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2021年1月の記事一覧

神秘的な混沌に出会いたい。

神秘的な混沌に出会いたい。

ギターを弾いていると
わけのわからない
新鮮で神秘的な音の重なりに
出会うことがある。
ユールという曲が特にそう。
今回のすみれヶ丘組曲の
ずっと早春の丘で、といううたの
ひとつめのコードもそう。
ものをつくるのは
言葉で言える正解が
欲しいのではなく
神秘的な混沌に出会いたいから。

すみれヶ丘/すみれヶ丘組曲

すみれヶ丘/すみれヶ丘組曲

すみれヶ丘はいつも早春で
すみれヶ丘に住むひとたちは
繊細な色の花と一緒に
ひんやりと暮らしている。

「すみれヶ丘」より

おれはね、バカみたいにあきらめないんだよ。

おれはね、バカみたいにあきらめないんだよ。

キツネは思った。

人気のある美容師さんほど
そのひとの好みを
しっかり聞いて
対話をたくさんするそう。

おれに才能があるかとか
おれのプライドとかセンスとか
どうでもいい。

おれはね、
バカみたいにあきらめないんだよ。
みっともなく懸命なんだ。
きみが喜んでくれたら
どんなにいいだろう。

傷つき豊かに深まってゆく。

傷つき豊かに深まってゆく。

何があっても
生きてゆくには
どうすればいいの?
子ぐまが訊いた。
クマが答えた。

風にそよぐ。

揺らがなすぎると折れてしまう。
きみのひとつひとつすべてが
正解でなくていい。
誤りですら君をつくる。

ひとつひとつが否定されても
きみはなくならない。
きみは傷つき豊かに
深まってゆく。

自分で身体をあたためて。

自分で身体をあたためて。

バーミキュラで
残っていた食材を無水で
ポトフ的に煮込んだ。

オリーブオイルもコンソメも
にんにくも入れない。
けれど
ほんとうに野菜のあまみが
出るんだな。

コトコト60分ほど煮た。

料理は戦闘態勢を
整えているような
気がする。

なにがあっても
自分で身体をあたためて
負けない。

生き続けるために夢を見る。

生き続けるために夢を見る。

以前、ウィルスで、ある地域が
壊滅的になる小説を読んだ。
救助部隊は
病院でひとりだけ生き残っていた
男の子を見つける。

彼はバレエが好きで
自分で二幕目を考えていた。
そのことを強く考えていた。

幻想は逃げ場所?
ちがう。
わたしたちは
生きるために夢を見る。
心身の免疫をフルに上げて。

それとは別に。たゆまずに。

それとは別に。たゆまずに。

さて。
クマは思った。
現状はきわめて厳しい。
自分もあまりにも不完全。
憂鬱がぐんぐん加速して
押しつぶされそう。
さて。
それとは別に。
新しいうたと本のことをしよう。
美味しく美しいお料理のことをしよう。
暖かく心地よい部屋のことをしよう。
たゆまずに。
たゆまずに。
それとは別に。

まじめに取り組むために、しっかり逃げる。

まじめに取り組むために、しっかり逃げる。

#お洒落なオカマのキツネ
子ぐまに言った。
おいしいものを毎日食べたら
美味しくなくなる。
まじめに生きることは
たまにふまじめになること。
自分に向き合うことは
たまに自分から逃げること。
まじめすぎることって
もはや悪しき信仰ね。
まじめに取り組むために
あたしらしっかり逃げるの。

海には空が含まれている。

海には空が含まれている。

クマが
落ち込む子ぐまに言った。

海には空が含まれている。
冬には春が含まれている。
夜には朝が含まれている。
絶望には手がかりが
正解には矛盾が
美しさにはいびつさが
含まれている。

きみはいつも多元的さ。
絶望一色じゃない。

そしてすべての表現は
この複雑さから生まれる。
素敵だろ?

不幸というおいしいとこをお料理する。

不幸というおいしいとこをお料理する。

ある漫画家さんが
吃音だったから相手の反応を
細かく見る癖がついて
漫画を描くのに役だった
と言ってた。
わたしはぜんそくだから
囁き声でうたうのかな。
両親にも社会にもいいことも
そうでないこともされてきた。
わたしの〝おいしい〟とこ。
ぜんぶ無駄なく
ロマンティックな作品に
お料理する。

いかにたくましくお洒落しようとしてたか。

いかにたくましくお洒落しようとしてたか。

なにをお祈りしたの?
子ぐまが訊いた。 #お洒落なオカマのキツネ
答えた。
なにひとつうまくいかなくても
どんなにだめでも
たくましく、しぶくとく
生きていけますようにって。
状況がいかに最悪かとか
どうでもいいの。
そこであたしが
いかにたくましく
お洒落しようとしてたかが
重要なの。

暗がりのベリー。

暗がりのベリー。

暗がりのベリー。

明け方だった。
もうだめだ、ときみ。
暗がりでミックスベリーを
どさっとあけて
秘密のヨーグルトソースを
つくってそえた。

ベリーたちは
新しい大地みたいでしょ?
仲の良すぎる惑星群みたいでしょ?

きみは無視して
泣きながら食べて
口が赤いままで
眠ってしまった。

欠落を埋めているだけ。

欠落を埋めているだけ。

母が以前作っていた
おせちの写真を見ながらつくった。

母がお料理をあまりしなく
なったからといって
簡単に済ませるわけには
行かなかった。
ただの負けず嫌い。

黒豆が優しい味にできた。
お雑煮には
菜の花と手毬麩。

手毬麩は父が
探し回ってくれた。
母が以前入れていたから。