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#詩
その傷と静かに暮らす。
男の子と女の子が
夜の町を歩いていた。
沈丁花の薫りがするから
遠回りしよう
男の子が言った。
海の近くの町だったから
春の海のほのかな薫りと
沈丁花の薫りが混ざりあった。
男の子はそれが一生の
傷になるとは思わなかった。
そしてその傷と静かに
暮らせるようになるとも
思わなかった。
なぜ花を植えるのか。
きつねは思った。
おれはひとがなぜ花を植えるか
知っている。
喪失を埋め合わせようと
しているからだ。
喪失から花が咲く。
創造や気づきや出会いが
生まれる。
それで埋まるわけじゃない。
つらさが消えるわけじゃない。
問題が解決するわけじゃない。
でもその花は
冷たい朝陽に輝いている。
失っても、こころが忘れても、身体に残っている。
子ぐまが訊いた。
なにも残らない。
生きることは悲しいこと?
クマが答えた。
そうだね。
ただね、近しいひとが
花を飾っていたこと、旅先の朝の匂い。
美しいもの。
きみの身体に残っている。
それが、ふとした時に
仕草に、習慣に、言葉に出てしまう。
生きることは
悲しくて素敵なことさ。
うさぎの耳に誓って。
きつねは今日も誓った。
ドジなので
今日もすこしでもドジを
防ぎます。
丁寧に冷静にわかってもらえる
努力をします。
力みすぎずときどき深呼吸します。
ひとのきもちを大事にします。
長い目でみて
自分を大事にします。
うさぎの耳に誓って。