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短いおはなし7

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2018年2月の記事一覧

ただそれだけの。

ただそれだけの。

生けていた花が終わるころ、ドライフラワーにするために吊るす。ドライになったら朝日をあてて眺める。色を閉じ込めたかわいた花が朝日にあたっているのを眺める。ただそれだけの人生。ただそれだけの。

花はさよならとしか言ってない。

花はさよならとしか言ってない。

‪庭の紅梅。‬
‪ねえ、花はさよなら、‬
‪としか言ってない。‬
‪私はきれい、としか言えない。‬
‪生きるって‬
‪きれいとさよならだけ。‬
‪激しいきれいとさよならだけ。‬
‪悲しいほど楽しいよ。‬

‪#ガーデニング‬

ボク、正常じゃないのかな?

ボク、正常じゃないのかな?



子ぐまが言った。頭の中が鳴り止まなくて落ち着かない。ボク、正常じゃないのかな?クマが言った。正常じゃないかもね。でも生きるってカラスにつつかれながら足をひきづって美しい紅梅の下で踊ることだし、朝風呂の中で思い出し笑いしながら新しい鼻歌を作曲することだから、正常って特に必要ないよ。

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生活を整えることは、憑き物を落とすための儀式。

生活を整えることは、憑き物を落とすための儀式。



‪キツネが言った。生きていると増えてくるんだ。無駄なプライド。無駄な執着。無駄な保身。クマが言った。テーブルに花をいくつか生けて何日か毎に水を取り替えるといいよ。茎と花瓶のぬめりを取って、太い枝には十字を入れる。茎は少し詰めてゆく。疲れた花は間引く。君の憑き物も落ちるよ。きっと。‬生活を整えることは、憑き物を落とすための儀式さ。

朝早く起きてどこまで行った?何を見た?

朝早く起きてどこまで行った?何を見た?



‪キツネが言った。ストラスブールの駅を朝早く発つローカル線に乗って、北フランスの田舎町を巡ったことがある。ねえ、君は朝早く起きて、どこまで行った?なにを見た?いつか聞かせて欲しいな。他の話にはあまり興味がないんだ。‬

そんなことより。

そんなことより。



キツネが言った。ねえ、そんなことより冬のペール・ラシューズ墓地を散歩しようよ。ピアフ、ワイルド、ドラクロア、モディリアニ、マリア・カラス、ジム・モリソン、ショパン。ショパンの心臓だけはワルシャワさ。ショパンの心臓のあった場所を何で埋めればいいか考えようよ。そんなことよりさ。

ムスカリにインタビュー。

ムスカリにインタビュー。



‪クマがムスカリにインタビューした。今日はどんな日だった?すこし背が伸びた。将来なりたいものは?野原。影響を受けたものは?木漏れ日。劣等感は?咲くのに忙しくて。寂しさは?必要。生きる意味と価値は?あまり必要ない。冬に眠り春に咲くだけ。‬

みんなそんなに上手くお洒落に生きてるの?

みんなそんなに上手くお洒落に生きてるの?



‪子ぐまが聞いた。みんなそんなに上手くお洒落に生きてるの?ねこが寝ながら否定した。うんにゃ、そんな訳ないね。みんなきっと体調の悪い週末、返却予定のブルーレイがデッキから出て来なくて、ツタヤにしぶしぶ言うのさ。溺れるナイフが出てきません、延滞金はかかりますか?って。みんな言ってるね。‬

ただ黙って。

ただ黙って。



クマの授業がはじまった。クマの先生が言った。今日は花びらのカーブについて考えます。そう言ったまま先生はもうひとことも喋らなかった。教室の子ぐまたちもひとことも喋らなかった。みんなで黙ってただ花びらのカープのことを考えた。

ちくしょうと思いながら花を生けた。

ちくしょうと思いながら花を生けた。



‪キツネは部屋に散らばった自分をながめた。やっぱりうまくいかなかった。かっこつかなかった。結局、いつも自分はこうだ。キツネはさんざんそう思ったあと、しかたなく散らばった自分を拾い集めた。丁寧に磨いてくっつけて、床も掃除して、テーブルに花を生けた。ちくしょうと思いながら花を生けた。‬

好きが芽生える場所。

好きが芽生える場所。

‪子ぐまが言った。ぼくは、完璧じゃないし、かっこよくないし、誰にも好かれないよ。クマが言った。好きってなぜ好きっていうか知ってるかい?すき間に芽生えるからさ。どうしようもなく芽生えてしまう。必ずしも完璧や正解に芽生えるわけじゃない。君のすき間でひと休みしたい誰かがいるよ、きっとね。‬

雨の音。

雨の音。

‪リスの老夫婦が、森の家のベッドで屋根にあたる雨の音を聞いていた。おばあさんリスが言った。わたし、雨の音が好きよ。物語をめくるようだもの。おじいさんリスはもう夢を見ていた。ピンク色の花の下で雨宿りをしている夢。見上げる花の隙間からおばあさんリスの声がした。物語をめくるようだもの。‬

どうしてもあるもの。

どうしてもあるもの。



‪祖父は着物の模様絵師だったけれど、私は着物がすごく好きというわけではない。ただ、写真などで着物がラフにあつかわれていると悲しくなる。海のそばに住んでいるけれど、かなり海にはいかない。ただ、東京にいると海が遠いと感じる。どうしてもあるもので表現したい。そういうものに出会いたい。‬