車を持っていた話
意外と思われるかもしれないが、20代前半の頃の僕は自分の車を持っていた。3、4年ほど乗っていたのだが芸人を始めてからは乗らなくなったので廃車にして今は無い。
車種はトヨタのプラッツ。色はシルバー。死んだお爺ちゃんが乗っていたのを僕が譲り受けることになった。車内はどことなく昔ながらの床屋のような匂いが良い意味で漂っていた。
僕は男なら誰でも持っている「カッコいい車に乗りたい」という感覚を持ち合わせていなかった。乗れればいいだろ位の感じで、乗っている車=男のステータスという風潮には関心が無かった。こういう部分が今現在のボロ家生活に繋がっているのかも知れない。
そんな僕はある日、車を電柱にぶつけた。助手席のドアがベコベコに凹んでしまった。
ベコベコな助手席は外側から開けることが出来なくなり、内側から開けてあげなければいけなかった。そこに関しては幾何不便だなとは思ったが、「走れればいいか」と思った僕は修理もせずベコベコのまま走り続けた。
当時お付き合いしている女性もいて、頻繁にドライブしたり車で旅行に行ったりしていたが、今思えばだいぶ恥ずかしい思いをさせていたと思う。
そんな僕の車は駐車場に止めていると
「廃車にしませんか?」という失礼な紙がワイパーの隙間に挟まれていた。僕にとっては自慢の愛車だが他人から見たらスクラップだったのだろう。
20歳の時、仲の良かったメンバーで日帰り旅行に行くことになった。どこに行ったのかがなぜか思い出せないのだが、男4人の女4人だったのは覚えている。車を持っていたのは僕ともう1人の男だけだったので、その2台でみんなを乗せることに。
もう1人は相当な車好きだった。一番好きなマンガは「シャコタン☆ブギ」という奴だった。「シャコタン☆ブギ」の名シーンを事ある毎に熱弁してくるのだが最後まで読む気は起きなかった。
そいつの車はトヨタのチェイサーだった。色はホワイト。渋くてイカしていた。
集合場所のコンビニの駐車場にイカしたチェイサーと僕のベコベコのプラッツが止まった。運転をしない皆はそれぞれ車に乗り込んだ。
女の子はみんなチェイサーに乗った。
このバランスが自然だと思うのだが、女の子4人はチェイサーを選んだ。チェイサーは少しギュウギュウになっていて狭そうだった。それでも女の子たちはチェイサーから決して降りなかった。
この時、僕は初めて
「車って乗れれば良い訳じゃないんだなあ」
と学んだ。
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