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短いおはなし7

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2018年5月の記事一覧

あきらめた後に残るもの。

あきらめた後に残るもの。



‪子ぐまが聞いた。自信を持って自分らしく、ってできないんだ。クマが答えた。自信を持つ必要無いよ。自分らしくするのに無理するなんて変だろ。自分をあきらめるのさ。やっぱりダメなところはだめだな、でも、やっぱりこれだけは好きだな。やっぱりあの子が好きだな。あきらめた後に残るのがきみだよ。‬

いいことは、あんたになくても。

いいことは、あんたになくても。



子ぐまが言った。なにもいいことがないよ。オカマのキツネが言った。わたしの好きな彫刻はね、テレーザの法悦。嘆く娘を天使が笑いながら刺そうとしてる。見た時ね、なぜかよっしゃ生きようと思ったわ。いいことは、あんたに無くても世界にはある。そしてあんたを待っている。#お洒落なオカマのキツネ

理不尽な美しい音楽。

理不尽な美しい音楽。



‪アライグマが言った。あんたまさか自分が正しいのに認められない、努力してるのにうまくいかないなんて思ってないよな。知ってると思うけど現実は相当理不尽だ。だからこっちはその倍の理不尽な美しい理想と幻想と音楽で立ち向かう。あんたのこころの空き地に、びっしりと季節の花を咲かせながら。‬

花はことばなんて話していない。

花はことばなんて話していない。



花はなんて言ってる?キツネが聞いた。オカマのキツネが答えた。花はことばなんて話してないわ。しみったれたあんたの血管に真っ赤な血をドクドク注いでんの。あんたは世界の美しさを毎日輸血されて生きてんの。おかげであんたはわりとしぶといってわけ。#お洒落なオカマのキツネ

搭乗時間までずっと。

搭乗時間までずっと。



ゲンズブールの回顧展でこのレコードを買った。嵐の空のような美しいストリングスとヒップなスネア。囁くポエトリーリーディング。こんなに素晴らしいものの足元でわたしの失敗は失敗ですらない。試して生きて死ぬ。シャルルドゴール空港のソファで、搭乗時間までずっと、このジャケットを見ていた。

これを本と呼んでいいのか。

これを本と呼んでいいのか。



これを本と呼んでいいのか、と書いてくれた女の子がいて嬉しかった。本をつくるつもりなんてなくて、写真と言葉をうまくまとめるつもりなんてなくて、あなたのともだちをつくりたかった。眠る前に隣にいるだけで気持ちが落ち着く、光の手触り豊かなともだち。わたしが切実に必要としていたもの。

薔薇園。

薔薇園。

これ。と男の子は不器用にくるまれた包みを女の子に渡した。包みの中身は夜明けの薔薇園だった。よわい雨の日のお散歩がおすすめ。棘が美しいから。2人は結婚し年老いた。女の子は亡くなる間際にベッドサイドの薔薇園を見ながら男の子に言った。今日は雨ね。棘が美しいわ。

生のダイナミズム。

生のダイナミズム。



出会う。失う。泣く。食べる。笑う。うたう。出会う。

生のダイナミズム。

スピーカーから。

スピーカーから。

‪世界のどこかの町の公共スピーカーからは、明け方に、詩がささやかれる。おとといはマラルメで、昨日はネルーダだった。町のひとびとはベッドのまどろみの中で、黙って詩に耳を傾けた。それは今日という日を詩によってきれいに整えなおす時間だった。今日、未明、織りなす絹の空が詩を待っている。‬

生まれたての夜明けで指が染まる。

生まれたての夜明けで指が染まる。

‪子ぐまが聞いた。庭は手入れが大変じゃないの?クマが聞いた。大変?こんなにたくさんのものをくれるのに?さまよいがちな魂を繰り返し地に根付かせてくれるのに?咲きかけの紫陽花から生まれたばかりの夜明けで、指が複雑な青に染まるのに?‬

きれいなものは無縁。

きれいなものは無縁。



‪「お洒落なオカマのキツネが子ぐまに言った。あんたまさか、きれいなものを見て自分とは無縁なんてあきらめてない?花を咲かす土は、枯葉と鶏糞と生ゴミを発酵、培養させた土でできてんの。あんたのどろどろの土はきっといい花が咲くわ。いつかその花の下で休ませてね。」‬
‪#お洒落なオカマのキツネ‬

そら豆。

そら豆。

幸福と不幸がひとつ屋根の下で同居していた。幸福は時に不幸のタオルケットをかけなおし、不幸は時に幸福の苦い薬になった。幸福はそら豆をゆでた。不幸はテーブルに美しいドライフラワーを飾った。長い一日だった。明日もがんばらないといけない。幸福と不幸は、花を見ながら黙ってそら豆を食べた。

どさっと生けるように。

どさっと生けるように。



キツネはプレゼントする花束と一緒に自分の花束もつくってもらった。こんな緑がそよぐような花束があるなんて知らなかった。背が高く太い花器にどさっと生けた。そよぐ緑の花束を大きな花器にどさっと生けるようなうたをうたいながら、どさっと生けるように生きていきたい、と思った。‬
‪#jiheiflower‬

写真も言葉も旅も君も。

写真も言葉も旅も君も。



‪写真も言葉も旅も君も好きじゃない。クルマを借りて北フランスを南下。サンマロから列車でパリへ。くたくた。うとうと。夕方の雨。途中の駅。見送りの婦人。カメラを取り出す。物語を考える。写真も言葉も旅も君も好きじゃない。好きなんて悠長な話。ただ切実に必要なだけ。なくてはならないだけ。‬