京都いい街楽しい街

京都はすごくいい街だ。

小学生の頃、初めて清水寺に足を運んだ。その頃の京都に対する印象は、日本の和が存分に楽しめる場所、という感じだった。清水寺に続く坂道には和菓子や伝統的な織物の店、そば屋などがずらりと並び、これぞ日本というような感じがした。小学生の私がそれらに趣を感じるには、まだ幼すぎたので特別に感動するようなこともなかった気がする。


それからしばらく経ち、2年前の秋、奈良県にある長谷寺という所に気まぐれに足を運んだ。その日は暇だったので、片道一時間くらいでいける静かな場所に行きたいと探したら長谷寺が出てきたので行っただけだ。しかし、実際に見てみるとその佇まいに終始圧倒されてしまった。境内の長い階段とそれを覆う木造りの屋根。本堂まで登ると、美しい山々と色づいた紅葉が見事だった。

そんな寺の美しさに魅了されて、何か記念品を持って帰りたいと思った。長谷寺は西国三十三所と呼ばれる寺の一つだった。御朱印帳を購入し、複数ある御朱印の中から西国三十三所の御朱印を選択した。300円の心づけを払って、自分の御朱印帳に筆でスラスラと御朱印がデザインされていくのが、なんだかとても楽しく思えてしまった。

そこから、せっかくなら、と気長に西国三十三所すべてをまわろうと決めた。

私の自宅がある大阪府内の寺を順番にまわり、次に奈良県の寺をすべて回った。西国三十三所に選ばれるだけあってか、どれも本当に素晴らしい寺だった。

次に行く場所決めるべく地図を眺めてみると、どうやら清水寺も西国三十三所の一つらしいことが分かった。しかも、清水寺のあたりには西国三十三所のうち5つの寺が集まっていた。ボーナスポイントじゃないか。

昨年の夏、清水寺に久しぶりに足を運ぶことにした。京都駅で降りて1時間弱歩くと清水寺周辺まで歩くことができた。清水寺に続く坂道、和菓子の店、織物の店。概ね、小学生の頃の記憶と同じ景色が広がっており、懐かしい気持ちになった。

しかし、何故だろう。同じ景色のはずなのだが、その時の私はとてもワクワクしていた。

このお店は一体いつから続いていて、どんなお客さんが来るのだろうか。

清水の舞台は当時どうやって組まれていったのだろうか。

小学生の頃には見えなかった、感じられなかったたくさんのものを受け取って私は観光というものの楽しさを初めて知ったような気分になった。

その後は鴨川、河原町のあたりの散策にあたったが、京都の街というのは実に面白かった。

今まで京都に対しては伝統的な和のイメージしかなかったのだが、河原町にはお洒落な洋風の店がズラリと並んでいる。かと思えば従来のイメージ通り、歴史を物語るような店構えもたくさん見られる。まさに新旧が一体となった街並みなのである。

東京でいえば新宿などもそのような趣がある場所だが、この新旧の一体感を求めて日本旅行に来るという海外の方もたくさんいるらしい。なるほど。これは確かに面白いものだ。

京都の街の良さを満喫したその日の後も、京都に何度か足を運んだ。ある日は鴨川を散歩し、ある日は気になったパン屋に足を運んだ。普段パン屋などには足を運ばないせいか名も知らぬようなパンが整然と、しかし実に華やかに陳列された店内は、その空間にいること自体がとても満足のいく経験の一つになった。言うまでもなく、買ったパンはどれも美味しかった。


一度足を運んだことのある場所。でも、さほど印象には残っていない場所。

今後、未踏の地に行くのも良いが、歳を重ねた今だからこそわかる良さを味わいにもう一度、懐かしの地に赴いていきたいと思う。


神の恵み