ザーサイはキラリと
少し前のこと、ライブ終わりの午後11時頃か、
たぬきごはん宍倉さんと他数人で中華一番館でザーサイをつつきながらお酒を飲んでいた。
宍倉さんは松竹芸能でも屈指の、兎に角優しい方。「仏の宍倉」の異名を持ちいつも場を楽しくしながら美味しいお酒を飲ませてくれる。
現在41歳で僕とは干支がちょうど1周違うという縁もあり、
僕は3年ほど前から「宍倉の右腕」というポジションに恐れ多くも置かせていただいている。
男気も持ち合わせ僕がピンチの時は宍倉さんが何とかしてくれるという安心感が常にあるのだ。
その日も宍倉さんの楽しい話を聞いて気持ちの良い夜を過ごしていた。
宍倉さんの話に熱が籠もりだした。右腕だからこそ分かる、話が終盤に差し掛かった合図だ。僕は宍倉さんの話をつまみに中華一番館のハイボールを喉に流し込んだ。
その時。
喉がキュッと締まる感覚。
ハイボールが気管に入ってしまった。
まずい。
皆さん知っての通り、人間の体というのは気管に飲み物が入った場合、咳き込む以外の行動を取ることが出来ないようになっている。
このままだと僕の咳が宍倉さんの話の最後にぶつかる。右腕だからこそ、宍倉さんの普段の話の尺から逆算出来る。ちょうどぶつかる。みんなが宍倉さんの話に耳を傾けている。そのフィナーレを待ち望んでいる。そこで僕が咳込んだらどうなるだろう。この楽しい会を台無しにしてしまうぐらい気まずい空気になる。どうしたら。
パニックになった。なぜなら僕はその場を気まずい空気にしてしまうことが大嫌いな人間だからだ。
例えば、僕が人気番組に出演できたりすると
「良かったなあ。あんないい番組に息子が出てたら、実家のお母ちゃんも喜んでたやろ!」
と毎回、優しく話しかけてくれる先輩がいる。
僕も「はい!喜んでました!」と返すのだが
僕の母親は3年前に亡くなっている。ただその事実を言うとその先輩は申し訳なく思うだろうしその場は気まずい空気になってしまう。前回のnoteでも記した姑息な嘘を使うのだ。お母さんごめんなさい。
そんな、気まずい空気を作らない為なら親すら蘇生させる僕だが、今回は人体構造上、僕がどんなに姑息だろうがどうしようも出来ない
僕は必死に抵抗したが喉の奥から「コフ…コフ…」と咳が漏れてきている。
宍倉さんの感情が最高潮に高まる。
フィナーレが近いことを告げる合図。
それは僕の我慢の限界も告げる合図でもある。
「もうダメだ…」と思った
その時、
感情が高ぶった宍倉さんの口から小さな食べカスが飛び出し、テーブルに落ちた。
全員が瞬間、その食べカスに視線が行き、すぐに戻した。
ちょっと気まずい空気になった。
「お口が緩くてごめんなさいね」
宍倉さんは恥ずかしそうに言った。
僕が作るはずだった気まずい空気を宍倉さんは肩代わりしてくれたのだ。
いつでも優しい宍倉さんは僕のピンチをやはり今回も救ってくれたのだ。
僕は宍倉さんに感謝し、存分に咳き込んだ。
テーブルの上の、恐らくザーサイの食べカスはキラリと光っていた。
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