マガジンのカバー画像

短いおはなし7

1,035
運営しているクリエイター

2018年1月の記事一覧

誰が嫌っているかわかった。



‪キツネは最近、部屋をよく掃除して、よく磨く。花が言った。どうしたの?キツネが答えた。誰かに嫌われて、見放され続けてるような気が、ずっとしてた。それが誰か、わかったんだ。自分だった。だから、自分に嫌われないようにコツコツ生活を磨いてるのさ。窓辺で花のつぼみが、色づきながら灯った。‬

箱の町。

箱の町。



‪小さな箱を大事にしている男の子がいた。どんな目に遭っても誰にも見せなかった。箱の中には町があった。赤レンガの駅で汽車が休み、湖のほとりでシクラメンが開いた。リスがピアノを調律し、ねこが郵便配達をさぼっていた。家々の煙突から食事の湯気がのぼった。男の子は時々そっと町の様子を眺めた。‬

今魔法を使うのは。

今魔法を使うのは。

#魔女の帰郷 「以前、魔法をさんざん使ってわかった。魔法では自分をかたちづくれない。時間をかける、失敗する、傷つく、もがく、あがく、愚直に孤独を磨く、花を生ける、少し夢みる。そうやって自分がかたちづくられてゆくのはとても気持ちがいい。今、魔法を使うのは蝋燭の灯を着ける時くらい。」

お取り扱い書店さま。



眠る前になでる本。光に透ける魔法付き。は現在、東京、神奈川、浜松、名古屋、大阪、京都、神戸、広島、長野、群馬の上記店舗様でお取り扱いがございます。事前にお問い合わせいただくと確実かと思います。もう諦めてしまおう。諦めることを。

庭にはなにがあるの?

庭にはなにがあるの?



‪子ぐまが聞いた。庭にはなにがあるの?思うように咲かないこともあるし、咲いてもいつか枯れる、次にまた咲くっていう約束もない。クマが答えた。祈りがある。花と緑と共にありますように、という祈りを胸に、祈りを咲かせる。だからね、冬の土からの芽吹きがプレゼントみたいにうれしいのさ。‬

老人たちのダンス。

老人たちのダンス。


#冬の辺境の冬の旅人 雪の修道院のようなところで、老人たちは大笑いしながら、自分たちの失敗、失恋、喪失の話しをした。なぜか、サルサがかかっていた。旅人はたいした話がなくて恥ずかしくなった。音楽が甘いソンに変わると老人たちはゆっくりとペアでダンスをした。ねこもペアでダンスをした。

老人たち。

老人たち。



‪#冬の辺境の冬の旅人 湖の近くの修道院のような所で、大勢の老人たちが朝食を美味しそうに食べていた。旅人は聞いた。あの、みなさん、失敗とか、失恋とか、喪失とか、ありましたか?老人たちが端から答えた。あるよ。あるわ。あるね。そりゃもう。最後には端にいるねこまでが言った。ありすぎるわ。‬

背表紙の触れる指の感触。

背表紙の触れる指の感触。



‪クマが女の子に言った。プレゼント。目を閉じて布地の背表紙を指で触ってみて。なにか物語の名前が書いてある。それを指で触るとき、思い浮かぶ物語が、僕のプレゼント。目を閉じて本の背表紙の文字に触った、指の感触からはじまるきみのつくったお話を、どうかいつまでも聞いていられますように。‬

何度目かのハンカチ。

何度目かのハンカチ。



僕は絶対に損わない?子ぐまが聞いた。クマが答えた。いや、損う。君は誤り、損ない、汚れる。そして、君はやり直す。洗い、乾かし、アイロンをかけた何度目かのハンカチのように。ひとが絶対ならこの世に教会も毎日のお祈りも必要ない。ちなみに僕は新品より何度目かのハンカチの方が好きだよ。

うるむ灯りのほんのひと粒。

うるむ灯りのほんのひと粒。



老クマの夫婦は夕暮れに、海と岸辺の灯りを見に来た。ふたりの人生には人並みに色々なことが起こった。けれどもそれは、たえまなく美しい波が寄せる岸辺にうるむ灯りのほんのひと粒だった。明日も空は澄み、波は寄せ、夕暮れに灯りがうるむだろう。老クマの夫婦は手をつないで灯りの方へ帰って行った。

棘が胸を深く刺した。

棘が胸を深く刺した。


#冬の辺境の冬の旅人 古い魔法使いを訪ねた。彼は、古い書斎でギターを弾きはじめた。水音がした。舟にいた。暗い川面に光が震えた。胸の中で樹々が茂り、風が梳かした。樹の根元にせつない薔薇が咲き、棘が胸を深く刺した。ギターがやんだ。涙がひんやりと掌にあった。

身体も心もこんなに複雑なのに、どうして壊れないことが普通なのだろう。

身体も心もこんなに複雑なのに、どうして壊れないことが普通なのだろう。



‪男は家族を病院に連れて行き帰りに花を買って帰った。男は猫を病院に連れて行き帰りに花を買って帰った。男は自分を病院に連れて行き帰りに花を買って帰った。身体も心もこんなに複雑なのに、どうして壊れないことが普通なのだろう。男は愛しさを胸に、できる範囲で、家族を人生を大事に介抱した。‬

そしてある日。

そしてある日。

キツネは方々の窓口で言われた。あなたは間違っている。あなたは求められていない。あなたの期限は切れている。キツネは思った。ま、そうかも。でもね、おれは何度でもこの散らかった部屋をかたす。何度しくじっても誠実に仕事する。きりなく夢を見る。そしてある日、気の合う花屋さんに出会うのさ。

枯れた青い花。

枯れた青い花。



‪#冬の辺境の冬の旅人 旅人は冬の辺境を巡り、コヤを取り出して眠った。そよぐオーロラの足元で。蛇行しながら全部凍りついた川のほとりで。冬の動物が駆ける森の奥底で。コヤのテーブルにはいつも枯れた青い花を置いていた。遠い遠い昔もらった花。それを見ると旅人は気持ちが落ち着いた。‬