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業務スーパーの一人勝ちが濃厚なワケ

どうも、荻窪に住むネコです。

大手小売で新規事業開発や構造改革プロジェクトなど経営回りの泥臭い仕事をやってます。実体験から学んだことを発信したいと思います。1つでも世の中の為になったら幸いです。

企業買収や投資業務に携わっている関係でIR見るのも趣味なので、今回は企業分析から経営手法を学びたいと思います。

その企業の重要な経営メッセージは、有価証券報告書、決算説明会資料、月次IRなどで読み解くことが可能です。そして、競合他社との比較によって、そのビジネスモデルの優位性や弱点も明らかになってきます。
そうした事業を視る目を養うことで、経営者としての正しい判断ができるようになると信じています。
この記事が皆さんにとって経営視点で考えるきっかけとなれば幸いです。

 今回は、業務スーパーを展開する神戸物産からアンバンドリングとスケールメリットという経営手法を学んでいきたいと思います。

 この時点で言葉の意味が理解できなくても大丈夫です。最後まで読めばすべて分かりますので、さっそく見ていきましょう。

 神戸物産は、売上の約9割が業務スーパー事業で構成されており、その他には外食事業、中食事業、再生エネルギー事業を展開する食品スーパーという業種に属する企業です。
ここでは業務スーパー事業にフォーカスして話を進めます。


神戸物産の競争優位性の鍵は「製販一体体制」

 食品スーパーのビジネスモデルは、消費者が商品を購入した売上から商品原価や店舗運営及び物流コストを差し引いて利益が残るというシンプルな構造です。
 関連プレーヤーは、店舗を運営する小売業者、食品を供給する生産メーカー、在庫管理を含む物流システムを提供するシステムベンダーが代表的です。
 そんな中、神戸物産は「製販一体体制」を経営戦略のキーワードとして謳っています。
製販一体とは、食品製造から販売までを一気通貫で運営するということです。
業務スーパーに行ってみると業務スーパーでしか見られない商品が並んでいます。通常の食品スーパーでは、大手食品メーカーの商品が陳列され、例えば牛乳や納豆だけでも10ブランド以上も展開されていたりします。
一方、業務スーパーでは、自社工場で製造されたプライベートブランドが販売されており、1カテゴリー1種類の展開というのも珍しくありません。これが製販一体体制の概要です。


アンバンドリングによるリスクマネジメント

 しかしながら、神戸物産の製販一体というのはとても興味深い構造をしています。
IR資料を見ると、業務スーパーはフランチャイズ店舗だと書かれています。
つまり、神戸物産が直営しているわけではなく、店舗を所有するフランチャイズオーナーが運営し、神戸物産はそのオーナーに対して自社商品を卸売しているということです。分かりやすくいうと、ビジネスモデルはコンビニエンスストアと同じです。
これは「所有と運営の分離」というアンバンドリングと呼ばれる経営手法です。土地建物は別にオーナーが居て、神戸物産は商品供給と店舗の運営をサポートするという分業体制のことを言います。
 他業種では、星野リゾートが同じ経営手法を取っていて、ホテル自体の所有権は持たずに「星野」というブランドと効率的なホテル運営システムを提供することで付加価値を生み出しています。
 アンバンドリングのメリットは固定費の圧縮にあります。店舗を保有するとなれば、土地や建物の購入と維持コストがかかりますし、水光熱や従業員の運営コストもかかります。これはほぼ固定費になりますから、例えば、台風や地震、食中毒によって売上が落ちても削減することが難しい費用となります。(非正規雇用などでいくらか変動費化は可能です。)そうした固定費を圧縮することで身軽な財務基盤を構築でき、市場変動にも対応できるようになります。


店舗運営支援の付加価値を測る経営指標

 アンバンドリング経営は、フランチャイズオーナーに対しての支援を付加価値として評価することになります。
どれだけ価値提供できているかを示す経営指標を月次IR資料から読み取ることができます。

①新規出店数
②退店数
③出荷実績


①新規出店数
 新規にフランチャイズ契約をするオーナーが増えるということは、既存店の業績が良いからに他なりません。

②退店数
 既存店オーナーの神戸物産への評価になります。神戸物産も自信があるからこそこの数字を公表しているのでしょう。

③出荷実績
 的確な需給予測や顧客ニーズにあった商品展開できていれば、自ずと売上が伸びますので、成果はこの数値に表れてきます。

このようなKPIをマーケットに開示しているということは、アンバンドリング手法が有効かどうかを評価する指標を経営陣がよく理解しているのでしょう。


オリジナル商品によるスケールメリット

 続いてIR資料には、オリジナル商品に力を入れていると書かれています。神戸物産は業務スーパーのプライベートブランドを自社工場や国内外の提携工場で製造しているようです。
つまり、オーナーへの卸売量が増えるほど生産量も増えて製造原価が下がってきます。このように規模(スケール)が拡大すると経営効率も上がっていくことをスケールメリットと呼びます。
他業種では、ビームスユナイテッドアローズなどのセレクトショップが同じ戦略を取っていて、オリジナル商品の取り扱いを増やして粗利率を高めようとしています。もちろんデメリットもあって、製造設備や商品在庫などの資産を自社で抱えるため商品が売れないと減損をせざるを得えず、収益性が悪化してしまうこともあります。

スケールメリットを最大化するオリジナル商品の付加価値を測る経営指標

 ここは素直にオリジナル商品の販売量、つまりお客さまからにどれだけ支持いただいているか?で付加価値を評価することになります。スケールメリットが出るかどうかを示す経営指標を月次IR資料から読み取ることができます。

①P.B比率
②売上総利益


(出荷実績も評価指標ですが、前出のため割愛します。)

①P.B比率
 売上に占めるオリジナル商品の比率が上がるということは消費者の購入に占める比率が上がっているということですから、ここは非常に重要な指標になるでしょう。

②売上総利益
 オリジナル商品は高差益で卸売が可能ですから、素直に粗利率が向上します。P.B比率が上がっているのに売上総利益率が上がっていない場合は、オリジナル商品が何かしらの理由で魅力的ではないものになっているのでしょう。
ただし、ここで注意したいのは、神戸物産の場合、オリジナル商品を製造する自社工場へ投資をしていますから、減価償却費も合わせてみる必要があります。この設備投資によって計上される減価償却費も売上原価で計上してくれるとわかりやすいのですが、財務諸表を見るとどうやら販管費計上になっているので、設備投資額以上にオリジナル商品が収益をあげているかどうかが見えづらい状態です。
オリジナル商品によってスケールメリットを実現できるかどうかは、売上が拡大するとともに製造原価も下がり、その結果売上差益率(粗利率)が向上するという連鎖が作用しているかどうかが重要になるということです。

 いかがでしたでしょうか。
アンバンドリングとスケールメリットという経営手法について理解できましたか?
大切なことは、皆さんの事業環境に置き換えた時に「この手法が作用するかどうか」をマクロとミクロの視点で考えるということです。

 これはあくまでも手法論です。誤った使い方をすると効果を得られないばかりか財務基盤を悪化させてしまう恐れもあります。
とはいえ、経営手法というのは、あらゆる業界で汎用的に活用できる優れものですから、本質的に学ぶことでビジネスマンとしての市場価値が上がるのは間違えないでしょう。

読者の反応が良ければ、また別の企業で経営手法を取り上げたいと思います。

また、今回は理解編でしたが、これを実践する際に必要なテクニックをまとめた実践編も書いてみようと思います。

それでは、また。

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vol.6

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