見出し画像

怪獣の往く

憂鬱そうな杜の中に
迷い込むドッペルゲンガー
相対性がここにもある
二度と会えない特異点
離したくない消失点
輝く満月を撃ち抜いて
砕けた欠片が海辺の街に降る
降り注ぐ隕石を目指して
憂鬱の杜を抜ける
そこは磯と野原の間
村は太平洋に面している
村は大北川の北岸にある
海陸風は夜になって
巨大な怪獣になり
山を下り海へ向かう
家々の前をそっと通り過ぎ
息遣いだけを残して
麓を抜けて海へ向かう
ツグミが口笛を吹き
砕けた満月は満天の星空と化す
黒髪が猫耳をたて
零と壱の海をパトロールする
窓の向こうに
桃色のウサギを見た
隕石の輝きの導くままに
潮の香りに引き寄せられ
杜を抜け山を下りる

その夜の君が聞いた息遣いは
まさしく怪獣となった俺のものだ
海岸に辿り着いた怪獣は
海の水にその一歩を浸すやいなや
さっと
風化して搔き消えた
陽が昇り風はあたたまり
怪獣は季節風となって山に帰る
そして夜にはまた
息遣いだけを残しつつ
君の家の前を通り海へ往く
君だけが気付く怪獣となって
繰り返し繰り返し海へ往く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?