あちらを立てればこちらが立たない
小ぶりの黒猫がやって来て庭で遊ぶようになった。
気持ちよさそうに日向ぼっこをしたり、つくばいの水を飲んだり、
サツキの小枝にじゃれついてネコパンチ。
脅かさないようにそっとガラス越しに見て楽しんでいた。
家内はどこで聞きつけてきたのか、
黒猫が居着くとその家の運気が上がると喜んだ。
黒猫が前を横切ると不吉という説が過ぎったが
口にするとそうなる気がして黙って家内の説に従った。
桜が咲き始めると毎年シジュウカラの夫婦がやって来て
石灯籠の中で産卵、子育て、巣立ちのドラマを見せてくれる。
今年も来てくれて巣作りが始まった。
忙しく夫婦は小枝を咥えては、
灯籠の穴から出たり入ったりしている。
ひと月もするとヒナが孵り、チッチッチと鳴き声が聞こえる。
こうなると親たちは、更に忙しく虫を咥えてヒナたちに与える。
姿は見えないが、声が段々と大きくなってくるので成長がわかる。
巣立ちの瞬間を写真で撮りたくてカメラを構える毎日になる。
そんなある日、あの黒猫が灯籠の穴を見上げて、
あろう事か飛びつく仕草をした。
家内は、それだけは止めてと悲鳴を上げた。
こりゃ困ったと思案して、ホームセンターに走り、
トゲトゲのシートを買って来て灯籠の下に敷き詰めた。
すると、黒猫はピタッと姿を見せなくなった。
シジュウカラのファミリーは無事に巣立って行った。
あの黒猫はトゲトゲを踏んで怒っちゃったのかなあと
家内は寂しそうにしている。
あちらを立てればこちらが立たない、世の常ということか。