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2021年3月の記事一覧

記憶や自然に戻るように。

記憶や自然に戻るように。

クマが子ぐまに言った。
ぼくのうたは遠いなにかの記憶で
朝の鳥のうたで夜のさざ波さ。
ぼくは季節を繰り返す自然の中で
芽吹き、くちてゆくちいさな
木の葉さ。
だからぼくの自意識や恥なんて
どうでもいい。
空気なんて読まずに
記憶や自然にもどるように
好きなようにうたおうと
思うんだ。

至らないことより、好きなものの話を聞かせて。

至らないことより、好きなものの話を聞かせて。

うさぎの男の子は
自分の至らないところに
落ち込んだ。

うさぎの女の子が言った。
あなたのかばんを開けてみて。

かばんの中では庭が広がり
ねこが眠りパン屋さんが
パンを焼いていた。

女の子が言った。
中身は無傷ね。
わたしには
至らないことより
あなたが好きなものの話を聞かせて。

ゼロのきみが居心地いい。

ゼロのきみが居心地いい。

うさぎの男の子が言った。
ぼくはやっぱりきれいごとで
メッキで価値がなくて
ゼロなんだ。。

うさぎの女の子が言った。
ゼロのきみが
あたしは居心地いいんだけど。

それで、あなたの言ってる
価値ってこの貧相な
世間様の価値でしょ。
あたしの価値じゃないわ。

聞いたことのない言葉の賛美歌。

聞いたことのない言葉の賛美歌。

きれいごと
ばかりではないな。

きつねは
雨の日のバスの中で
思った。

バスは
だれも乗っておらず、
どこにも停まらなかった。

バスは
やがて丘陵をのぼりはじめた。
すこしひんやりしてきた。

ちいさな蒼い花で
気持ちが染まり
聞いたことのないことばの
賛美歌が、
丘の上から聞こえてきた。

幸運に感謝せず、普通のことを悲しがる。

幸運に感謝せず、普通のことを悲しがる。

きつねは祈った。

感性が似たひとにまれに会うと
違和感なさすぎて
普通に感じるけど
ほんとは普通じゃない。
すごい幸運。

逆に合わないひとは
げんなりするけど
それは普通のこと。
とくに騒ぐことじゃない。

幸運をありがたがらず、
普通のことを悲しむ
わたしがすこしでも
成長できますように。

クリスマスローズの小径。

クリスマスローズの小径。

こびとのクマが
クリスマスローズの花影に
腰をおろした。

ハンカチで包んだ
アプリコットを取り出した。
アプリコットと
春の土が薫った。

クマも花もアプリコットも
土の上の生命だった。

クマはともだちに
手紙を書いた。

きみの土の上は
どんな薫りがしますか?

作品という風そよぐ庭に。

作品という風そよぐ庭に。

40年くらい前
ある団地の建て替えの際に
母が団地のひとから
無くなってしまう花壇の
この花の株をもらった。

今日も庭で新しい花を咲かせ
風にそよいでいた。

わたしも作品の中に
なくなってしまうものを
植えたい。
なかったことになってしまうものを
植えたい。

作品という
永遠に風そよぐ庭に。

すみれヶ丘/すみれヶ丘組曲のオーダー開始いたしました。

すみれヶ丘/すみれヶ丘組曲のオーダー開始いたしました。



いつまでも
ひんやりとした
春の方が好きなひとへ。

BOOK「すみれヶ丘」+
CD「すみれヶ丘組曲」

をウェブショップに
追加しました。

24ページのことばの本と
8曲入りのCD
ひんやりした小品です。

ずっと早春の
すみれヶ丘へ。

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うみ。

うみ。

うみのちかくに
パステルのうみをつくる。

弦で石の広場が鳴った。

弦で石の広場が鳴った。

夢を見た。
外国の半島のちいさな村で
暮らしていた。
朝の教会の鐘の音が
海に散らばった。
広場でお祭りの準備。
オーケストラが演奏する
木の舞台に添えらた菫。
そうだ、ここは
ワーグナーの別荘の近くだった。
楽団が到着した。
調弦がはじまった。
弦で石の広場が鳴った。
海が黙った。

土の上のうた。

土の上のうた。

土の上のうた

土の上のうたが言った。
ぼくは、土の上のうただから
花束やお洒落なお部屋の
花みたいじゃなくて
雨にうたれたり
どろがついたりする
あまり見栄えのいい
うたではないんだ。

でも、
もしきみが
土の上のきみなら
ぼくたち
地続きだね。

花のベッド。

花のベッド。

クマは毎日
花のベッドで
ねむり
花のベッドで
目が覚めた。
花は
こんもりと
ふかふかとしていた。

クマは
悲しい日
花のベッドで泣きながら
ねむり
嬉しい日
花のベッドで微笑みながら
ねむった。