループが調査において明確な課題を報告しています。
(中略)
特にバーンアウト(燃え尽き症候群)を起こしやすい割合は、男性管理職が28%なのに対し、女性管理職は39%と高い割合になっています。

Liz Hilton Segel and Kana Enomoto(2021)『5 Ways Employers Can Support Women’s Mental Health』Harvard Business Reviewより当社翻訳

女性の社会進出により、企業側も彼女たちを積極的にサポートし、管理職へ登用しようとする動きも活発になっています。
しかし、より負担やストレスの多い管理職に就く女性の健康状態には不安要素があり、希望していた職であっても結果的に辛い思いをすることは少なくありません。
実際、アメリカの調査レポートでは、新型コロナの到来により労働時間を減らしたり離職しなければいけなくなった女性は、「母親・管理職・黒人」のグループに多いとされています。
特に管理職はメンタルヘルスへの影響が大きく、女性全体へのサポートはもちろん、女性管理職のケアも深く考えていかなければなりません。

コロナ以降、世界的に女性のメンタルヘルスが危惧されている

2019年12月初旬、新型コロナウイルスの感染がはじめて報告されました。
緊急事態宣言やまん延防止措置等で、政府からの呼びかけが連日行われるようになり、当たり前だった日常から大きく状況が一変しました。
そのため、戸惑いや不安、ストレスを抱えている人が急激に増加しました。ましてや、医療に携わる仕事や業務上多くの人と接する仕事に従事する人であれば、その心理的負担は計り知れません。

女性のメンタルヘルスに対するサポートは、世界保健機関(WHO)や国際連合の提言においても、その必要性が明確に示されています。

ポリシーブリーフ(政策提言)では、特に新型コロナウィルスが女性に与える影響と、その対策をただちに講じるべきだと述べられています。

国連(2020)『Policy Brief: COVID-19 and the Need for Action on Mental Health』より当社翻訳

コロナ禍による、うつ病や不安症状の増加に伴い、さらに危機回避が重要であるとされているのは女性です。その中でも特にテレワークと家事を両立している人、高齢者、そしてすでにメンタル不調を抱えている人たちとされています。

WHO(2020)『Substantial investment needed to avert mental health crisis』より当社翻訳

男女平等の流れが強まる中でも、実際は家庭で家事をしたり子育てをするのは女性の方が多く、家事や子育てなど全てを含めると一日の仕事量は男性と比較することは難しいのではないでしょうか。
また昨今のコロナ禍の影響で、テレワークを推奨している企業も多く、その場合は仕事をしながら家事や子育てをしなければならないという現状があります。


今回は、雇用主が女性のメンタルヘルスをサポートすべき理由について解説しました。
仕事と家事などの大きな負担、管理職など職種による難しさなど、これまで以上に女性への理解が求められるようになります。
女性へのサポートができない企業は、企業として利益が減り効率性も落ち、今後の社会の流れからは取り残されることになりそうです。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?