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短いおはなし7

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2020年10月の記事一覧

つづく海。

つづく海。

いろいろなことはあるけれど
うたや写真をつくりながら探すことは
自分の海を探すようなことで。
それが、不幸か幸福なことかは
よくわからないけれど
ひとまず、不幸も幸福もあまり
それには関係なくて、まして社会も関係ない。
海は寒く曇っていて誰もいない。
胸の奥がきゅっと締めつけられる。

おそらくその海は
いのちが終わっても続いている。
魂はその海にひもづくひとつの波しぶき
のようなもの。
だから一

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表現は償いと憧れかな。

表現は償いと憧れかな。

きつねは思った。
まったくきれいにお洒落に
暮らせていない。
こころもきれいじゃない。
自分も世の中も
きれいでないところばかり
目につく。
そうするときれいな
写真を撮りたくなる。
きれいにお洒落に暮らしている
ひとはきれいな写真は
要らないだろうな。
表現は償いと憧れかな。

結局、可愛いいんじゃん。

結局、可愛いいんじゃん。

うさぎの女の子は思った。
あたし、まじめに働いて可愛いいな。
たまに失敗するとこも可愛いい。
お料理下手なのに
お料理が好きで
音痴なのに
うたうのが好きなとこも
可愛いい。
人生うまくいかないとこも
可愛いいし
あんまり可愛くないとことか
特に可愛いい。
なんだ、結局可愛いいんじゃん。

それまで未来の話しを。

それまで未来の話しを。

ちいさな弟が言った。
もう逃げるのは疲れたよ。
ちいさな兄が言った。
今日はここで眠ろう。
それまで未来の話しをしょう。
ぼくはね、次の町でパン屋を開くよ。
プチプチ、音のする焼きたてパンを
毎朝お店に並べるんだ。
雨がつよくなった。
ちいさな弟はパンのたてる音を
聴きながら眠りについた。

世界のはじまりは何?

世界のはじまりは何?

世界のはじまりは何?

子ぐまが訊いた。
クマが答えた。

つめたいピンクの花びらさ。

それはやがて指を染め
人形を染める。
そして男の子の
悲しいこころを染め
男の子がうたううたを染める。
悲しい男の子のうたから
世界が生まれる。
つめたいピンクに染まった
いちにちが毎日生まれる。

ひととおり泣いたあと。

ひととおり泣いたあと。

きつねは
ひととおり泣いたあと
昨夜つくったボルシチを
あたためて、サワークリームを
多めに盛った。
きつねは
ひととおり絶望したあと
ゆず湯であたたまり
磨きたての美しい排水溝をみて
うっとりとした。
きつねは
ひととおり嫉妬したあと
自分だけのしんとした
幸せをしんしんと味わった。

だめ日にはだめの日のテンポがある。

だめ日にはだめの日のテンポがある。

うさぎが花の向こうから言った。
だめな日にはだめな日の
テンポがある。
足の良くないひとには
足の良くないひとの
テンポがある。
おっちょこちょいには
おっちょこちょいの
テンポがある。
さ、あなたも、あきらめて
あなたのテンポで
あなたのうたを
うたうように
今日をよい日に
できますように。

その不幸は、あんたのすべてじゃない。

その不幸は、あんたのすべてじゃない。

落ち込んだ子ぐまに #お洒落なオカマのキツネ が言った。
しくじりとか、
見かけとか、性格とか、
不幸とか不評とかあるじゃない?
そういうの
あんたのすべてじゃないのよね。
それを凌駕する別のなにかを
あるいは、
そこをフックにする力を
あんたは持ってる。
なんでもいいから
前に進みなさいな。

正解か間違いかわからずにがむしゃらに。

正解か間違いかわからずにがむしゃらに。

きつねはがむしゃらに
働いた。
正解か間違いかわからなかった。
損か得かわからなかった。
かっこよくもなく
素敵でもなかった。
毎日疲れてやっと生きていた。
音楽も本も読みたくなかった。
眠る前に
好きなひとのことをすこし考えた。
10月のすべての星座を
雨雲が冷たく磨いた。

空き巣が狙うほど。

空き巣が狙うほど。

ある町にマイペースで
気の利かない夫がいた。

ある日妻が入院した。

夫は仕事帰りに
毎日病院に行き
夕飯を一緒に食べた。

毎日家に帰るのが
遅くなった。

ある日空き巣が窓の鍵を
壊そうとした痕跡があった。

空き巣が狙うほど
夫は毎日病院に通った。

八百屋の花。

八百屋の花。

ある町に母と子が暮らしていた。
子はこころを閉ざし、
母はあたまもよくなく
仕事も忙しく途方に暮れていた。
ただ八百屋で買い物をして
八百屋の素朴な花を買うだけだった。
やがて子は家を出た。
いまでもほとんどやりとりはない。
ただ子は、
八百屋で買い物して
八百屋の素朴な花を買っていた。

さ、今日もドジな自分に気をつけながら。

さ、今日もドジな自分に気をつけながら。

きつねは自分に挨拶した。

おはよう。
さ、今日もドジな自分に
気をつけながら、
がんばろぜ。

おれは、可哀想なきつねかな?

おれは、可哀想なきつねかな?

どん底のきつねは思った。

これは不幸や悲劇かな?

いや、
起こりえたはずの
ただの現状さ。

おれは、可哀想なきつねかな。

いや、おれは、
ではどうしようかな
と、取り組むきつねさ。

どんなときも
花を飾って
あたたかい食べ物を
作るきつねさ。

そしてまた明日
すこしだけ良くなるきつねさ。

その野原で、きっと。

その野原で、きっと。

クマが子ぐまに言った。

野原のように花をいけて
野原のように料理をつくり
野原のような写真を撮り
野原のような本をつくり
そして
野原のように
うたをうたうといいよ。

ジャンルよりも
自分の原風景を
慎ましく信仰するのさ。

そうしていたら
きっと
その野原で
なかよくなるひとと
会えるよ。